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死に戻り勇者、因縁と対峙す
かつての仲間たちは今
しおりを挟む「それで……これから、どうするんですか?」
「……んん」
真実を知ったバングーマさん……いかにそれなりに力のある立場とはいえ、それは兵士の中という枠組みの中での話。
それに、一兵士が知ったところで……なにをどうできる話でも、ない。
「……私個人の意見を言うならば。このままあなたを見逃してもいいとは、思っています」
「じゃあ……!」
「しかし……ゲルド様が、なんと言うか」
「……ま、そうですよね」
見逃しても、というバングーマさんの言葉に、エフィは嬉しそうにするが……その直後に、それは難しいことを伝える。
それこそが、一兵士ではどうにもできない問題だ。ゲルドがいる限り、俺を見逃すことはできないのだ。
「……!」
「エフィ、大丈夫だから」
「でも……」
「少なくとも、バングーマさんに敵意はないから」
未だに警戒を解かないエフィだが、落ち着くようにと語りかける。自分のために、こんなにも感情的になってくれるのは嬉しくないと言えば嘘になる。
だが、エフィがこんなにも怒ることは、ないのだ。
「……言っておきますけど、アーロさんはもうラーダ村の一員です。王国だか知りませんが、勝手なことはさせませんから」
「はは。すっかり嫌われてしまったようですな」
見た感じ、バングーマさんは人に好かれるタイプだ。だから、こんなにも嫌われるというのはあまりないのではないだろうか。
エフィとは、タイミングが悪かっただけだ。
「あの、バングーマさん。聞いてもいいですか」
「……なんでしょう」
「……俺がいなくなった後、王国でなにか変わったことはありましたか?」
本当なら、ディアは今どうしているのか、それを聞きたい。だが、ディア個人のことを聞くなど、それこそ変な疑いを持たれてしまう。
だから、王国全土という、回りくどい言い方になってしまった。
「……ほとんどの者は、指名手配犯となっているあなたをよく思わない者で、溢れています」
「はは、でしょうね」
「しかし……そうでない者も、います」
バングーマさんは、その場に腰を下ろす。
そして、朝日の昇る空を、見上げた。
「あなたと旅を共にしたドーマス様は、毎日のように城に出向き、真相を追求しようと掛け合っているようです」
「ドーマスさん……」
「ミランシェ様は、冒険者ギルドでそれとなくロア様の情報を集めているという話を聞きました。無関心に見えて、あなたのことを気にかけているんでしょうなぁ」
「ミランシェ……」
「それに……リリー様は、王女という立場上表立って行動はしていません。ですが、あの表情を見るに、心を痛めていることは確かです」
「リリーも……」
かつての仲間たち……情に熱いドーマスさんや、俺を慕ってくれていたリリー。あまり俺に関心などないと思っていたミランシェまで、俺のことを気にしてくれているのか。
だが、一番聞きたい人物の名前が、ない。そもそも俺を逃がしてくれたのは彼女なのだから、気にしてないことはないとは思うが……
この流れなら、聞いても不思議ではないだろう。
「じゃあ、その……シャリーディア、は……?」
「……」
その名を聞いてバングーマさんは、密かに目を伏せる。なんだよその反応。
「申し訳ございません。シャリーディア様は神官……いえ、大神官という立場。その動向は私には……」
「あ……そう、ですよね」
そうだ、失念していた……バングーマさんの表情は、情報がないことへの申し訳なさだったか。
日々城を訪れているというドーマスさん、冒険者であるミランシェ、王女とはいえ同じ城にいるリリーとは違い……一兵士であるバングーマさんには、シャリーディアとの接点がない。
神官は、基本的に教会に暮らしている。しかも、シャリーディアは大神官……
そんな人物の動向を探れって方が、無茶だ。
「けど、とりあえずみんな元気そうでよかったです」
俺のことを気にしてくれている以上に、みんな元気でいてくれたことが、なにより嬉しい。
あの時俺は、命を狙うゲルドから逃げて……他のみんなと、挨拶もできないままに王国を出た。
旅から帰って、一旦別れた後に……そのうちの仲間が、気づけば指名手配されていたのだ。そりゃ、驚いただろう。
心残りがあるとすれば……みんなに、せめて一言、言っておきたかったなってことくらいか。
「さて……そろそろ、兵士たちも目を覚ますでしょう」
「そうですね」
立ち上がるバングーマさんは、倒れている兵士たちを見る。みな平等に急所を突いて気絶させたが、バングーマさんはいち早く起きた。
彼が早かっただけで、他のみんなもじき目を覚ますだろう。
ゲルドは……まだ、わからないが。
「今の話は、今はまだ、私の胸の内にしまっておきます」
「その方がいいでしょうね。余計な混乱を招くことになる」
「え、どうしてです? アーロさんの無実を晴らせる、絶好の機会ですよ!?」
真実は、バングーマさんの胸の中に……しかし、それに納得しないエフィ。
彼女の気持ちはわかるが……俺は別に、無実を証明したいわけじゃ、ない。
「いいんだよエフィ。真実を話したところで、国民に余計な混乱を招くだけだし」
「でも……!」
俺を貶めた国王に復讐したい……とかなら、別だが。俺には、そのつもりはない。
そう……復讐したって、なにが生まれるわけでも、ないのだから。国王に、いやもしかしたらその娘であるリリーに、なにか被害が及ぶかもしれない。
そんなことない……とは、言えない。人間なんてのは、環境が変わればその人間性まで、変わってしまうものなのだから。
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