174 / 263
死に戻り勇者、因縁と対峙す
脅してるわけじゃない
しおりを挟む今のファルマー王国の状況は見てきたわけじゃないし、ザーラ国王の人となりを知っているわけでもない。だが、バングーマさんの話を聞いてわかったのは……
前王ザラドーラに比べて、ずいぶんと自分勝手なイメージがする男だ。俺の命を狙ったことも含めて……な。
「……つまり、今あなたたちがここにいることが公になると、そちらの王国にとっては都合が悪いということですね?」
「え? ……え、えぇ、まあ」
今聞いた話を整理したらしいエフィが、なにやら怪しげな言葉を告げる。そして、それを受けたバングーマさんは微妙に冷や汗を流している。
……なんだろう、エフィから黒い笑みが見える。
「お国事情は大変ですねぇ。内密にこんなところにいることがバレたら大変なことになりますよ」
「……えっと……もしかして、エフィ、バングーマさんを脅してる?」
「いえいえまさかそんな」
脅して、とは物騒な言い方かもしれないが、それに近いことをエフィは今やっている気がする。
ファルマー王国の兵士であるバングーマさんたちは、その格好を見るに身分を隠している。その身分がバレれば、他国の兵士が潜り込んでいるという状況になる。
そうなれば、ファルマー王国にとってはまずいことになるだろう。国同士の問題だ、俺が想像するよりも大きな問題になりかねない。
「脅してはいませんよ。ただ……この件を公にされたくなければ、おとなしく帰って、アーロさんのことは内緒にしておいてください」
「それを脅しと言うんだよ!?」
「いえ取り引きです」
思ったよりエフィ黒いな! いやまあ、俺のためを思って言ってくれているのは、わかるんだけども!
エフィが持ちかけるのは取り引きというより、脅し……いやでも、取り引きなんて場合によっちゃ脅しと同じようなもんか。
それを受けて、バングーマさんは苦々しい表情を浮かべている。
「ぬぅ……」
「……結局のところは、その人を黙らせないとだめってことですか」
またも怖い発言と共に、エフィは未だ気絶しているゲルドへと視線を向ける。
黙らせる、って……その言葉遣いが、もう怖いんだけど。
「エフィ? あまり物騒なことは……」
「いっそのこと、ワモちゃんに地中に埋めてもらいましょうか……」
「エフィー!?」
ぶつぶつと何事か呟いているエフィ……なにやら不穏な言葉が聞こえてしまう。ワモニグラを使ってまでゲルドを埋めようとしている。
さすがにそこまでの発想は俺にもなかったよ!?
「あはは、冗談ですよ。あの人が国に無事に帰らないと、それはそれで問題なんですもんね」
「じょ、冗談か……それならよかった。……本当に? 本当に冗談?」
「うふふ」
冗談……と言ってくれたが、目が笑っていない。というか、問題とするのがゲルドを無事に帰さないと不審がられることであって、ゲルドを埋めることに関してはなんとも思ってないのか。
結構長い間一緒の村で暮らしてきたが……この短時間で、エフィの知らなかった面がどんどん明らかになってきている気がする。
「とりあえず、その人縛っておきましょう。起きたら、またうるさくなりますよ」
「え? あ、あぁ、そうだな」
とりあえずエフィの言葉に従い、気絶したままのゲルドの手足を縛る。後ろ手にした状態で手首を、そして足首を拘束。
これで、ゲルドが起きても好きに暴れたりはできないだろう。
「う、んん……」
「!」
ゲルドを拘束し、とりあえず岩に寄りかからせたところで、うめき声が。他の兵士たちが、目を覚ましたらしい。
四人の兵士たち……それぞれ、周りをキョロキョロと見回し、困惑の表情を浮かべている。まあ、それはそうだろうな。
そんな彼らに、バングーマさんが今の状況を説明しているようだ。
「えっと……じゃあ、彼が……」
「あぁ、ロア様だ」
他の兵士にも、俺の正体が伝わる。あまり俺の正体を知る人間を増やしたくはないんだが……
ボコボコになったゲルドが目に入り、他にごまかす方法がわからなかった。ゲルドをボコボコにできる人物なんて、それこそ勇者パーティーメンバーでもないと、無理だし。
俺も、自我を失ってなければ、あそこまではやらなかったし。
「彼が……」
そんな中で、一人やけに俺を見つめてくる兵士がいる。それぞれ俺を物珍しそうに見てはいるのだが、一人だけ視線が違うというか。熱があるというか。
まさか、そういう……? いや、俺は男には興味がない。
「あの……少し、よろしいですか?」
そんなことを思っていた中で、その兵士が声をかけてきた。おいおい、行動力早いな。
しかも、二人で話したいなんて言われ、みんなと少し離れたところに。なんだよおい、怖いんだけど。
「あなたが、ロア様……」
「そうだけど。あのね、俺はノーマルでキミの気持ちには……」
「メラさん、をご存知ですか?」
なにか変なことを言われる前に断ろう……そう思って口を開いたが、まったく予想だにしていなかった言葉が返ってきた。
なんだって……? メラさん?
「いや、知らない」
「彼女の頼みで……いえ、彼女に依頼をした、リリー様についてお話が」
「!」
メラという人物に聞き覚えはない……しかし、次に出てきたのは、聞き覚えのあるものだった。
共に、旅をした……仲間の、名前だ。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる