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死に戻り勇者、軌跡を辿る
魔族と魔物、その違い
しおりを挟む「……最近は、魔族が多くなってきましたね」
旅に出て、もう何度目かの夜を超えて。時に人里を見つけては、お世話になっていた。
まだ被害にあっていない人たち。彼らの平和を守らなければと、気持ちを新たにした頃だった……
魔物の、出現率が増加した。
「だな。代わりに、モンスターは少なくなった」
モンスターも魔物も、凶暴なものは人里も襲うという点では同じだ。だが、やはり違いはある。
魔物は、人でもモンスターでも構わずに食べる。本能的に、危険を感じ取っているのだろう……モンスターは、魔物を避ける傾向にある。
「グルルァアア!」
「うわっ……!」
目の前に現れた魔物に、飛びかかられる。鋭い牙、あれに噛み砕かれれば痛いじゃすまない。
いくら【癒やしの力】があっても、瞬間の痛みまでは消せないのだ。だから、なるべくダメージも負いたくはない。
魔物の突進を避け、代わりに腹部に拳を打ちこんでやる。
「ふん!」
「グォ……!」
重たい一撃、それを受けて魔物は沈む。
確かに、モンスターに比べれば固い皮膚だ。だが、【勇者】のおかげかこの拳は、固い皮膚なんか打ち抜いてしまう。
殴った感触も、大事はない。
「ロアさん! 大丈夫でしたか?」
「あ、うん。平気平気」
「ったく、毎度毎度神官様はお優しいねぇ。……それにしても、怖い威力だねぇ」
「魔物を素手で、それも一撃で沈めてしまうとはな。頼もしい力だ」
「それ、ドーマスさんが一番言っちゃいけない言葉ですよ」
「ロア兄ちゃんやっぱりすごいや!」
魔物が増えてきたとはいえ、まだ一度に現れるのは一体や二体。多くても三体か……でも、これが群れを作るほどの数に襲われたら。
どうなるかは、わからないな。
「わかってたことだが、ロアとおっさんには俺の【鑑定眼】必要ねえなぁ」
「それは、今のところだよ。この先、魔族なんかも出てきたらわからない」
「はっ、ご謙遜を。ま、その分俺は、ミランシェと絡む時間が増えて嬉しいがな?」
「か、肩を組まないでください」
【勇者】や【獣化】の攻撃力はすさまじい。もちろん、基礎体力を高めておいたおかげもあるが……
とはいえ、このままの力はいずれ通じなくなってくるのを、俺は知っている。魔物は一撃で倒せても、魔族はそうはいかないのだ。
魔族とは、魔物が獣の姿をしているのに対し、人間の姿をしているものだ。
「魔族か……見たこともないが、そんなに危険なのか?」
「えぇ。知能の高いものほど人間に近い姿をしていて、中には言葉を話すものもいます。そいつらは、魔物とは全然違う……魔物も、一括りにすれば魔族ではありますが、厳密には魔族と魔物で力関係は全然違います」
「ほぉほぉ」
「それに、魔族は魔物の上位存在に当たり、魔物を使役することも……できるって、ぶ、文献に書いてありました?」
ふと、全員の視線が注目していることに気付き、とっさにごまかす。うまくごまかせたかは、疑問であるが。
いけないいけない……魔族と魔物の違いなんて、そんな文献はない。今の俺の知識は、前世の頃に得た知識だ。
ペラペラと、口の軽い魔族がいろいろしゃべってくれたので、間違いない情報だ。まさか、前世で得た知識ですなんて言えるはずもない。
「文献……そんなことが書かれたもの、あったかしら」
「ロアさんは努力家ですから。きっと隅々まで調べたんですよ」
疑問を浮かべるミランシェを、計らずもシャリーディアがフォローしてくれる。あ、あんまり得意げにしゃべるのは、よそう。
とはいえ、必要な情報は隠したままにするわけにも、いかないしな。
「魔族ねぇ。人間の姿だなんて、いったいどんな……!?」
ケラケラと笑うゲルドだったが、突然動きが止まり、真剣な顔になる。同時に、他のみんなも。
どうやら、感じたらしい……魔族特有の、嫌な気配を。
「な、なに、この変な気配……」
「大丈夫よ、リリーちゃん」
「ちっ……おい、そこにいるんだろ! とっとと出てこい!」
前方の、大岩……そこから、嫌な気配を感じる。そこに、誰かが……魔族が、隠れている。
ゲルドの警戒した声に、しばしの静寂……そして、ゆっくりと、岩陰から何者かが姿を見せる。
「ほぉ、うまく気配を隠したつもりだったが……さすが、同胞を狩っているだけのことはある」
「……バレバレだっつの」
現れたのは……人の姿をした、魔族だった。
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