死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

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死に戻り勇者、因縁と対峙す

リリーのためにも

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 リリー……その名前を聞いた瞬間、俺の中で懐かしい記憶がよみがえる。

 リリー・リリエット、本名リリー・マ・ファルマー。かつて俺たちと共に、魔王を討つ旅をした女の子だ。パーティーの中で最年少であり、王族の血を引く人物だ。

 その名を、ここで……それも、名前も知らない兵士の口から聞くことになるとは、思わなかった。


「リリーについて……って言いましたね。えっと……」

「申し遅れました。私、チュナールと申します」


 礼儀正しく礼をする、チュナールと名乗った男性。

 俺の気を引くためにリリーの名前を出した……わけでは、なさそうだ。


「それで、チュナールさん。リリーについてって……リリーと、知り合いなの?」

「あ、いえとんでもない。リリー様とは、直接お会いしたことはありません。ただ、リリー様の給仕をしている、メラさんという方から、頼まれまして……」

「給仕……」


 一兵士と王女じゃ、そりゃ身分の違いから話も出来ないか。

 けれど、リリーの給仕をしているという人物……その人物が、このチュナールさんになにを依頼したのか。


「頼まれた?」

「はい。この度、ゲルド様がセント町に行くにあたって、その行動を報告するようにと」


 チュナールさんが頼まれたのは、ゲルドの行動について……なぜ、リリーの給仕が、そんなことを気にするのだろうか。

 それに、それと俺に話しかけてきた件と、どう結びつく?


「私の任務は、ゲルド様が不審な行動をしていないか、それをメラさんに伝えること。それと、これは私の独断なのですが……メラさんから、リリー様がロア様の身を案じているという話を聞いていて、居ても立っても居られなくて」

「リリーが、俺の身を?」

「はい」


 つまり、チュナールさんは、俺のことを案じてくれているリリーを思って、思わず俺に声をかけたということか。

 そうか、リリーが俺のことを。……やっぱり、俺を殺そうとした男の娘ではあっても、いい子であることには変わりないようだ。


「メラさんは……ゲルド様が、ロア様を捜しているのではないかと、考えていたようで」

「ゲルドが、俺を……それは、どうして?」

「そこまでは。……ただ、あなたが指名手配犯となったことに、リリー様は納得しておらず。その場にいた、ゲルド様に思うところがあったようです」


 そうか……リリーは、ゲルドを疑うまではいかなくても、なにかしら思っているようだ。かつての仲間だ、うさんくさくても疑いたくはないだろう。

 それか、たとえ疑っていても、一兵士にまでそういう話はしていないか。


「……とにかく。リリーは俺を、心配してくれているのか」

「はい。そう聞いています。だから……」

「俺の生存を伝えたい、か」

「はい。きっとメラさん……リリー様も、お喜びになると思います」


 チュナールさんの気持ちは分かった。決して、面白半分で言っているわけではない。リリーのために、仕える王女のためを思ってこの人は……

 ……いや、これはもしかして……?


「……もしかしてだけど、チュナールさん」

「はい?」

「メラさんのこと好きなの?」

「!?」


 俺の指摘に、チュナールさんの顔は一気に真っ赤になる。わぉ、わかりやすい。


「な、なにを言っているのやら……そんなわけ、わけ……」

「最初から疑問だったんですよ。リリーの命令……いやお願いならともかく、彼女の給仕のお願いを、ここまで必死に聞くのはなんだろうと」

「ぬ……」


 この人の口振りから、ゲルドへの同行を志願したのは自分からだ。そして、それはメラさんの依頼があったから。

 いくら兵士でも、モンスターの生態調査に、少人数で……それもゲルドと一緒になんて、そうそう行きたいものではない。

 見たところ、仕事一辺倒ってわけでもなさそうだし。


「わ、私は、別に……」

「あはは、そういうことにしておきますよ。……リリーは、元気ですか」

「! はい……今や立派に、王女としての責務を果たしています」

「そっか……」


 俺が最後に見たのは、リリー・リリエットという勇者パーティーの一員としての姿。だから、王女としてのリリー・マ・ファルマーの姿は、見ていない。

 子供だったのが、旅の中で成長していった。きっと今は、あの時よりもさらに成長しているんだろうなあ。


「見てみたいな」

「……あの、ロア様」


 もう会えないと思っていた仲間の成長に思いをはせていると……チュナールさんが、言葉をかけてくる。

 その表情は、どこか言いにくそうなもので……


「どうしました?」

「……戻って、きませんか?」


 少しだけうつむいた様子で、チュナールさんは言う。それは、俺に戻ってこないか、というもので。

 先ほど、エフィはバングーマさんとやったやり取りに、似ている。


「リリー様に、会ったことはありません。けれど、メラさんの話を聞いていればわかります……リリー様は、ロア様のことを気にかけ、以前までの元気さがなくなってしまったと」

「……」

「ただでさえ、王女としての激務に追われているはず。そこに、ロア様のことも気にかけて……きっと、ロア様が戻れば、リリー様も元気を取り戻すはずです! どうか、リリー様のためにも」


 ……ファルマー王国に、戻らないか。またも、その選択肢が俺に投げかけられる。ここに来て、そんな選択を迫られるとは、思っていなかったな。

 だが……その問答は、これまでに何度も自分の中でした。そして、俺の答えは、いつまで経とうと変わらない。
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