死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

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死に戻り勇者、第二の人生を歩む

どこかで会ったことが

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「お待たせ~」

「おいラニー、着替えにいつまで手間取ってるんだ」

「やだなぁ、女の子にはいろいろあるんだよ」

「いつも適当な服で済ませているくせに」


 二階から降りてきたラニーさんは、赤いロングスカートにティシャツと、見るからにラフな格好をしていた。ふむ、服装が変わるだけでだいぶ印象が変わるものだな。

 それと、白い帽子を被っている。だが、ラニーさんの性格を察するに……あの帽子は、おしゃれの意味で被っているわけではないのだろう。


「髪もぐちゃぐちゃなままじゃないか」

「あー、やめてー」


 ……やっぱり、あの帽子は単にくせっ毛を隠すためのものだったらしい。なんとも、ズボラな性格というのは的を得ている気がする。

 ラニーさんは、ダガさんからのお小言から逃げるように、俺の手を取った。


「あ……」

「じゃ、町を案内してきまーす」

「おい! ……ったく」


 家から出てしばらく走ると、ほっと一息。それからラニーさんは、握っていた俺の手を離した。


「いやー、ごめんね。口うるさい父ちゃんでさぁ」

「いやー、あはは……」


 この場合口うるさい、というのに同意するべきなのだろうか。俺にはわからない。

 とはいえ、本気でうっとうしくは思っていないようだった。


「じゃ、観光と行きますか。行きたいところある? えっと……」

「アーロだ」

「アーロ。どこか見て回りたいところある?」


 なんだかんだと言いながらも、案内役はちゃんとやってくれるらしい。面倒くさがって、町中に放り出されてしまわないか、少し心配していたが。

 見て回りたいところか……とはいっても、俺はこの町に来たのが初めてだしな。


「そもそもなにが有名とか、なにを見て回ればいいのかわかんないし……」

「あははー、それもそっか。じゃ、適当に見て回るとしよっか!」


 ラニーさんは再び俺の手を握り、歩きだす。異性の手を握ることに恥じらいはないんだな、この人。

 それとも、俺が迷子にならないかの、配慮だろうか?


「ここは、私オススメの料理屋さん! いろいろ美味しいものを出してくれるよ!」

「確かに、外にいるだけでもいい匂いがするな」

「で、こっちは美味しいケーキを出してくれるお店~」

「女性客が多いみたいだね」

「それからこっちは、美味しいジュースの専門店~!」

「…………」


 さっきから飲食関係のお店ばっかりだ!? いや、別にいいんだけどもさ!

 もしかして、お腹減ってたりするんだろうか?


「ところで、アーロってさ」

「んん?」


 ラニーさんは足を止め、俺に向かって振り返る。真正面に立ち、後ろで手を組んでいる姿は文句なしの美少女と言える。


「変なこと聞くけど、どこかで会ったことない?」

「! 俺とラニーさんが、ですか?」

「そうそう」


 ふと、ラニーさんから聞かれたのは……俺たちはどこかで会ったことがないかという、ものであった。

 そう聞かれて、俺は少し考える。会ったこと、会ったこと……多分、ないと思うんだが。


「いや、ないと思いますよ? 俺この町に来るの初めてですし」

「いや、多分ここじゃないんだよねぇ。私、前まで他の国に行くこともあってさ。そこで、なんか会ったことがある気がするんだよね」


 うーん……と、顎に指を当て考えているラニーさんの言葉に、俺は一つの可能性を見た。

 この町ではなく、別の国、か。そこならば、会った可能性がないとは、いえない。

 なんせ、俺は勇者として、いろいろな場所を回っていたことがあったからだ。


「うーん……」

「……」


 なるほど、そういうこともあるのか……もし、勇者の頃の俺を見たことがあるのならば、俺が勇者だって知られることになる。

 ファルマー王国から逃げる際に、顔でも変えてくるんだったな。


「き、気のせいじゃないですか? 世界には似てる人間が三人はいるって言いますし」

「そっかなぁ」

「そうですよ」


 俺の正体を、誰彼知られるわけにはいかない。

 その後必死にごまかし、なんとかラニーさんの興味は別に移った。
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