死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

文字の大きさ
156 / 263
死に戻り勇者、因縁と対峙す

その人物の名は

しおりを挟む


 モンスターの活性化。まだこのファルマー王国及び周辺では、数えるほどにしか被害が出ていない。

 それが、セント町に近づくにつれ、凶暴となったモンスターの数が増えているようだ。

 その先になにかあるのは、間違いないだろう。


「ゲルド様は、乗り気ではなかったようだけど……ここにきて、妙なやる気を出しているみたいよ」

「それは、どうして?」

「セント町の隣村にある、ラーダ村。そこにいる人物が、ハイプテラの大群を撃退したらしいの。しかも、冒険者でもないのに」


 チュナールから受けた報告では、ゲルドはここにきて、なかなか骨がありそうな人物の存在に、笑みを浮かべていたという。

 退屈だった時間に、楽しみが生まれたようだったと。


「それは、すごいね」

「えぇ。その人物の名前は……アーロ」

「アーロ……」


 メラの口から告げられたその名前は、やはり聞いたことのない名前だ。そもそも聞いたことがあったとしても、ラーダ村を知らないのだから別の場所にいる同名の別人なのだが。

 その、アーロという人物がAランク冒険者たちと協力し、ハイプテラの大群を撃退した。

 その人物についても、同時進行で調べてみると、チュナールは言っていた。なんの目的でセント町を訪れたのか、他に注目すべき点はあったか、などだ。


「モンスター、ラーダ村、アーロという人物……ですか」

「なんだか、なにか起こりそうでワクワクするね!」

「……リリー」

「冗談だよ」


 とにかく自分たちは、ただ報告を待つことしかできないということだ。歯がゆいが、それも仕方のないことだろう。

 ザーラ国王と共謀し、勇者ロアを殺そうとしたゲルド……彼を放っておくのは、危険な気がしている。彼が興味を持ったというラーダ村に、迷惑がかからないといいが。

 まぁゲルド一人ならばともかく、チュナールやバングーマ、他にも頼りになる兵士が揃っている。

 あまりひどいことには、ならないはずだ。


「……ディアお姉ちゃんは、ロアお兄ちゃんをどこかに逃がした、って言ってたんだよね?」

「えぇ」


 唐突に、リリーが聞く。それは、メラがシャリーディアと出会ったときにしたという、会話のこと。シャリーディアは、ロアを国外へと逃がしたというのだ。

 彼がその後どこへ行ったのかは、誰にもわからない。


「なぜ、それを今?」

「ん……なんで、だろ。なんだかわからないけど、このあたりが、ざわざわするの」


 そう言って、リリーは膨らみかけの己の胸元に手を当てる。この気持ちを、なんて表現すればいいのかわからない。一番近いのは、胸騒ぎ……だろうか?

 近いうちに、リリーにとってとんでもないことが起こるような……そんな、感覚がある。


「……考え事は、また明日にしましょう。そろそろ寝ないと」

「えー、まだ眠くないよ」

「だめです。夜ふかしはお肌の天敵なんだから。そもそも貴女は王女なのだからもう少し自覚を……」

「あーあー、わかったわかったよ。寝る寝るって」


 また、メラからのお小言が始まってしまう。それを察してか、リリーは耳をふさぎながらあーあーと口を開く。その姿に、メラは嘆息する。

 子供っぽい、とは悪いとは言わないが、もう少し年相応に落ち着いた態度でいてほしいものだ。それを本人に伝えたところで、聞く耳は持たないだろうが。


「では、お休みなさい」

「うん、おやすみー」


 ベッドに潜り込むリリーを見届けてから、メラは部屋の外へと出る。きっと、まだ寝ずに布団の中でごそごそと起きているのだろうが……だからといって、明日もいつも通りの時間に起こすことに変わりはない。

 メラは廊下を歩きつつ、ふと窓の側で魔立ち止まった。そして、窓の外……空を、見上げる。

 夜……暗闇が、辺りを包み込んでいる。そんな中、眩しく輝く月明かりだけが、地上を美しく照らしていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...