死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

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死に戻り勇者、因縁と対峙す

元仲間同士の戦い

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「おらぁ!」

「ふぅ!」


 ゲルドの短剣と俺の拳とが、ぶつかり合う。とはいえ、刃の部分を素手で受け止められはしない。剣の峰となる部分を見抜き、そこに拳をぶつけ動きを止める。

 今のゲルドの手持ち武器は、短剣二刀のみ。【空間収納】の『スキル』を持つバングーマさんが眠っている以上、これ以上ゲルドに武器が増えることはない。

 だからこそ、ゲルドもこれまでのように捨て武器ではなく、それを全力で使ってくるはずだ。もしくは……


「……」


 チラと、ゲルドの視線が動く。その先にいるのは、倒れている兵士……ゲルドが見ているのは、兵士の側に落ちている武器、剣だ。

 短剣とは違い、長物の剣。ゲルドにはあれだって使いこなせる。もう武器が増えることはないが、この場には残り五刀の剣がある。

 拾う暇を与えれば、武器はまだまだあるということだ。


「ほっ、はっ、らぁ!」

「よっ、ほっ、たっ!」


 ゲルドは両手からそれぞれ斬撃を繰り出し、俺はそれを受け止める。いや、受け流す。これだけの剣撃、捌くのがようやくだ。

 ゲルドは俺がファルマー王国を出てからも、鍛錬を重ねてきたのだろう。その鋭さが、以前の比じゃない。油断したら、すぐに致命傷を与えられる。

 【鑑定眼】の『スキル』により、ゲルドは常に俺の急所を狙ってくる。そして、急所を突かれれば、俺でも死ぬ……それは、前世で経験済みだ。


「ちっ、うまくかわしやがる……!」

「そりゃ、当たったら死ぬんだ……避けるしか、ないでしょ……!」


 ゲルド相手に接近戦は不利だ……だが、俺も接近戦を得意とするタイプ。自然と、お互いの得意分野に突っ込んでいくことになる。

 確かにゲルドの剣捌きはすごい……だが、俺だってやられてばかりじゃあない。剣を弾きながら、反撃を試みる。

 何度も連打を続けていくうち、剣を弾くのにも慣れてきた。だから、手で防御しつつ、足で反撃を試みる。


「ちっ、鬱陶しい……なんてな、べっ」


 忌々しげに眉を寄せるゲルド……だったが、不意に笑みを浮かべる。そして、俺を挑発するように舌を出した……かと思いきや……


「! は、りぃ!?」


 舌の上には、小さな針が乗っていた。驚きに動揺する中で、ゲルドは俺の顔めがけて「ぷっ」と針を飛ばす。

 とっさのことに、なんとか体を捻り避けることには成功するものの……隙が生まれた。ゲルドはその隙を見逃すことはなく、俺の左肩へと深々と短剣を突き刺した。


「ぐ、ぁあ!?」

「とっさに避けたのは見事だったが……はは、あの頃の反応速度にゃ程遠いってわけだな」


 くそ、ゲルドめ……自分の武器は短剣だけだと思わせておいて、口の中に針を隠していたなんて。俺の反撃をかわしながら、さらなる反撃で返してくるとは。

 たかが針とはいえ、それが急所を狙ってくるとなれば過剰に反応してしまう。たとえ掠っただけでも、毒が塗ってあったりしたら取り返しが付かない。ゲルドが口の中に隠していた時点で、毒はないとは思うが。


「いつの間に、そんな……」

「小細工、ってか? まあ、念には念を入れてたってこった」


 口の中に針を隠したまま、今まで行動していたってわけか。相変わらず、こちらの想定を上回ってくる奴だな。

 しかし、これはチャンスでもある。


「ぬ……ぅううう!」

「おっ?」


 左肩に短剣が突き刺さった状態のままではあるが、俺は力の限りゲルドを振り払う。これで、ゲルドからは短剣が一つ、失われたということになる。

 代わりに、俺の左肩に深々と突き刺さったままではあるが。


「くっ……」

「無理に抜かない方がいいぜ? 俺がそんな甘え刺し方をしていると思うか?」

「いや……そうだな」


 俺も、先ほどゲルドから奪った短剣はある。これで、互いに得物は一つずつだ。それでも、俺とゲルドにとっては得物はあってもなくても、それが大きく有利不利に繋がるわけではない。

 それでも、手っ取り早く相手を傷つけ、動きを鈍らせる刃物は、脅威だ。


「させるか!」


 俺が、左腕に突き刺さった短剣を抜こうとする前に、ゲルドは距離を詰め短剣を振るう。俺も、手にしていた短剣で防ぎ……ぶつける。

 刃と刃がぶつかり合い、鈍い金属音が響き渡る。また口から針を飛ばしてくるなんてことはないだろうが、なにをしてくるかはわからない。気を配らなければ。

 当たらなくても、体のどこかに武器を仕込んでいるかも……そう思わせるだけで、先ほどの攻撃は充分な意味があった。


「ぐっ……ぇい!」

「ははっ、あんまり左腕が動いてねえようだな!」


 肩に、短剣が刺さっている……とはいえ、痛みは腕全体にある。あまり派手には動かせそうにない。

 ゲルド相手でなければ、左腕が動かせなくても勝機は十二分にあるが……ゲルド相手だと……


「かははは、どしたどしたぁ!」

「っ……!」


 持っている得物は二つから一つに減ったはずなのに、まったく勢いは死なない。どころか、嬉しそうにすらしている。

 その動きは、剣で舞っているかのよう。


「そこに刺したままだと、怪我深めるぜ?」

「! ……ぐぉあ!?」


 意味深なゲルドの発言……ゲルドは姿勢を低くし、回し蹴りを放つ。顔面を狙われ、上体をそらして避けるが……

 しかし、ゲルドの狙いは顔面ではなかった。肩に突き刺さったままの短剣、その持ち手に蹴りを入れ、肩へと思いきり押し込んだ。
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