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死に戻り勇者、軌跡を辿る
不機嫌な理由
しおりを挟む「そろそろ出発するぞ、みんな」
「はーい!」
毎度のことなので、もう慣れたものだ。野宿した後の片づけを終え、俺たちは出発する。
外での寝泊まりは、冒険者の経験を生かしてミランシェが積極的に行っていたが……やはり、力仕事ともなればドーマスさんがその力を発揮する。
それに、最年長なだけあってみんなをまとめ上げるのも、うまい。それとなく、メンバーのメンタルケアもやってくれたりする。
やっぱり、頼りになる。
「……」
「……なぁ、シャリーディアはどうかしたのか?」
「さ、さあ」
そんなドーマスさんでも、わからないことはある。それが、たとえば今の状況だ。
シャリーディア……彼女はいつもと変わらないように見えるが、ゲルドを避けているように感じる。
原因は……まあ、考えなくてもわかるが。
「あ、あっちから魔物が来てるって、精霊が……」
「せぇええええい!」
遠くから、魔物がこっちに向かってくる姿があった。それを受け、俺たちは戦闘態勢に……なる前に、強大な炎が魔物へと飛んでいき……その身を、焼き尽くした。
魔物の悲鳴も、かすかに聞こえる程度の距離。しかし、放たれた炎は正確に、魔物を焼き尽くした。
炎の正体……それは、もちろん一人しかいない。
「あの……シャリーディア、さん?」
「なんですか?」
精霊術を使い、力をぶっ放したシャリーディアだった。
彼女は、満面の笑顔を浮かべていた。何故だろうか、』笑顔がとても怖い。
「ミランシェさん、魔物の接近、教えてくれてありがとうございます」
「え、あ、えぇ」
魔物の接近を知らせてくれたのは、ミランシェだ。精霊師である彼女は、精霊と会話することで、遠くにいる魔物の存在もわかる。
曰く精霊が教えてくれるとのことだ。
「さ、行きましょう」
「はい」
そんなミランシェさえ、唖然としたまま、シャリーディアに続いていく。これは……非常に怖い。
今のシャリーディアは、あれだ……溜まったうっぷんを、晴らしているように見える。
原因は……やはり、あれだろうな。
「ゲルド……」
小さく、俺は口の中でつぶやいた。シャリーディアが変な……というか機嫌が悪い理由は、間違いなくゲルドにある。
俺の女になれとか、あんなこと言うからだろう。というか、こんな展開前世じゃなかったぞ。
シャリーディアって、怒らせると怖いんだな。普段怒らない人が怒ると怖い、とは聞いたことがあるが。
「そういえば昔、同じような経験があったような……」
「どうしたんですか?」
「ひゃう!?」
昔、まだ村にいた頃に、おとなしかった子供を怒らせてしまったことがあり、めちゃくちゃ怖かったのを思い出していると……背後から、声をかけられた。
変な声が出てしまった。
「しゃ、シャリーディア……さん」
「? どうしたんですか、さん付けなんて」
うっ、シャリーディアの整い過ぎた顔がこんな近くに……思えば前世でも、シャリーディアとはあくまで仲間の一人。必要以上に絡むことはなかったような気がする。
俺は動揺がバレないように、なんとなく咳ばらいを一つ。
大丈夫、冷静になれロア。俺は人生二度目、うろたえるな。
「ふぅ……いや、なんでもないよ。どうしたの?」
「いえ、皆さんいつもと様子が違うので。どうしたのかなと」
様子が違うのはあなたのせいだ、とは言えない。というか言いたくない。
シャリーディアの様子がいつもと違うのは、みんな気付いている。それこそリリーだって。そして、だかrこそシャリーディアにどう接すればいいかわからないのだ。
結果、なんかぎこちなくなっている。
「さ、さあ。気のせいじゃないか?」
とりあえず、誤魔化す。シャリーディアの不機嫌の理由を知っているのは俺だけだ、ならばなんとかしなければという気持ちもあるが……それはそれとして、触れたくない問題でもある。
ならば、張本人であるゲルドになんとかしてもらいたい。だがゲルドは、素知らぬ顔だ。
あの野郎。
「うーん、気のせいではないと思うんですが。私、人間観察はわりと得意なので。みなさん、どこか気まずいというか……」
「! みんな、静かに!」
鋭いシャリーディア、それになんと言葉を返せばいいかと悩んでいたところに……ミランシェの声が、響く。
それも、かなり切羽詰まったものだ。
「どうした!?」
「……精霊が、騒いでる。魔物の大群が、押し寄せてるって!」
顔を青ざめさせ、ミランシェは精霊から聞いた情報を告げる。ここからでは見えないが、魔物が、それも大群が押し寄せてくると。
「このタイミングで!?」
魔物の大群……タイミングがいいのか悪いのか、よくわからない!
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