死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

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死に戻り勇者、軌跡を辿る

激しい夜

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 魔族を倒し、俺たちはいい風に乗っていた。油断は禁物だが、それでもみんなが力を合わせれば、強大な敵をも倒せる。

 その事実は、確かな自信をつけていた。特に、戦闘経験などこれまでになかった、リリーは。

 油断は禁物。それは口に出すまでもないが、言わずともみんなわかっていることだ。

 魔族撃退を機に、みんなの絆はますます深まった……

 と、思っていたのだが……


「……はぁ、まったく」


 その日の夜。俺とドーマスさんは、見張りのために起きていた。たまらず俺は、ため息を漏らす。

 夜いきなり襲われることもあるため、なるべく固まって寝た方がいい。だが、やはり男女は分けるべき……それは、正しい判断だっただろう。

 しかし……テントを分けた理由が、ない。意味をなさないのをこれだけ実感することも、ないだろう。


「やれやれ、今日は一段と激しい」


 俺のため息に反応してか、ドーマスさんが言葉を返してくる。俺は、小さくうなずく。

 この、なんともいえない気持ち……それに賛同してくれるのは、俺と同じように、テントの中から発せられる声を聞いているドーマスさんだけだ。

 テントの中からは、甘美な声が聞こえてくる。もう、みんな就寝しているはず……だというのに、男用のテントの中から。女性の、艶めかしい声が聞こえてくるのだ。


「今日は、戦闘が激しかったですからね」

「それにしても、だ。少しは慎みを……」


 ここで俺に言い返しても仕方ない。ドーマスさんは何度目かのため息を漏らした。

 聞こえてくる、女性の声……これは、知らぬ人の声ではない。むしろよく知っている。そう、これはミランシェのものだ。

 なぜミランシェの声が、男用のテントから聞こえてくるのか。……よりによって、こんな艶めかしい声を出して。その理由は、一つしかない。


「あんあんあーん!」


 と、獣のような声を漏らす理由。俺は経験があるわけじゃないし、誰かがしているのを見たことがあるわけでもない。それでも……

 ミランシェが、誰かとしているのは、わかった。一人でではない、誰かとだ。それは、ミランシェ以外にも男の声がかすかに聞こえるからに他ならない。

 その、ミランシェとしているのは……


「ゲルド……」


 はぁ、ともはや何度目か数えるのも面倒になったため息を、漏らす。

 ゲルドだ……ゲルドが、テントの中でミランシェとしている。それは、なにも今日が初めてではない。これまでにも、何度かあった。

 そしてそれは、今のところ決まって俺とドーマスさんが見張りのときだけなのだ。少しは気を遣おうという思いがあるのか、シャリーディアとリリーが寝ているときを、狙っている。

 シャリーディアもだが、リリーにもこんな声聞かせられない。……二人とも、気づいてないはずだ。多分。


「注意するべきだと思うか、ロア」

「……どうでしょうね」


 もちろん、見張り時間にこんな声を聞かされるこっちはたまったもんじゃない。

 とはいえ、ここでゲルドとミランシェに注意したとして、二人はどう思うだろうか。ミランシェなんか、自分の恥ずかしい声を聞かれていたと知られれば、この先どうなってしまうか。

 ゲルドは……まあ、気にしなさそうだが。というか、俺たちに気づかれていると、実際気づいてそうだ。こんな大きな音出すくらいだし。

 さすがにミランシェまでそうでないと思いたいが。


「……やめときましょう。今後気まずくなるのは、避けたい」

「それなら、それでいいが……」


 もし二人の行為で、チーム内に亀裂が入るようなことがあれば、即刻やめさせるべきだろうが……

 今のところは、被害も出ていないし。これがいわゆる、二人のストレス解消法というのなら……それを咎めるわけにも、いかない。

 なにより、男女間のことだし。


「……はぁ」

「変な仲間を持って、苦労するなお互い」

「あはは」


 静かな夜……のはずが、聞き慣れた仲間の聞き慣れない声をバックに、夜は更けていく。
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