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死に戻り勇者、軌跡を辿る
殺された相手、複雑な感情
しおりを挟む「はぁあ!」
「グルォオオ!」
迫りくる魔物の大群、迎え撃つは俺たち勇者パーティー。俺、ゲルド、ドーマスさんと三方向に別れて、対処する。
魔物の大群は、一匹一匹が凶暴な生き物の集まりだ。本来なら、人一人で相手できるものではない。だが、【勇者】の力があれば魔物にも対処できる。
それに……
「くたばれ!」
「ゴゥ……!」
「ぬぅえぇえええい!」
「ギャヒィイイイ!」
ゲルドは【鑑定眼】を駆使し、魔物の弱所を的確に突いていく。いくら皮膚が固い生き物とはいえ、ゲルドの『スキル』にかかれば体の弱いところを即座に見抜くことができる。
ドーマスさんは【獣化】し、凄まじいその力で魔物を蹴散らしていく。力だけならば、【勇者】に迫る……いや、超えているところがあるかもしれない。
「これなら……」
数は、圧倒的に魔物側が多い。だが、いくら数が多くても奴らに統制なんてものはない。
本能で、襲ってくるだけ。もしその本能を、恐怖で塗り替えることができれば、魔物は逃げていくかもしれない。
「……それは、希望か」
魔物に恐怖という感情は……いや、そもそも狂気以外の感情があるのかさえ、疑問だ。恐怖で塗り替えることなど、できないか。
やっぱり、これら全部を倒さないと、いけないってことか。
「みんな、少し下がって!」
「!」
その場に、シャリーディアの声が響く。少し下がれ、意図はわからないが、体は弾かれるように反応していた。
魔物に囲まれないように立ち回っていたため、後ろに逃げ場を作るのは難しくない。その場からとっさに下がると、上空からなにかが降ってくる
「あれは、矢か……?」
飛んでくるものは、先端が赤く燃える矢だ。それが、目の前に突き刺さる。魔物にではない、地面にだ。
魔物も生き物だからだろうか、炎に近寄ろうとしない。……だが、シャリーディアとミランシェの狙いは、魔物を炎で牽制することではない。
次の瞬間、炎が燃え広がる。地面を、横伝いに移動していくように、まるで炎が走っているかのように、燃え上がったのだ。
「! これは?」
「やった、うまくいったわ!」
後ろから、シャリーディアの喜ぶ声が聞こえる。これは、たまたまではなく狙ってやったということか。
燃え広がった炎は、横伝いに移動していく。見れば、その先には同じように、地面に刺さった矢が見えた。
矢から矢へ、炎は燃え広がる。魔物と俺たちとの間に、まるで炎の壁のように、燃え上がった。
「これで、魔物を分断できたって、わけか!」
「ゲルド!」
いつの間にか、ゲルドが近くにいた。三方向に別れたとはいえ、場は混戦だ。誰がどこに移動しても、不思議じゃない。
炎の壁により、魔物の大群は押し寄せにくくなっている。だが、それも長くは持たないだろう。俺とゲルドは、自然と背中を合わせていた。
「ったく、いつになりゃ終わるんだ」
「弱音か? らしくないな」
「はっ。こんな雑魚どもの相手してたら飽きちまったんだよ」
……不思議な気分だ。今俺は、ゲルドと……前世で俺を殺した男と、背中を合わせている。
自分を殺した男と、命を預け合って戦う……こんな状況、正気の沙汰ではないだろう。そもそも、殺した相手と肩を並べる経験なんてないだろうが。
俺としても、ゲルドにどんな感情を抱いているのか……実は、よくわかっていない。
自分を殺した相手への、怒り、憎しみ、恨み……そういった負の感情を、普通は抱くものなのかもしれない。
「背中は任せたぜ、ロア!」
「!」
だが、今俺と共に戦っているこの男は……紛れもない、俺の仲間だ。それは、疑いようもない。
ゲルドを殺したい……そう、思わなかったことが、ないわけではない。だというのに、俺はこの男を、信頼して……
「……あぁ、ゲルドこそ、背中はちゃんと守ってよ!」
自分でも正体の掴めない、複雑な感情。それは、ゲルドが俺を殺した実行犯でも、指示した人間は別にいるから、だろうか。
考えても、わからない……いつか、わかるだろうか。俺が、ゲルドに抱いている、この複雑な気持ちの正体が。―
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