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死に戻り勇者、魔王の娘と対峙する
少女の昔話
しおりを挟む……少女は、魔王と呼ばれる存在を父親に持ち、生まれた。しかし、父親とはいえ実のところ、幼い頃にぼんやりと、その記憶があるだけだ。
生まれてからすぐ、少女は母親に抱かれて、父親とは離れ離れになった。物事を理解できるようになってから母親に聞いた話では、少女は人間と魔族の子供だから、三人一緒には暮らせないとのこと。
理解はできても、納得はできない。種族が違うから、なんだというのか。
母親は、少女を連れて人里でひっそりと暮らしていた。美人で、優しくて、人付き合いもいい。まさに自慢の母親だった。
『いつも苦労をかけてごめんね、ガリー』
それが、母親の口癖だった。
家族三人で暮らせないことや、女手一つで生活を維持していること……そのことが、ガリーに苦労をかけていると、思ってのものだった。
だがガリーは、それでも母親と一緒にいるのは楽しかった。町中で、父親と一緒に遊んでいる子供を見かけると寂しくもなったが……
その分、思い切り母親に甘えた。
『ゆーしゃ?』
勇者、という単語を聞いたのは、だいぶ物事を理解できるようになってからだ。人間と魔族のハーフだからか、普通の人間の子供よりもガリーの成長速度は速い。
どうやら魔族という種族は、人間にとっては害あるものらしい。そして、魔族の頂点に立つ魔王という存在を、いずれ勇者が倒しに来る。
人間と魔族の違い……これが、ガリーが家族三人一緒に暮らせない理由だ。人里に降りたのも、人間として生きるように訓練するためだ。
この頃のガリーは、まだ頭から小さな角が生えている低度だった。帽子でも被れば、ごまかすことはできた。
『この帽子は、人前では絶対に取っちゃだめだからね。ガリー』
母親は、小さかった我が子に約束させた。そして、子供も母親との約束を、守った。
同じ年の子供と遊ぶときも。大人たちに挨拶をするときも。寒いときも。ガリーにとって、秘密はドキドキするものだった。
……だが、そんな秘密がいつまでも、隠し通せるわけもない。
『な、なんだその角は……!?』
ほんの、些細なことだった。誰かにぶつかったとか、風に飛ばされたとか……少し、注意力がなくなってしまっていたのかもしれない。帽子が脱げ、頭が露になってしまった。
頭に生えた角。それを見ると、これまで優しかった人々は一変して、ガリーを怖がり、それだけでなく攻撃的になった。
『やだわなにあの角、気持ち悪い!』
『人間じゃない、悪魔じゃないか!』
この世界に、角の生えた種族なんていない。魔族を除いては。
実際に魔族を見たことのある人間は少ない。だが、魔族の脅威、魔族が人々にどのような存在として認知されているかは、子供でも知っていることだった。
魔族とは、邪悪な存在で、決して人間とは相容れない存在。
『まさか、今まで俺たちを騙していたのか!』
人々の敵意は、ガリーだけでなくガリーの母親にまで及んだ。魔族である少女を娘とし、育てている人間。もし彼女たちに本当に親子関係があるなら、彼女は魔族と関係を持ったということになる。
卑怯な人物なら、ガリーの正体が割れた時点で、なにかしら言い訳をつけてガリーと無関係を装ったかもしれない。
だが、ガリーの母親は、どこまでも実直で……母親だった。
『この子は私の子です。この村を出ていきますから、どうか……』
『ふざけるな汚らわしい!』
『人間の恥め!』
魔族と関係を持ち、あまつさえ魔族との子を生んだ者に、人々は怖れ怒り、村を出ていこうとする彼女を非難した。
口汚く、ついには暴力沙汰にまで発展して……
『お母さん!』
ガリーの見ている前で、母親は殴られ蹴られ……
そのうち、動かなくなった。
『ぁ……』
どうしてだ。お母さんはなにも悪いことはしていない。ただ、誰にも迷惑をかけないように生きてきた。みんなだって、あんなによくしてくれたではないか。
それなのに……どうして、こんなことを。
『うわぁああああ!!!』
そこで、一旦意識は途切れた。最後に見たのは、ボロボロになった母親が、ガリーを見て涙を流していた姿。
次に、意識が戻ったときには……人々は、倒れていた。真っ赤な血を流して、大勢が、倒れていた。自分を囲っていた人々も、母親を痛めつけていた人々も。
そして、少女の手には真っ赤な血が、べったりとついていた。
「……?」
離れた所にいた、まだ動いている人たちが、恐ろしいものを見ている目で見ていた。瞬間、理解した……自分が、なにをしてしまったのか。
不思議と、悲しみも恐れもなかった。ただ、動かなくなった母親の姿には、胸を刺す痛みがあった。
もう、この場所にはいられない……これからどうすればいいのか。そう考えたガリーの頭の中に浮かんだのは……父親である、魔王のことだった。
「お、とう、さん……」
なんとなくだが、父親がどこに居るのか、わかった。その謎の感覚に従うように、ガリーは歩き始めた。
時間をかけて、ただ一つの目的のためだけに……歩き続けた。
そして……たどり着いた魔王城には、なにも残っては、いなかった。
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