83 / 263
死に戻り勇者、第二の人生を歩む
町の案内は任せなさい
しおりを挟むその日は、セント町に泊まっていくことになった。というか、いつもは基本的に泊まっているらしい。
さすがに、ポニーで数時間の道を日帰りするのは、やはり少しキツイらしい。ということで、いつもお世話になっているのが……
「ささ、荷物はこっちで預かっとくさ。ゆっくり、観光なり休憩なり、好きにしときな」
柔らかい笑顔を浮かべるダガさんは、俺たちの荷物を回収する。後々、二階に持っていくとのことだ。
ここはダガさん、サーさんの家でもあり、軽い酒場でもあり、そして宿屋でもある。二階は、客が泊まるためのスペースが確保されている。
いつも、エフィとヨルガはそれぞれ部屋を取り、止まっている。今回は、俺とヨルガが同室になる形だ。
「アーロさん、どうします? 部屋で休みますか?」
「うーん、俺は町を見て回りたいかな。ちょっと興味がある」
「なら、案内は任せな。おーい!」
ダガさんが道案内を買って出てくれる……かと思いきや、ダガさんは二階に向けて声を上げる。宿なのに他の客はいないのだろうか。
それから少しして、「はーい」と元気な声で応答があり……ドタドタと、誰かが降りてきた。
「なぁにー、お父さん」
「お前、今日暇だろ。この兄ちゃんに町の案内をしてやってくれ」
「んー?」
降りてきたのは、くせっ毛の強い、薄い紫色の髪の色をした少女だ。肩まで伸びた髪、所々ぴょんぴょんと跳ねている。
彼女は、ダガさんの視線をたどるように、俺の顔を見た。タレ目な瞳が俺を捉えた。
「こいつはラニー。俺たちの娘だ」
「どうもー、ラニーでーす」
「ど、どうも」
なんとも、だらしな……ふわふわした感じの人だ。これまた癖のある……ダガさんとサーさんの子供というには、もっと元気の塊みたいなイメージがあったのだが。
だが、それとは別に彼女に対して、だらしないと思ってしまう印象があって……
「こらラニー、またそんな格好して! はしたないよ!」
「えー、いいじゃん家の中なんだし」
「お客さんの前でしょう!」
「呼んだのそっちじゃん」
はしたない……そう言われるラニーの姿は、シャツ一枚であった。
ダボッとした、シャツ。シャツが大きいのか、彼女が小さいのか……とにかく、シャツ一枚のみの彼女は、その姿に恥じらいも覚えていないようだ。
手も、袖に若干隠れているし、ちょっと子供っぽく見えてしまう。
「私は、どうしようかな……」
「ならエフィちゃん。お茶の淹れ方、教えてあげようか?」
「! ホントですか!」
部屋で過ごすか、それとも外出するか。それを悩んでいたエフィに、サーさんがお茶の淹れ方を申し出る。さっきお茶の話で盛り上がっていたし、ちょうどいいのだろう。
女性同士、気も合うようですでに盛り上がっている。
「俺は、休む」
ふぁ……とあくびをするヨルガは、先に二階へと上がっていく。ここに来るまでの間、モンスターとも戦ったし疲れているのだろうな。
というわけで、俺はラニーさんの案内の下、町を見て回ることになった。
「とにかく、あんたは着替えてきなさい」
「えぇー」
「えぇじゃない」
渋々といった感じで、ラニーさんはニ階へと着替えに上がっていく。
……大丈夫だろうか?
「悪いなぁ、あの通りズボラな性格でな」
「は、はぁ……」
「けどまあ、変に知識だけは人一倍あるからよ。町回ってる間に気になることでもあったら、遠慮なく聞いてくれ」
「はは、そうさせてもらいます」
まさかいきなり、見知らぬ人に町の案内を頼むことになるとはな。これまでにもそういった経験はないこともないが、一人だと少し、緊張するな。
その後、エフィはサーさんと店の奥へと引っ込み、ラニーさんが降りてくるまでの間、適当な雑談をダガさんと交わしていた。
……ラニーさんが降りてきたのは、それから十分以上経ってのことだった
1
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる