死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

文字の大きさ
185 / 263
死に戻り勇者、魔王の娘と対峙する

少女の昔話

しおりを挟む


 ……少女は、魔王と呼ばれる存在を父親に持ち、生まれた。しかし、父親とはいえ実のところ、幼い頃にぼんやりと、その記憶があるだけだ。

 生まれてからすぐ、少女は母親に抱かれて、父親とは離れ離れになった。物事を理解できるようになってから母親に聞いた話では、少女は人間と魔族の子供だから、三人一緒には暮らせないとのこと。

 理解はできても、納得はできない。種族が違うから、なんだというのか。

 母親は、少女を連れて人里でひっそりと暮らしていた。美人で、優しくて、人付き合いもいい。まさに自慢の母親だった。


『いつも苦労をかけてごめんね、ガリー』


 それが、母親の口癖だった。

 家族三人で暮らせないことや、女手一つで生活を維持していること……そのことが、ガリーに苦労をかけていると、思ってのものだった。

 だがガリーは、それでも母親と一緒にいるのは楽しかった。町中で、父親と一緒に遊んでいる子供を見かけると寂しくもなったが……

 その分、思い切り母親に甘えた。


『ゆーしゃ?』


 勇者、という単語を聞いたのは、だいぶ物事を理解できるようになってからだ。人間と魔族のハーフだからか、普通の人間の子供よりもガリーの成長速度は速い。

 どうやら魔族という種族は、人間にとっては害あるものらしい。そして、魔族の頂点に立つ魔王という存在を、いずれ勇者が倒しに来る。

 人間と魔族の違い……これが、ガリーが家族三人一緒に暮らせない理由だ。人里に降りたのも、人間として生きるように訓練するためだ。

 この頃のガリーは、まだ頭から小さな角が生えている低度だった。帽子でも被れば、ごまかすことはできた。


『この帽子は、人前では絶対に取っちゃだめだからね。ガリー』


 母親は、小さかった我が子に約束させた。そして、子供も母親との約束を、守った。

 同じ年の子供と遊ぶときも。大人たちに挨拶をするときも。寒いときも。ガリーにとって、秘密はドキドキするものだった。

 ……だが、そんな秘密がいつまでも、隠し通せるわけもない。


『な、なんだその角は……!?』


 ほんの、些細なことだった。誰かにぶつかったとか、風に飛ばされたとか……少し、注意力がなくなってしまっていたのかもしれない。帽子が脱げ、頭が露になってしまった。

 頭に生えた角。それを見ると、これまで優しかった人々は一変して、ガリーを怖がり、それだけでなく攻撃的になった。


『やだわなにあの角、気持ち悪い!』

『人間じゃない、悪魔じゃないか!』


 この世界に、角の生えた種族なんていない。魔族を除いては。

 実際に魔族を見たことのある人間は少ない。だが、魔族の脅威、魔族が人々にどのような存在として認知されているかは、子供でも知っていることだった。

 魔族とは、邪悪な存在で、決して人間とは相容れない存在。


『まさか、今まで俺たちを騙していたのか!』


 人々の敵意は、ガリーだけでなくガリーの母親にまで及んだ。魔族である少女を娘とし、育てている人間。もし彼女たちに本当に親子関係があるなら、彼女は魔族と関係を持ったということになる。

 卑怯な人物なら、ガリーの正体が割れた時点で、なにかしら言い訳をつけてガリーと無関係を装ったかもしれない。

 だが、ガリーの母親は、どこまでも実直で……母親だった。


『この子は私の子です。この村を出ていきますから、どうか……』

『ふざけるな汚らわしい!』

『人間の恥め!』


 魔族と関係を持ち、あまつさえ魔族との子を生んだ者に、人々は怖れ怒り、村を出ていこうとする彼女を非難した。

 口汚く、ついには暴力沙汰にまで発展して……


『お母さん!』


 ガリーの見ている前で、母親は殴られ蹴られ……

 そのうち、動かなくなった。


『ぁ……』


 どうしてだ。お母さんはなにも悪いことはしていない。ただ、誰にも迷惑をかけないように生きてきた。みんなだって、あんなによくしてくれたではないか。

 それなのに……どうして、こんなことを。


『うわぁああああ!!!』


 そこで、一旦意識は途切れた。最後に見たのは、ボロボロになった母親が、ガリーを見て涙を流していた姿。

 次に、意識が戻ったときには……人々は、倒れていた。真っ赤な血を流して、大勢が、倒れていた。自分を囲っていた人々も、母親を痛めつけていた人々も。

 そして、少女の手には真っ赤な血が、べったりとついていた。

「……?」


 離れた所にいた、まだ動いている人たちが、恐ろしいものを見ている目で見ていた。瞬間、理解した……自分が、なにをしてしまったのか。

 不思議と、悲しみも恐れもなかった。ただ、動かなくなった母親の姿には、胸を刺す痛みがあった。

 もう、この場所にはいられない……これからどうすればいいのか。そう考えたガリーの頭の中に浮かんだのは……父親である、魔王のことだった。


「お、とう、さん……」


 なんとなくだが、父親がどこに居るのか、わかった。その謎の感覚に従うように、ガリーは歩き始めた。

 時間をかけて、ただ一つの目的のためだけに……歩き続けた。

 そして……たどり着いた魔王城には、なにも残っては、いなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...