死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

文字の大きさ
22 / 263
死に戻り勇者、軌跡を辿る

今後について

しおりを挟む


 宿に着き、俺は受付で部屋を借りることに。前世も利用していたので、どういう場所かはよくわかっている。

 ここは、この国の宿の中では結構でかい。というのも、隣に冒険者ギルドがあるため、冒険者がよく利用するのだ。客足が多く、そのため建物も大きくなった。

 大きな宿ではあるのに、他の宿よりも安いその理由は……他の宿よりも、豪華さでは劣るからだ。他の宿の方が、いい部屋が揃ってたり、食事もいいものを提供してくれる。

 だが、ここをよく利用する冒険者は安く済ませたい。そのため、多少段階が落ちても文句はないというわけだ。


「ふぅ……疲れたぁ」


 ゆえに貴族なんかは許せないのか、あまり利用されない。田舎からやって来た俺にとっては、全然許せるレベルだ。ベッドもあるし、朝昼晩の食事付きだなんて。

 ベッドに寝転がり、天井を見上げる。今日は、いろいろなことがあったな。

 いくら前世の記憶が残っており二度目の体験であるとはいえ、この体で経験するのは初めてだ。村から出てきて、国に来て……国王に会って、仲間たちに会って……


「明日から、か」


 前世の展開だと、この日から数日、ゲルドの家に厄介になる。しかし、今回はその展開はなぞっていない。

 どのみち数日したらゲルドの家を飛び出すわけだし、住む場所が違うだけで、大まかな流れは変わらないだろう。


「三年後……旅に出て……魔王を倒して……それから……」


 明日から、本格的な訓練が始まる。今回とは前世と違い、鍛えているとはいえ、それでも訓練は厳しいものになるだろう。なんせ、ゲルドやドーマスさんが、直接戦い方を教えてくれるのだから。

 そのおかげで、俺は強くなれた。今回は、前世よりも体の基礎が仕上がっている分、前世よりも強くなれるはずだ。

 ただ問題は、俺の強さがどうなるか、ではない。前世で俺が死ぬのは、俺の強さが問題だから、ではないからだ。


「……俺が死ぬのは、ゲルドに殺されるから。それは、ゲルドに指示した王子の思惑で、か」


 三年後、国を出て旅に出る。そして、一年の時間をかけて、この国に戻ってくるのだ。

 行きは結構時間がかかったが、魔王を討ち倒せば、魔族や魔物は消えるので、帰りは思いの外楽だった。そして、帰った後に、俺は知るのだ。

 この国を出てから四年、その間に、国王ザラドーラ・マ・ファルマーは死去してしまう。そして、次期国王として、跡を継ぐのが息子である、ジャラード・マ・ファルマーだ。

 あいつは、次期国王だが俺たちが帰ったときには、まだ王子という立場でもあった。


「で、そいつのせいで、ゲルドは俺が殺す、か」


 賢明で、平民の俺にも良くしてくれた国王とは違い、王子は貴族主義者だ。その上臆病者で、魔王を討ち倒すほどの力をつけた俺を、危惧して始末しようと考える。

 俺を殺したのは王子の指示によるものとはいえ、ゲルドが四年を共にした俺より、王子の命を取ったのはショックだが……まあ、仕方ない。なんせ王子の命令だ。


「だからって、今度も殺されてたまるか」


 俺は、仲間に殺される運命を変えるために、これから動かなければならない。

 とはいえ、俺が旅に出て、魔王を倒さないと世界が滅ぶのは確か。俺にできるのは、旅から帰ってからの動きを変えること、だ。


「国王の死は、止められない。ゲルドがなんで王子の言うことを聞くかも、わからない。だったら……」


 あの惨劇を回避するには、俺が旅から帰った後、王の間へと行かなければいい。

 あの時、ドーマスさんとミランシェ、それにリリーは諸事情で別の場所に行った。ドーマスさんは家族の所に帰ったとか、そういうことだろう。

 そのため、あの場にはシャリーディアしか俺の味方はいなかった。ドーマスさんは、絶対に止めようとしてくれただろう。

 どのみち、ゲルドに急所を刺されては、助からなかったが。


「俺は……この国を出たほうが、いいのか?」


 王の間へ行かなかったとして。その後も、命を狙われない確証はない。むしろ、王の間での惨劇が起きなければ、以降の動きは未知だ。

 それなら……旅から帰ったと同時に、この国を出たほうが、いいのかもしれない。命を狙われないところにまで、行くしかないかもしれない。

 そう、今後のことを考えながら……いつの間にか、俺は眠りについていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...