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死に戻り勇者、魔王の娘と対峙する
そっちの問題と本題
しおりを挟む「さて……とりあえず、おとなしくしておいてもらおうか」
「くそが……」
現在、ゲルドを後ろ手に縛り、拘束している。顔には袋を被せたままだ。拘束自体は先ほども同じことをしていた気もするのだが、袋を顔に被せているせいで少し変態感が増している。
これで俺の顔を見られることはない。
「いやぁ、助かったよアー……」
「しっ」
笑顔を浮かべて俺にお礼を言おうとするチマだが、その口を閉じさせる。
ゲルドが一度、この村で俺に会ったという記憶は失っている。が、セント町でアーロという名前を聞いたことは覚えているはずだ。
ここでアーロという名前を出して、ゲルドに執着されるのは避けたい。
「……よし。チュナールさんに後は任せて……あれ? チュナールさん?」
このままゲルドを、ここに置き続けても得はない。なのでさっさとファルマー王国に連れ帰ってもらおうと思ったのだが、肝心のチュナールさんの姿が見当たらない。
そういえば、さっきから姿を見かけなかったような気がする。てっきりガリーを中心の戦いに集中していたせいで見落としてたと思っていたのだが……
しばらく周囲を見回すと、少し離れたところに、背を向けた状態でチュナールさんが立っていた。
「チュナールさん?」
「……はい、はい。では」
チュナールの背中に足を向け、声をかけたところ、何やらボソボソと言っているのが聞こえた。
そして、俺へと向き直る。
「! ロア様。どうかしましたか?」
「いや、アーロでお願いします……って、なにをしていたんですか?」
「あぁ。メラさんに、連絡を」
いったいなにをしていたのか。その問いかけに対して、チュナールさんはサラッと答えた。後ろ暗いことなどなにもないと言わんばかりに。
そういえばチュナールさんは、ゲルドの行動に対してメラさんという女性に報告をしているんだったな。会ったことはないが、メラさんとはリリーの給仕らしい。
つまり、チュナールさんが報告したことはメラさんを通じて、リリーにも伝わるということだ。
「この短時間でいろいろありましたので、報告を。ロア……アーロさんのことも。もちろん、生きているという報告だけで、場所は話していません」
「ありがとうございます」
どうやらリリーは、俺が生きているのか死んでいるのか、気がかりで仕方なかったらしい。なので、彼女には俺の生存を伝えておいてもいいだろう。リリーなら、誰かに言いふらす心配もない。
他に、ドーマスさんやミランシェも、きっと俺のことを思ってくれている……かもしれない。だが、本来は誰にも伝えずに消えるつもりだったし……うーん、やっぱり伝えてもらおうかなぁ?
……それに、シャリーディア……ディア。彼女の助けがあって、俺は逃げられた。他の二人よりは俺が生きている可能性を知っているだろうが、それでも心配はしてくれているだろう。
「……いやいや」
いかんいかん。いくら信頼できる人とはいえ、秘密を知る人間は少ない方がいい。王族であるリリーならともかく、ドーマスさんやミランシェも秘密を共有するとなると厄介事に巻き込む可能性がある。
それに、ドーマスさんは今も城に、俺が指名手配されていることを講義しに行っているという。ドーマスさんのことだ、俺の生存を知ったら、もう城に行くことはやめるかもしれない。
今まで城に訪れていた人物が急に来なくなったら、不審に思われるだろう。それにドーマスさん隠し事苦手そうだし。
「リリーや、リリーが信頼しているメラさんなら、誰かに俺のことを話すこともないか」
わざわざ誰に話さないでと言伝てないでも、俺の気持ちはわかってくれているはずだ。うん。リリーだって賢い子だし。
さて、そっちの問題はいいとして……
「じゃあチュナールさん。ゲルドを、ファルマー王国に連れ帰ってもらいたいんですけど……」
「えぇ……」
本題に入る。チュナールさんはあからさまに嫌そうな顔をした。うん、予想通りだ。
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