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死に戻り勇者、軌跡を辿る
それぞれの得意分野
しおりを挟む翌日から、訓練の日々が始まる。まずは、一日目の朝だ。
朝は、宿の一室、ベッドの上で起床する。気持ちのいい朝だ、村にいたときとは比べ、やはり環境が変わると寝起きもこうも変わるものなのだなと、実感する。
村にいた頃は、窓の外から聞こえる、外で遊ぶ子供たちの声で目が覚めたりなんかもしていた。だが、ここは静かだ……にも関わらず、いつもと同じ時間に起きるのはもはや習慣だろうか。
昨夜、体を洗っていなかったことを思い出す。村では、井戸から汲んだ水を使い、外で汚れた体を流していたものだ。
「うーん……やっぱ、臭いかな」
自分で体をにおってみるが、よくわからない。だけど、もしシャリーディアやミランシェに、出会い頭に臭いと言われてしまったら……俺は、耐えられないかもしれない。
なので、水に濡らしたタオルで軽く体を拭いておく。宿によっては、桶に温めた水、お湯を入れて体を清めることができるところもあるらしい。
もちろん、そういうところは高いが。
「俺には、これで充分だ、と」
この宿には、頼めばバケツ一杯分の水をサービスしてくれる。どうやら、水の精霊と契約を結んだ精霊術師が、この宿の従業員にいるのだとか。
こういった、生活の面でも、精霊は欠かせない存在になっている。王都では、村とは違って井戸から水を汲む、なんてのも一苦労たろうからな。
「さてと。じゃあ朝飯をいただいて、城に向かうとしますか」
なんというか、前世の俺は王都で寂しい気持ちをマギラワセルため、独り言を言う機会が多くなっていた。
その名残りだろうか、今でもこうして、誰もいないのに喋ってしまうことがある。
定期されたご飯は、固いパンとスープ、それに野菜だ。パンとスープは、単体では実はあまり美味しくない。
「だからこれを、こうしてと……うん、うまい!」
パンをちぎって、スープに浸す。そうすることでパンは水分を吸って柔らかくなり、スープの味も染み込んでおいしさが増す。なんというか、パンなのにお肉を食べているような不思議な味だ。
朝食をご馳走になったところで、気合いを入れて城へと向かう。部屋を、宿を出て、一直線に城へと向かっていく。
「よっ、はっ!」
城にたどり着くと、中庭には……すでに、先客がいた。ゲルドだ。ゲルドが、両手に木の枝を持ち、それを振り回し身を捻り、訓練していた。
その動きは、まるで踊りでも踊っているかのように鮮やかで……見惚れてしまうほどだ。
凶悪な顔も、こういう真剣な時には凛々しさが増す。
「ふぅ……お、ロアじゃねぇか。早いな」
「ゲルドこそ」
ゲルドは一見不真面目そうに見えるが、実は努力家であることを知っている。その努力こそが、彼をさらなる高みへとのしあげた。
ゲルドは、両手に短剣を持って戦うのを得意としていた。本人曰く、どうにもしっくりくる、らしい。
今木の枝を使っていたのだって、短剣の擬似的な練習だろう。
「皆さん、早いですね」
その後も、続々と仲間たちが集まってくる。ドーマスさん、ミランシェ、そしてシャリーディア……各々が、それぞれに合った戦い方を、見つけていく。
すでに冒険者としてそれなりの場数を踏んでいるミランシェは、自分の得意とするものをよくわかっている。弓矢を武器に、遠距離からの攻撃を得意とする。
「俺とおっさんは、まあ接近戦ってとこだな」
「ん、そうなるな」
ゲルド、そしてドーマスさんは、接近型で戦うタイプ。ゲルドは近接を得意とする身のこなしがあるし、ドーマスさんは何者をも寄せ付けない圧倒的な力がある。
【獣化】すれば、その力はより高まるのだ。
「わ、私もがんばります!」
リリーは、基本的には戦闘要因ではない。主に後衛のシャリーディアとミランシェを守る役割だ。
だが、護身術程度の体術は、教えられているという。ミランシェも見ているみたいだしな。
そして、俺は……
「俺も、ゲルドやドーマスさんと同じ、前衛で戦うタイプかな」
「ま、そうだろうな。頼りにしてるぜ?」
前世でもそうだったように、ゲルドやドーマスさんと共に、前衛で戦うんだ。
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