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死に戻り勇者、魔王の娘と対峙する
殺したい気持ち
しおりを挟む魔王の娘は、ガリーと名乗った。まだ俺に対して反抗的な視線は向けているが、とりあえず会話の姿勢だけは見せてくれているようだ。
まずは彼女の警戒心を解いて、もう【消滅】の力をさせないようにしないと。あんな力、むやみやたらに使われたらそれこそ、世界が滅びかねない。
第二の魔王の誕生だ。そういった意味で、魔王の子供というべきか。
……というか、魔族も『スキル』持ってるんだな。俺が知らなかっただけか、それとも人間との子供だからか?
「ガリー……キミは、魔王を倒した俺を、憎んでいる。そういうわけかい?」
「……そう。お前、殺したい……」
俺の問いかけに、素直に殺意を露にする。やっぱり、自由にするのは危険か……
とりあえず、誤解だけでも解いておきたい。
「それは誤解だ」
「ご、かい……?」
「あぁ。俺は……いや俺たちは、魔王を倒していない。魔王を倒しに行ったのは事実だが、城についたときにはすでに魔王は倒されていたんだ」
誤解……そもそも、俺たち勇者パーティーは、魔王を倒していないなんていうことだ。
そこを勘違いしたまま、命を狙われてはたまったものではない。というか、どうして俺が魔王を倒したと思ったんだ。
魔王が倒される現場を見ていたなら、そもそも俺が犯人だと誤解しないはず。
「……父上を、倒せるのは……お前くらいしか、いない……」
「あー……」
なるほど……魔王という強大な存在ゆえに、魔王を倒せる人物は限りなく絞られるってことか。
つまりガリーは、俺たちが魔王城を去ったあと、魔王が死んだことを知った。魔王を倒せるのは、一部の人間……魔族を倒して進んでいる、勇者パーティーしかいないと、思ったわけだ。
「そんな、わかりやすい嘘……私を、バカに、してるのか」
「いやいや、嘘じゃないから」
「……なら、誰が父上を、殺したんだ」
ガリーの鋭い視線が、俺を捉える。その視線に、俺は思わず言葉を詰まらせてしまう。
誰が、魔王を殺したのか……その答えを、素直に伝えるべきかどうか。……いや、悩むまでもないだろう。
もしも俺が、魔王を殺した人物を……チマの存在を教えれば、この子は確実にチマを殺しに行くだろう。
「……」
『スキル』【透明化】により魔王を倒したチマ。不意打ちといってもいい。『スキル』以外の実力がないとは言わないが、ガリーに狙われて無事でいられるとは思わない。
それに……エフィが慕っているチマを、危険にはあわせたくないしな。
「それは……わからない。俺たちが魔王に会いに行ったら、すでに魔王は……」
だから俺は、嘘をついた。犯人の名前を告げるのではなく、そもそも犯人など知らないと。
だが、それで納得してくれるはずは、ないわけで。
「……ふざけてる?」
「いやいや、本当だって!」
そりゃあ、ガリーだって怒る。俺たちは魔王を倒していない、でも魔王を倒せる人間なんて多くはない、ならば誰が魔王を倒したのか、犯人はわからない……
こう聞いていたら、明らかに俺たちに都合のいい言葉だけを、並べているように感じるな。
「そりゃあ、父親を殺されて、相手を恨む気持ちはわからないでもないけど……今は、その気持ちを沈めてほしい」
「……」
我ながら無茶なことを言っているというのはわかる。もしも、自分が逆の立場だったら……そう考えるだけで、震えが止まらない。
しかし、彼女にこれ以上、誰かを殺させるわけにもいかない。
「……なんで」
「ん?」
「なんで……そんな、回りくどい、ことをするの。私が……私を、黙らせたいなら、こ、殺せば、済む話……」
ポツポツと、言葉を漏らすガリー。彼女の言うように……口だけで誰かを殺すなとか、落ち着けとか、こんな回りくどい方法を取らなくても。本当に口を封じたいのなら、殺してしまえばいい。
その方が、手っ取り早い。ここにいるのがゲルドだったら、迷わずそうしただろう。
「私、魔王の娘……人間にとって、敵…………だから……」
しかも、彼女は魔族の……魔王の子供だ。人間のためを思うなら、ここで殺しておいた方がいいのかもしれない。
だが……
「あー……俺もう、勇者じゃないし。周りで誰かが傷つくのは嫌だけど、だからって原因を積極的に排除しようとは思わないよ」
「……」
「それに……」
先ほどの場面を、思い出す。彼女は俺を殺しに来ていた……だから、自分も死ぬ覚悟があるのだと思っていた。なのに、腕を折ると聞いただけで、怯えた。
死ぬ覚悟はあると思っていたが、死ぬのは……痛いのは、嫌なのだ、きっと。そんな相手を、今の俺は殺そうなんて思えない。
この子は、多分……命のやり取りというものの、本当の意味を知らない。
「とにかく、キミが魔王の子供だからって、積極的に排除しようとは思わない。だからキミも、その復讐心は一旦収めてくれ」
「……そんなの……」
「別に今すぐって話じゃない。けど、誰も殺さない、傷つけないってのを約束してほしい」
我ながら無茶苦茶だなぁ……この子を殺さないためとはいえ、見た感じ十代半ばの少女に、無茶苦茶なことを言っている。
それでも……この子を傷つけないためには、まずは危険がないことを、約束してもらわないといけない。
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