84 / 263
死に戻り勇者、第二の人生を歩む
どこかで会ったことが
しおりを挟む「お待たせ~」
「おいラニー、着替えにいつまで手間取ってるんだ」
「やだなぁ、女の子にはいろいろあるんだよ」
「いつも適当な服で済ませているくせに」
二階から降りてきたラニーさんは、赤いロングスカートにティシャツと、見るからにラフな格好をしていた。ふむ、服装が変わるだけでだいぶ印象が変わるものだな。
それと、白い帽子を被っている。だが、ラニーさんの性格を察するに……あの帽子は、おしゃれの意味で被っているわけではないのだろう。
「髪もぐちゃぐちゃなままじゃないか」
「あー、やめてー」
……やっぱり、あの帽子は単にくせっ毛を隠すためのものだったらしい。なんとも、ズボラな性格というのは的を得ている気がする。
ラニーさんは、ダガさんからのお小言から逃げるように、俺の手を取った。
「あ……」
「じゃ、町を案内してきまーす」
「おい! ……ったく」
家から出てしばらく走ると、ほっと一息。それからラニーさんは、握っていた俺の手を離した。
「いやー、ごめんね。口うるさい父ちゃんでさぁ」
「いやー、あはは……」
この場合口うるさい、というのに同意するべきなのだろうか。俺にはわからない。
とはいえ、本気でうっとうしくは思っていないようだった。
「じゃ、観光と行きますか。行きたいところある? えっと……」
「アーロだ」
「アーロ。どこか見て回りたいところある?」
なんだかんだと言いながらも、案内役はちゃんとやってくれるらしい。面倒くさがって、町中に放り出されてしまわないか、少し心配していたが。
見て回りたいところか……とはいっても、俺はこの町に来たのが初めてだしな。
「そもそもなにが有名とか、なにを見て回ればいいのかわかんないし……」
「あははー、それもそっか。じゃ、適当に見て回るとしよっか!」
ラニーさんは再び俺の手を握り、歩きだす。異性の手を握ることに恥じらいはないんだな、この人。
それとも、俺が迷子にならないかの、配慮だろうか?
「ここは、私オススメの料理屋さん! いろいろ美味しいものを出してくれるよ!」
「確かに、外にいるだけでもいい匂いがするな」
「で、こっちは美味しいケーキを出してくれるお店~」
「女性客が多いみたいだね」
「それからこっちは、美味しいジュースの専門店~!」
「…………」
さっきから飲食関係のお店ばっかりだ!? いや、別にいいんだけどもさ!
もしかして、お腹減ってたりするんだろうか?
「ところで、アーロってさ」
「んん?」
ラニーさんは足を止め、俺に向かって振り返る。真正面に立ち、後ろで手を組んでいる姿は文句なしの美少女と言える。
「変なこと聞くけど、どこかで会ったことない?」
「! 俺とラニーさんが、ですか?」
「そうそう」
ふと、ラニーさんから聞かれたのは……俺たちはどこかで会ったことがないかという、ものであった。
そう聞かれて、俺は少し考える。会ったこと、会ったこと……多分、ないと思うんだが。
「いや、ないと思いますよ? 俺この町に来るの初めてですし」
「いや、多分ここじゃないんだよねぇ。私、前まで他の国に行くこともあってさ。そこで、なんか会ったことがある気がするんだよね」
うーん……と、顎に指を当て考えているラニーさんの言葉に、俺は一つの可能性を見た。
この町ではなく、別の国、か。そこならば、会った可能性がないとは、いえない。
なんせ、俺は勇者として、いろいろな場所を回っていたことがあったからだ。
「うーん……」
「……」
なるほど、そういうこともあるのか……もし、勇者の頃の俺を見たことがあるのならば、俺が勇者だって知られることになる。
ファルマー王国から逃げる際に、顔でも変えてくるんだったな。
「き、気のせいじゃないですか? 世界には似てる人間が三人はいるって言いますし」
「そっかなぁ」
「そうですよ」
俺の正体を、誰彼知られるわけにはいかない。
その後必死にごまかし、なんとかラニーさんの興味は別に移った。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる