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死に戻り勇者、軌跡を辿る
魔物との対峙
しおりを挟むこの世界に、本来存在するはずのない、魔族という生き物。その生態は、今も明かされていない。
殺したら消えてしまうわけだし、凶暴ゆえに生きたまま捕まえるのも難しい。そもそも、魔王が現れなければ魔物も現れないし、憶測の域を出ない。
……はずなのに。
「今日は、魔物との戦闘訓練を、行ってもらう」
……俺が王都に来て、数ヶ月後。この日、一人の老兵士に突然そんなことを言われた俺は、いや俺たちは、唖然とした。言葉も出ない、とはこのことだ。
俺たち六人は、訓練場に集められた。いつも使うところとは違って、別の場所だ。それも、建物の中ではなく、外だ。
そして、連れてこられたのは……獣だ。黒い、獣。
「お、狼……?」
その姿を見て、まずリリーが口を開いた。その獣は、一見すると確かに狼のようであった。四足歩行で、犬のような耳。黒い毛並みと赤い瞳が、それが魔物であることを表している。
とはいえ、ここにいる人間は魔物を初めて見る。前世で魔物を見ている俺は例外として、ゲルドも、冒険者のミランシェも、魔物は見たことがない。
「……ただの、狼じゃねぇぞ」
リリーの疑問に答える形で、ゲルドが口を開く。その視線は鋭く、額から一筋の冷や汗を流していた。
確かに、その生き物は狼のようだった。だが、よく見ると違う。まず、足が四本ではなく、六本あるのだ。六本足の生物なんて、モンスターにはいない。
また、毛並みは柔らかそうでいて、触ろうとしたミランシェが止められていた。疑問に感じていたが、試しにその変にあった石を毛に刺すと、石が砕けた。
「……!」
風になびく毛並みは、石をも砕く強度を持っている。手で触れていたら、傷だらけになっていただろう……それは、やはり普通のモンスターにはありえない光景だ。
魔物と呼ばれたその生き物は、暴れないように拘束されている。六本の足を縛られ、口も開かないようにキツく縛られている。それでも、その気迫までは失われていない。
目の前にいるのがモンスターではないと、みんなわかり始めた。俺も、これは間違いなく魔物だとわかった。だが、二つの疑問がある。
「あの……どうやって、魔物を? 魔物は、まだいないはずでは」
俺が、いやおそらくはみんなが感じていた疑問を、ドーマスさんが代表して聞く。
魔王がまだ現れていないのに、魔族がいる……これは、おかしなことだ。もちろん、魔王がいなければ魔族もいないなんてのは直接見たわけではないが……
他でもない、国の人間から、そう聞いていたのだから。
「あぁ、それは間違いない。しかし、何事にも例外はあるもので……魔王の出現が近づいているためか、ごく少数だが、魔物の出現が確認されている。これは、そのうちの一体をなんとか捕まえたものだ」
「魔王の、って……まだ、三年近く、あるんですよ?」
魔王の出現まで、まだ三年近くも時間がある。だというのに、魔物は出現した……人間にとっては、三年という時間は短くない。だが魔族にとっては、そうではないというのか。
信じられないことだが、現にこうして、魔物は目の前にいる。これが魔物であることは、わかっている。
魔王出現まで三年もあるのに、もう魔物は出現した……その事実を、俺は知らなかった。それはなぜか……それは、二つ目の疑問に繋がっている。
「で、戦闘訓練って言ってたな。ってこたぁ……」
「あぁ。この魔物と、戦ってもらう。もちろん、安全には考慮してな」
「おもしれぇ……俺がやるぜ」
魔物との戦闘訓練、その言葉に、ゲルドが凶悪な顔を凶悪に歪めて笑う。他の誰を置いても、まずは自分が一番にやりたいのだろう。
そんなゲルドを横目で見つつ、俺は考えていた……魔物がここにいる一つ目の疑問は、解けた。だが、まだ二つ目の疑問が残っている。
「……?」
二つ目の疑問、それは……こんな展開、前世では、なかったということだ。魔物とここで戦うことも、国が魔物を捕まえたことも……魔物が、こんなに早く出現することも。
ただ、前世でも同じことは起こっていたが単に捕まえていなかっただけなのか、それとも前世とは魔物出現の展開自体が変わっているのか。わからない。
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