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死に戻り勇者、因縁と対峙す
お前は何者だ
しおりを挟む「いっ……てぇ!」
「おっと……!?」
ゲルドの蹴りにより、短剣が肩に深く突き刺さっていく。それは肉を抉り、骨にまで到達して……強制的に、痛みを引き起こす。
意識が飛びそうになるのをぐっと抑え、ゲルドの足を掴む。そのまま力の限り振り回し、ゲルドの体を地面へと打ち付ける。
「ぐっ、おぉ……!」
「どうだ……!」
地面に顔面から打ち付けられたことでゲルドは悶絶し、俺は突き刺さったままだった短剣を思い切り引き抜く。
はぁくそ、いてえ……!
「っ、てめ……いってぇな……!」
「それは、こっちの台詞だ……!」
血に塗れた短剣を、引き抜く。
「おいおい……そんな簡単に、抜ける刺し方はしてねえはずだぜ?」
「あぁ、すげえ痛いよ」
ゲルドの奴、ただ突き刺すだけでなくご丁寧に捻るようにして突き刺していやがった。
短剣の抜けた箇所から、血が流れていく。止血の作業をしたいが、そんな暇もなさそうだ。
ゲルドも、悶絶したままではあったが俺から、目は離さない。そこに、強い殺意を感じる。
「やっぱお前は、すげえよ」
「ゲルド……?」
「ファルマー王国を出てから、ろくに体も動かしてなかったんだろう? だってのに、俺と……ったく、とことん……腹の立つ野郎だ!」
ゲルドは起き上がると同時、俺に向かって手を振るう。握られた拳……その中に、先ほど地面の砂を取っておいたらしい。
まさかゲルドがそんなことをしてくるとは思っていなかった俺は、すっかり油断してしまっていた。
「くっ……目つぶし……!」
「はっ」
咄嗟に、目をつぶる……なんだ、次になにが来る!?
ゲルドの気配は、動かない。それに、風を切るような音……これは……短剣を、ぶん投げてきたか!?
「っ!」
おそらく、狙いは顔だ。だが、念には念を、体ごと横へと移動する。直後、顔の横をなにかが過ぎ去っていく音が耳に届いた。
やっぱり今のは、短剣を投げたのか。でも、これでゲルドの得物はなくなった……
「目ぇ閉じたまま、よくもまあ避けられるもんだ」
「!?」
ふと、背後からゲルドの声……まさか、いつの間に!?
まるで、俺が避けるのをわかっていたように、ぴったりのタイミングで……
「ま、お前なら避けるんじゃねえかと思ってたさ。どっちに避けるかは、賭けだったが」
「ゲルド……!」
「さっきの、お返しだ!」
背中から、腹部に腕を回される。そして、ぴったりとゲルドが密着しているのがわかる。
その直後、体が浮く。この浮遊感は、まさか……
ようやく、目を開ける。視界の先には、空が広がっていて……景色が、反転して、地面が迫り……
「んっ……ぐ……!」
背後からゲルドに抱きしめられ、逃げ場を封じられた状態で、後方へと反り投げられた。
いわゆる、バックドロップ……目を閉じていた一瞬の間にやられてしまったため、防御も間に合わずにもろに頭を打ち付けてしまった。
「ぐぁ……っ、くぅ……!」
「はぁ、はー……いいざまだな、ロア」
今度は俺が、悶絶してしまう。くそ、痛い……ゲルドめ、的確に俺にダメージを与える方法を!
ゲルドが、立ち上がるのがわかる。そして。なにかを拾い上げている。あ、あれは……いつのまにか落としてしまった、短剣。
それが、鈍い輝きを放ち、血を滴らせている。
「じゃあなロア……久しぶりに、楽しかったぜ」
「まっ……!」
俺を見下ろし、ゲルドはなんの躊躇もなく短剣を振り下ろした。
どこだ、どこを狙う頭か心臓かそれとも……
「っ、ぬっ……!」
狙いが分からないときは、目線を確認しろ……! ゲルドの【鑑定眼】は、見るという特徴から必ず、狙う場所をゲルドは深く注視することになる。
深くとは言っても、それは常人にとっては大差ないものだろう。だが、俺なら……ゲルドとずっと行動を共にしてきた俺なら、わかる……!
「ここ……!」
頭は痛む、体だってズキズキと痛む。左腕からは出血が止まらない……だが、こんな形で命を取られるのだけは、ごめんだ。
せっかく、ディアがたった一度しか使えない力で、俺を生き返らせて……いや、時間を撒き戻してくれたのだ。
それを、二度目も……ゲルドに、命を奪われて、たまるものか……!
「っ、てめぇ……」
眼前に迫った刃を、間一髪で両手で受け止める。刃を両手で挟むようにして、これ以上の進行を防ぐ。
いつの間にかゲルドは俺に馬乗りになり、両手を使い全体重をかけ、刃を俺に突き刺そうとしていた。
「っ、往生際が、悪いぞ……ロア……!」
「それは……どうも……!」
刃を押し込もうとするゲルドと、それを押し返そうとする俺。体勢的には上になっているゲルドが有利、しかも俺は左腕にうまく力が入らない。
この、ままじゃ……!
「お前……いったい、何者なんだ……」
「は……?」
急に、ゲルドが口を開く。他のことに気を回している余裕はないんだが……俺の注意を、そらす作戦か?
それにしては、やけに実感のこもった……
「俺が、お前を殺そうとした時……お前は、まるで俺に殺されるのが、わかってたように……避けやがった」
「……それは……」
「反射神経、なんて問題じゃねえ。お前はわかってたんだ、俺に殺されるかもしれないと! なぜだ、俺ァそんな素振り見せなかった……なぜ、わかった」
「……」
「お前は……何者だ、ロアァ……!」
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