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死に戻り勇者、軌跡を辿る
今後について
しおりを挟む宿に着き、俺は受付で部屋を借りることに。前世も利用していたので、どういう場所かはよくわかっている。
ここは、この国の宿の中では結構でかい。というのも、隣に冒険者ギルドがあるため、冒険者がよく利用するのだ。客足が多く、そのため建物も大きくなった。
大きな宿ではあるのに、他の宿よりも安いその理由は……他の宿よりも、豪華さでは劣るからだ。他の宿の方が、いい部屋が揃ってたり、食事もいいものを提供してくれる。
だが、ここをよく利用する冒険者は安く済ませたい。そのため、多少段階が落ちても文句はないというわけだ。
「ふぅ……疲れたぁ」
ゆえに貴族なんかは許せないのか、あまり利用されない。田舎からやって来た俺にとっては、全然許せるレベルだ。ベッドもあるし、朝昼晩の食事付きだなんて。
ベッドに寝転がり、天井を見上げる。今日は、いろいろなことがあったな。
いくら前世の記憶が残っており二度目の体験であるとはいえ、この体で経験するのは初めてだ。村から出てきて、国に来て……国王に会って、仲間たちに会って……
「明日から、か」
前世の展開だと、この日から数日、ゲルドの家に厄介になる。しかし、今回はその展開はなぞっていない。
どのみち数日したらゲルドの家を飛び出すわけだし、住む場所が違うだけで、大まかな流れは変わらないだろう。
「三年後……旅に出て……魔王を倒して……それから……」
明日から、本格的な訓練が始まる。今回とは前世と違い、鍛えているとはいえ、それでも訓練は厳しいものになるだろう。なんせ、ゲルドやドーマスさんが、直接戦い方を教えてくれるのだから。
そのおかげで、俺は強くなれた。今回は、前世よりも体の基礎が仕上がっている分、前世よりも強くなれるはずだ。
ただ問題は、俺の強さがどうなるか、ではない。前世で俺が死ぬのは、俺の強さが問題だから、ではないからだ。
「……俺が死ぬのは、ゲルドに殺されるから。それは、ゲルドに指示した王子の思惑で、か」
三年後、国を出て旅に出る。そして、一年の時間をかけて、この国に戻ってくるのだ。
行きは結構時間がかかったが、魔王を討ち倒せば、魔族や魔物は消えるので、帰りは思いの外楽だった。そして、帰った後に、俺は知るのだ。
この国を出てから四年、その間に、国王ザラドーラ・マ・ファルマーは死去してしまう。そして、次期国王として、跡を継ぐのが息子である、ジャラード・マ・ファルマーだ。
あいつは、次期国王だが俺たちが帰ったときには、まだ王子という立場でもあった。
「で、そいつのせいで、ゲルドは俺が殺す、か」
賢明で、平民の俺にも良くしてくれた国王とは違い、王子は貴族主義者だ。その上臆病者で、魔王を討ち倒すほどの力をつけた俺を、危惧して始末しようと考える。
俺を殺したのは王子の指示によるものとはいえ、ゲルドが四年を共にした俺より、王子の命を取ったのはショックだが……まあ、仕方ない。なんせ王子の命令だ。
「だからって、今度も殺されてたまるか」
俺は、仲間に殺される運命を変えるために、これから動かなければならない。
とはいえ、俺が旅に出て、魔王を倒さないと世界が滅ぶのは確か。俺にできるのは、旅から帰ってからの動きを変えること、だ。
「国王の死は、止められない。ゲルドがなんで王子の言うことを聞くかも、わからない。だったら……」
あの惨劇を回避するには、俺が旅から帰った後、王の間へと行かなければいい。
あの時、ドーマスさんとミランシェ、それにリリーは諸事情で別の場所に行った。ドーマスさんは家族の所に帰ったとか、そういうことだろう。
そのため、あの場にはシャリーディアしか俺の味方はいなかった。ドーマスさんは、絶対に止めようとしてくれただろう。
どのみち、ゲルドに急所を刺されては、助からなかったが。
「俺は……この国を出たほうが、いいのか?」
王の間へ行かなかったとして。その後も、命を狙われない確証はない。むしろ、王の間での惨劇が起きなければ、以降の動きは未知だ。
それなら……旅から帰ったと同時に、この国を出たほうが、いいのかもしれない。命を狙われないところにまで、行くしかないかもしれない。
そう、今後のことを考えながら……いつの間にか、俺は眠りについていた。
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