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死に戻り勇者、魔王の娘と対峙する
物騒な考え
しおりを挟む意識はチマとガリーに向いていたおかげで、簡単にゲルドの懐に入り込むことが出来た。そして、ゲルドの顎を殴り飛ばす。
自分でも、いい感じにいいのが入ったなと、ちょっと感心している。
「っつ……」
顎を打ち上げられ、ゲルドの顔は天を向く。口も強制的に閉じられてしまったため、咄嗟には声が出せない状態だ。
そんなゲルドを見て、俺は……ちょっと、胸がすっとするのを感じていた。
「くそ、誰だ……うぉ!?」
ゲルドは、自分を殴った相手を確認しようとする……が、そうはさせない。ゲルドに見られる前に、事を終わらせなければならない。【鑑定眼】に捕まれば、顔を隠していようが関係ないからだ。
俺は、最初ガリーの顔を隠すのに使い、今は自分の顔を隠すために使っていた袋を脱ぎ去り……ゲルドの顔に、無理やり被せた。
これで、ゲルドの視界を隠す。いくら強力な『スキル』でも、見えなければ使えまい。
「見えね……誰だこの……ぉ!?」
「……ぬっ」
そのまま、ゲルドの顔を袋で被せて縛る。さらにゲルドの襟元を持ち、勢いに乗せてぶん投げる。
視界が見えないゲルドは抵抗することもできず、背負い投げによって背中を打ち突けてしまう。
「っ、かは……な、んだ……投げられたのか……!?」
受け身もなしに、背中を思い切り打ち突けられては、さすがのゲルドも痛みに顔を歪めていることだろう。顔見えないけど。
……なんだろうな、この気持ちは。ゲルドとはさっきも、戦った。その結果は、俺が『スキル』の力に呑まれかけて、一応俺の勝ちとなったが……
あれはほとんど暴走のようなもので、俺の意志ではなかった。今は、不意を突いた形とはいえゲルドを翻弄している。
この、胸の昂ぶりは、なんだろうか。
「くっそ……透明野郎か、魔族か!? それとも……くそが、こんなもの……」
「ほっ」
「ぶふ!」
起き上がり、当然袋を取ろうとするゲルド。その顎を、軽く蹴り上げる。
「また、顎ぉ……」
顎を押さえて、痛みに耐えている。先ほどの拳と、二度もダメージを負っている。
それも、顎が揺れれば脳も揺れる。力を込めなくても、こちらが思ったよりもダメージがいっていることだろう。
「くそっ……なんか、さっきも、似たようなことがあった気が……」
忌々し気に、呟く。そうか、ゲルドの中から俺とこの村で会った記憶は消えていても、暴走した俺にタコ殴りにされたことは覚えているのか。
……今俺が感じている、この昂ぶり。というか爽快感のような感覚。もしかして、自分でも意識していなかったが……
今まで、ファルマー王国で、そしてこのラーダ村でやられたことを、根に持っていたのだろうか。そして、仕返しが出来てスカッとしているみたいな。
「いやいやまさか……」
いくらなんでも、少しくらい嫌な目に遭ったからって、それを気にするほどオレは小さい人間ではない。はずだ。
ゲルドは確かに、善人とは言えない。だが、気のいい奴だし、つるんでいても飽きない。口が悪いのも、慣れてしまえばどうということはない。
ただゲルドに、殺されかけただけだ。それも、一度本当に殺されているだけだ。それくらいのことで、根に持つなんてことは……
「ってそれくらいなことあるか!」
「ふぶぅ!」
「アーロさん!?」
つい、三度ゲルドの顎にダメージを与えてしまった。しかも、今度は思い切り蹴り上げて。
そうだ、そうだよ……むしろ俺は、今までなんでゲルドに対して好意的だったんだろう。自分を殺して殺そうとした相手だぞ?
「逆に殺す手前までヤッても許されるよな?」
「アーロさん!? なんだか物騒なこと口にしてません!?」
「はっ」
いかんいかん、俺は今なにを考えていた? ゲルドを殺そう……とまではいかなくても、それに近いことを考えていなかったか?
なにを考えているんだ俺は。そんな物騒なことを考えてしまうなんて。さっき暴走したり、なんか変だぞ。
「……ふぅ」
とりあえず、一度落ち着こう。顔を袋に包まれ、顎を押さえてみ悶えている男を前に、俺は深呼吸を繰り返した。
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