死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

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死に戻り勇者、因縁と対峙す

数の差

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 元から凶悪なゲルドの顔が、さらに凶悪に歪む。俺を斬ることを、ためらいがないどころか楽しみにしている様子だ。

 話し合いは不可能。それどころか、うまく説き伏せて他の兵士まで参戦してくる可能性が出てきた。


「……!」


 現に、兵士たちはそれぞれが【空間収納】から出てきた剣を手にしている。その表情にはまだ迷いが見れるものの、すでに戦闘態勢であることに変わりはない。

 以前の俺だったら、腕に覚えがあるとはいえ兵士数人相手、脅威には思わなかっただろう。それでも、そこにゲルドが加わっているのは大きな影響となる。

 今は、以前よりも俺の力は落ちているかもしれない。相手が誰であっても、油断はできない。


「……一対六、か」


 ゲルドと五人の兵士。その中でも、バングーマさんは兵士の中でも一番強い。老兵士と言える見た目ではあるが、歳を重ねている分経験は豊富だ。体も、おそらく若い兵士よりも動く。

 兵士として培ってきた勘、経験……それは、おそらくゲルドをも上回るものだろう。


「数の差は明らか……だが……」

「卑怯とは、言わないさ」

「へぇ」


 数の差による戦闘……そんなもの、これまでにいくらでも経験してきた。もっとも、数十体の魔物相手と、数少ないが頼りになる仲間とじゃ、質が全然違ったわけだが。

 たった一人で、複数の相手をすることは、なかったかもしれないな。


「お前ら、ロアを囲め。一斉に仕留めるぞ」

「……はい」


 四人の兵士たちは、それぞれ俺を囲う位置へと移動する。正面にゲルド、そしてその隣にバングーマさん。俺の逃げ場を塞ぐように、配置されている。

 俺は、逃げるつもりはないが……それを抜きにしても、数の優位性を使うなら、万全の配置だ。


「う……おぉおおお!」


 兵士の一人が、剣を構えて向かってくる。それに弾かれたように、残りの三人も。

 戸惑いを見せながらも、その動きに一切の無駄は見えない。さすが、鍛えられた兵士というわけだろう。

 だが……


「よっ、はっ」


 いかに洗練された動きでも、それを避けることはわけはない。俺は、前世では【勇者】を授かった時点で、鍛えられた一般兵士よりも身軽な動きができた。

 いくらなまっているとはいえ、ここで兵士たちに後れを取ることはない。


「ロア、様……参ります!」


 四人の剣撃を避けたところで、正面からバングーマさんが向かってきた。剣を抜き、四人とは比べ物にならない速度で斬りかかってくる。それも、振り払うものではなく突きによる攻撃だ。

 俺はそれを、少ない動きで避ける。狙ってくるのは顔が多いため、左右へと避ける形だ。

 しかし、バングーマさんは前進しながら突きを繰り出してくるため、俺は自然と後ろに下がることになる。その手捌きは速く、油断すれば俺がやられてしまう。


「っ、らぁ!」

「!」


 カンッ……と、鋭い音が響く。俺がバングーマさんの剣の突きを、受け止めたからだ。なにで受け止めたか……もちろん、素手なんかではない。

 右腕に突き刺さったままであった、ゲルドの投げつけた短剣。それを引き抜き、刃の腹で突きを、受け止めたのだ。


「まさか……そんな、止め方を!?」


 これにはバングーマさんも、驚愕に目を見開いている。俺が余裕でやったと思っているのだろう……だが、一か八かのところが大きかった。うまくいってよかった。

 そのまま、剣ごとバングーマさんを押し返す。


「む……!」


 よたよたとふらつきつつも、バングーマさんは体勢を立て直す。俺も、短剣を片手に構える。

 右腕に短剣が刺さっていたとはいえ、傷は深くはない。大丈夫、動かせる。


「いいですよバングーマさん、本気で来てください」

「!」


 先ほどのゲルドとの会話を聞く限り、彼に手加減させて……というのはあまりよろしくないだろう。ゲルドなら、相手が手を抜いているかそうでないか、わかるはずだ。

 それは……【鑑定眼】とは関係ない、戦いを通じて養った目だ。


「では……失礼ながら……!」


 俺の言葉に、バングーマさんも覚悟を決めたようだ。先ほどよりもよほどの速度で、俺との距離を詰め……躊躇なく、首を狙う。

 さすがは、戦いに戦いを重ね、今も前線で戦う兵士だ。その動きは洗練され、そこいらの人間やモンスターならば一太刀で、それこそなにが起こったかも理解させずに断ち切ることだろう。

 ……そこいらの人間なら、な。


 ガギィン!


「!」


 俺は、刃が首へと届くよりも前に、持っていた短剣で刃を受け止める。一歩遅れれば、首に刃が触れていたであろう速度……それを、受け止められたことにバングーマさんは驚愕している。

 その隙を、俺は見逃さない。


「せい!」

「!?」


 そのまま短剣で、刃を受け流す。バランスを崩したバングーマさんはその場でよろつき……腹部に、拳を打ち込む。

 もちろん本気ではないが……鍛えられたとはいえ兵士、それも鎧で身を包んでいない人間の意識を刈り取るのは、容易い。


「っ……か……っ」


 なんとか耐えようとしていたバングーマさんだが、耐えきれず意識を飛ばし……その場に、膝をついてから倒れた。

 たった一太刀、たった一撃……その、瞬間的な攻防に、ゲルドを除く兵士たちは唖然とした表情だ。


「他、隊長が……っ!?」

「まさか……っ!?」


 唖然としている兵士たちの隙を突き、俺は四人の兵士それぞれの背後へと移動し、うなじを手刀で打つ。

 彼らにも悪いが、気を失っていてもらおう。


「……これで、一対一だ」

「へぇ、さすがだな。この程度の数の差なんざお前の前じゃ、無意味ってわけだ」
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