29 / 263
死に戻り勇者、軌跡を辿る
モンスターと魔族について
しおりを挟む……息抜きの休日。それは、時折設けられた。もちろん、毎回出掛けるわけではないが、休みの時間も必要だからとちゃんと気遣ってもらえている。
普段は、訓練の日々……だが、訓練ばかりの毎日、というわけではない。
体を使う日もあれば、頭を使う日もある。今日のように……
「えー、では今日は、モンスターと魔物の違いについて、説明していく」
俺たちは、とある部屋に集められ、席についている。前にいるのは、一人の老人……いろいろと教えてくれる、言ってみれば先生のようなものだ。
名を、ワニ・ニーマ。見た目は若々しいのだが、その実七十を超えているというのだから驚きだ。
「よろしくおねがいしまーす!」
と、元気よく手を上げるのは、リリーだ。普段は、リリーの家庭教師という形で彼女と接しているらしい。
リリー曰く、いい先生。それは、俺も接してみてわかった。
「はい、よろしく。えー、まずは前回の復習だが、魔族の中でも獣に近い姿をしたものを魔物と呼ぶ。これはよろしいかな?」
「はい!」
「うむ。獣と言えば、まずモンスターが頭に浮かぶだろう。だが、モンスターと魔物とではまるで意味合いが違う」
元気なリリーに返事は任せ、俺たちは真面目に話を聞いていく。
……まあ、ゲルドは退屈そうにあくびをしているし、ミランシェも態度にこそ出さないが知っている知識だ。ドーマスさんも、知っているはずだが真面目に聞く姿勢は、見習いたい。
とはいえ、俺も前世に聞いたことのある授業だから、知っていることではある。
それでも、改めて聞いておいて損はない。
「見た目で判別するのは、そう難しくはない。魔物は、みな一様に黒い色をしている。中には、黒い靄(もや)のようなものにつつまれたものも。そして、その瞳は赤くぎらついている」
「それは、どうして?」
「残念ながら、理由はわかっておらん。共通しているのは、みな凶暴ということ。そして、一番の違いが、死体だな」
モンスターと魔物、見た目の違いで判別するのは簡単だ。間違って、モンスターを倒してしまう心配がないのは、ありがたい。
そして奴らは、モンスターよりもはるかに凶暴だ。以前俺の村を襲ったコアウルフなんかよりも、よっぽど。
「モンスターは死ねば死体がその場に残る。当然だな、生き物なんだから」
「……」
「だが魔物……いや魔族は違う。……死んだら、消えるのさ。その場には、なにも残らない」
「なにも?」
そう……魔族は、死んだらその場にはなにも残らないのだ。その理由は、やはりわかっていない。
死体の処理を必要とするモンスターと違って、その処理を必要としないのが、いいことなのか悪いことなのかは、わからない。
モンスターの中には、生き残るために死体を食べるものもいる。それは、生物の本能だ。だが、それがない魔族を、果たして生物と呼べるのか……
「不思議じゃろうが、な。これが、モンスターと魔族の、大きな違いじゃ」
「そっか……なんか、ちょっと怖いね」
「どうせガキは魔族と戦うことなんてねえんだ、気にすることでもねえだろ」
「むぅ、ゲルド兄ちゃんきらい!」
……ゲルドの言葉は、ある意味真実だ。というか理想だ。【絶対防御】のリリーは、後方支援の支援……戦いの場にはいても、本来は戦いに参加しないポジションだ。
リリーが戦いに参加するということは、それだけパーティーが追い詰められるということを意味する。
そんなことにはさせてはならないし、前世ではならなかった。だが、油断は禁物だ。
ゲルドは、そういった意味を込めてもいるのだろうが……リリーは、お子様扱いされたと思ってしまったようだ。
「基本的に、獣の姿をしたものを魔物。それ以外……主に人の姿をしているものを、魔族と呼ぶ」
「人の姿……」
魔族とは、どこから現れるのか、どこに消えるのかもわからない。だが、わからないことも多いとはいえ、これだけのことがわかっているということは、過去にも魔族が現れたことを意味している。
今後も魔族が現れる可能性は、ゼロではない……うん、この情報で、俺を殺そうと指示した王子に訴えかけるのも、ありだな。
ああいうタイプって、基本今後のことよりも、目先のことしか考えていないしな。魔族再来の可能性に気付いていないってことも考えられるか。
2
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる