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死に戻り勇者、因縁と対峙す
その人物の名は
しおりを挟むモンスターの活性化。まだこのファルマー王国及び周辺では、数えるほどにしか被害が出ていない。
それが、セント町に近づくにつれ、凶暴となったモンスターの数が増えているようだ。
その先になにかあるのは、間違いないだろう。
「ゲルド様は、乗り気ではなかったようだけど……ここにきて、妙なやる気を出しているみたいよ」
「それは、どうして?」
「セント町の隣村にある、ラーダ村。そこにいる人物が、ハイプテラの大群を撃退したらしいの。しかも、冒険者でもないのに」
チュナールから受けた報告では、ゲルドはここにきて、なかなか骨がありそうな人物の存在に、笑みを浮かべていたという。
退屈だった時間に、楽しみが生まれたようだったと。
「それは、すごいね」
「えぇ。その人物の名前は……アーロ」
「アーロ……」
メラの口から告げられたその名前は、やはり聞いたことのない名前だ。そもそも聞いたことがあったとしても、ラーダ村を知らないのだから別の場所にいる同名の別人なのだが。
その、アーロという人物がAランク冒険者たちと協力し、ハイプテラの大群を撃退した。
その人物についても、同時進行で調べてみると、チュナールは言っていた。なんの目的でセント町を訪れたのか、他に注目すべき点はあったか、などだ。
「モンスター、ラーダ村、アーロという人物……ですか」
「なんだか、なにか起こりそうでワクワクするね!」
「……リリー」
「冗談だよ」
とにかく自分たちは、ただ報告を待つことしかできないということだ。歯がゆいが、それも仕方のないことだろう。
ザーラ国王と共謀し、勇者ロアを殺そうとしたゲルド……彼を放っておくのは、危険な気がしている。彼が興味を持ったというラーダ村に、迷惑がかからないといいが。
まぁゲルド一人ならばともかく、チュナールやバングーマ、他にも頼りになる兵士が揃っている。
あまりひどいことには、ならないはずだ。
「……ディアお姉ちゃんは、ロアお兄ちゃんをどこかに逃がした、って言ってたんだよね?」
「えぇ」
唐突に、リリーが聞く。それは、メラがシャリーディアと出会ったときにしたという、会話のこと。シャリーディアは、ロアを国外へと逃がしたというのだ。
彼がその後どこへ行ったのかは、誰にもわからない。
「なぜ、それを今?」
「ん……なんで、だろ。なんだかわからないけど、このあたりが、ざわざわするの」
そう言って、リリーは膨らみかけの己の胸元に手を当てる。この気持ちを、なんて表現すればいいのかわからない。一番近いのは、胸騒ぎ……だろうか?
近いうちに、リリーにとってとんでもないことが起こるような……そんな、感覚がある。
「……考え事は、また明日にしましょう。そろそろ寝ないと」
「えー、まだ眠くないよ」
「だめです。夜ふかしはお肌の天敵なんだから。そもそも貴女は王女なのだからもう少し自覚を……」
「あーあー、わかったわかったよ。寝る寝るって」
また、メラからのお小言が始まってしまう。それを察してか、リリーは耳をふさぎながらあーあーと口を開く。その姿に、メラは嘆息する。
子供っぽい、とは悪いとは言わないが、もう少し年相応に落ち着いた態度でいてほしいものだ。それを本人に伝えたところで、聞く耳は持たないだろうが。
「では、お休みなさい」
「うん、おやすみー」
ベッドに潜り込むリリーを見届けてから、メラは部屋の外へと出る。きっと、まだ寝ずに布団の中でごそごそと起きているのだろうが……だからといって、明日もいつも通りの時間に起こすことに変わりはない。
メラは廊下を歩きつつ、ふと窓の側で魔立ち止まった。そして、窓の外……空を、見上げる。
夜……暗闇が、辺りを包み込んでいる。そんな中、眩しく輝く月明かりだけが、地上を美しく照らしていた。
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