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死に戻り勇者、第二の人生を歩む
小耳に挟んでおきたいこと
しおりを挟む「ふぁあ。なんか、顔が痛い気がするんですが……」
「アッハハ、気のせいだよ気のせい」
寝ていたチマを起こし、朝食をとる。なぜかチマも一緒にいるが、まあ今日くらいはいいだろう。
話を聞くまで、チマのことはただの胡散臭いやつだと思っていた。だが、話を聞いて……チマには、つらい過去があることがわかった。
考えてみれば、俺は大切な人を失った記憶はない。故郷のみんなとはもはや生き別れのような状態だが、死んではいない。勇者パーティーのみんなだって、健在だ。
ただ、俺自身が死んだだけ……だ。
「……」
「な、なんかジロジロ見られると、食べにくいんですが」
「いや、気にしないでくれ」
チマが魔王を殺したのは、妹を殺されたから……ならば、前世ではどうだったのだろう。
前世では、チマは魔王を殺してはいなかったし、あの場に現れもしなかった。前世と今の時間とで、展開が大きく変わったのだ。
ディアは、時間巻き戻しの代償として展開が変わっているのかもと言っていた。ただ、単純に時間の問題もある。できるだけ前世の展開をなぞっては来たが、なにも数秒違わず来れたわけではない。
もしかしたら前世でも、チマは妹を失っていて……ただ、チマが魔王を殺す決意を固めたときには、すでに俺たちが魔王を倒していたことも、考えられるのだ。
「わりと、単純な理由だったのかも」
「え、なにがです?」
「なんでもない。ごちそーさま」
さて、朝食も食べたし。今日から本格的に、エフィたちのお店緑屋で、従業員として働くことになる。
今日も清々しい朝だし、これはいい天気になりそうだ。
「ところでアーロさん、ヤタラさんのところで働いているんですって?」
「あぁ、そうだけど」
「なるほど。助かりますよ。ヤタラさんはこんな私にも、とても良くしてくれて……なんとか負担を減らしたいと、思ってましたから」
「……だったら、あんたも店を手伝えば良かったじゃないか」
「あはは、ごもっとも。ただ、私は商人がしたくて……ヤタラさんにも、村のことは気にせずしたいことをしろ、なんて言われまして」
チマもチマで、この村のことを気にかけているらしい。
例えば俺にも、やりたいことができたらヤタラさんは後押ししてくれるだろう。きっとエフィも。
だが、俺はこの村で平和に暮らせれば、それでいいのだ。
「そうだ。お店に行く前にちょっと、小耳に挟んでおきたいことが」
「なんだよ?」
チマが手招きするので、一旦戻る。
真剣……な表情なんだろうか。細目だから、よくわからん。
「ここに戻ってくる途中、耳にしたんですがね。なんでも、近頃周辺のモンスターが暴れまわっているとか」
「……モンスターが?」
話された内容……それは、モンスターが暴れている、とのものだった。
この辺りのモンスターは比較的温厚である種が集まっている。だが、どういったわけかそれらが、近頃暴れているのだという。
モンスターの、暴走か……少し、思い出すことがあるな。
「一応、昨日村の周辺は見てきましたが、不審な様子はありませんでした。でも……」
「あぁ、ありがとう。頭に入れておくよ」
モンスターの暴走と聞いて、真っ先に浮かんだのは……十年以上前の、故郷をモンスターの大群が襲った事件だ。
結局あれは、ファルマー王国の警備隊の助力のおかげで、人的被害は出ずに済んだが……モンスター暴走の、原因がわからないままだ。
本当は魔王を倒す旅が終わったら、図書館とかで調べてみるつもりだったが……そんな場合じゃ、なかったしな。
「温厚なモンスターが暴れている、か」
もちろん、あの事件と関係あるかはわからない。今回暴れているのは温厚なモンスター、対してあの事件では、コアウルフなどの凶暴なモンスターが集まってきたのだから。
……だからといって、無視するわけにもいかないし、関係性がないとも言い切れない。
今のところは、ただ頭に入れておくことしか、できないが。
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