75 / 263
死に戻り勇者、第二の人生を歩む
魔王を殺した男の話
しおりを挟む「さて、マーチ……いやチマ兄」
「あの、兄はいらないです」
「わかってるよ、つい、だ」
俺とチマは向き合い、座る。今頃は、エフィが村のみんなにチマの帰郷を伝えに行っているころだ。それを知った村人たちが押し寄せてくるかもしれない。
あまり、時間は残されていない。手短に済ませよう。
「ここ……ラーダ村が、お前の故郷だったんだな」
「いえまあ……元の生まれは別の場所なんですが。いろいろあってこの村にたどり着きましてね。もう二十年ですか……ここが、私の故郷みたいなものです」
「……」
いろいろあってこの村にたどり着いた……か。そこになにがあったのかは知らないが、まあそれは置いておこう。
今知りたいのは、別のことだ。
「あの時答えを聞けなかった質問だ。どうして、あのときあそこにいた? どうして、魔王を倒した?」
「……」
質問をすると、チマは口を閉じる……
……だが、今回はあのときのようにだんまりを決め込むつもりはないようだ。軽くため息を漏らしてから、口を開いた。
「あのとき、あそこにいたのは……復讐のためですよ」
「……復讐?」
あまり穏やかではない単語に、思わず眉をひそめる。
「あいつらは……魔族は、私の妹を……目の前で……」
「……妹?」
「えぇ。……ずいぶん昔に、生き別れた妹です」
チマの話を要約すると、こうだ。チマは生まれて間もなく、親に捨てられた。彼には、双子の妹がいた。
結果として妹とは生き別れになり、チマは一人放浪し、この村にたどり着いた。
「苦労しましたよ、この村にたどり着くまで……いや、私の苦労話はいいか。私は今、まあ商人のようなことをしていまして」
チマは、遠くの国まで商売しに行き、そこで得たお金や物品、食料をラーダ村に届けているらしい。
そして、奇跡が起こった……ある国で商売していたとき、生き別れていた妹と再会した。
「妹って……わかったのか? 二十年以上会ってなかったんだろ?」
「わかりますよ……妹ですから」
妹も兄に気付き、二人は久しぶりの再会に喜んだ。その国はチマの生まれた国ではなかったが、妹は独り立ちして一人そこにいたとのこと。
妹には婚約者がおり、三人で仲良く飲み、笑い合った。
……その、次の日のこと。
「魔物の大群が、国を襲いました。私は朝一番で国を出たため、異変に気付いて戻った頃には……魔物が、人々を襲っている姿でした」
「……」
「私は、恐怖から『スキル』を発動し、成り行きをただ見ていました」
……その『スキル』は【透明化】。体や、触れているものを透明にすることが出来る。
それに、俺やゲルドたちも気づけないほどに気配を遮断する力にも長けている。獣の本能しか持たない魔物には、気づかれなかっただろう。
「私は、臆病者です……目の前で、人々が……笑い合った人が、助けてくれた人が……妹が、食われているのに……ただ、見ているしか……」
「悪い、つらいこと思い出させた」
「……いえ」
チマの声は、震えていた。目尻には、光るものも……これは、まぎれもなくチマの本心だ。
魔物の恐怖は、俺はよく知っている。だからこそ、ただ見ているしか出来なかったチマを、責めることは出来ない。
「……そこで、私の中のなにかが、切れる音がしました。気付けば、私はあの場に居て……魔王を、殺していた」
「……水を差すようで悪いけど、あのとき夢のお告げとか言ってなかった?」
「よく覚えていますね。だってあのとき、皆さん私を殺す勢いで見てくるんですもん。咄嗟に変なこと言っちゃったんです」
……チマの言葉に、おそらく嘘はない。妹が食われる場面を見れば、誰だって狂う。
その後チマは、気配を殺して魔物を追いかけたのだろう。そして魔族の統治する土地にたどり着き、そこで魔王を見つけ……
「自分でも信じられませんよ。あのとき、見ているしか出来なかったくせに……魔王を殺すために、あんな土地まで乗り込むなんて」
「……そっか」
まだ俺は、チマのことをよく知らない。だが、彼も被害者だ……
それに、エフィがあれだけ懐いている。それだけで、信じるには充分じゃないだろうか。
1
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる