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死に戻り勇者、魔王の娘と対峙する
人の温もり
しおりを挟むチュナールさんと、気絶したままポニーに乗せられたゲルドを、見送る。随分と長いこと彼らと関わっていたような気がするが、実際には二時間と経っていない。
残されたのは、俺、エフィ、ヤタラさん……そして、ガリー。
人間と魔王の子供であるこの少女は、先ほどから何も言わず、ただ無表情のままにそこに立っている。一応、不審な動きをしていないか注意は、している。
「はぁー……行っちゃいましたね」
「そう、ですね……すみません、妙なことに巻き込んで」
「んー? あはは、気にしてないですよ!」
そう、明るく笑うエフィの姿に、救われる。彼女は、ガリーのことをかわいいと言っていた。ガリーの正体を知った今でも、同じような気持ちを持ち続けているのかはわからないが。
ガリーへの負の感情は【消滅】により消えてしまう……それにより、ガリーを危険だと思わなくなっているのかもしれない。二人に、村人に危険が及ばないように、ちゃんと見ておかないと。
……この村から出す。いや俺の目の届かないところで、こいつがなにをするかわからない。だから、こうして見張っておく必要があるが……
……そこまで危険性を感じていて、殺してしまおうと思えないのは……彼女に人間の血が流れているからか。それとも、【消滅】の影響で俺の感情がぐちゃぐちゃになってしまっているのか。
「……そういや、住まわせるって言ってもどこに……」
家に戻りつつ、俺は考える。俺の目の届く範囲に居てもらわなければならないということは、必然的に住まわせる場所も限られてくる。
とはいえ、まさか同じ家に住むわけにも……
「なあ、アーロ」
「ん?」
そこへ、チマが話しかけてくる。
「大丈夫なのか? 彼女は」
「……とりあえず、さっき本人は、この村の人たちに危害を加える気はないって言ってたが」
「そんなの口約束だろう」
魔族の血を引いているガリーの存在に、チマはやはり警戒を露にしている。今のところ、おとなしくついてきているが……
いつ、彼女が周囲に殺意をまき散らすか、わからない。
「とはいえ……あんなのを、野放しにする方が危ないか」
「あぁ」
そうやって話し歩いているうちに、広間まで戻ってきていた。そこでは、ヤタラさんから新たな村の仲間が増えたと村人たちに話している場面だった。
基本的には、みんな喜んでいる。そしてガリーの周りには人が集まっていく。
その動きに、俺はいつでも動けるように準備しておく。ガリーの【消滅】の力は手のひらから出るが、その際手のひらが光る。光ってから【消滅】の力が放たれるまで数秒のラグがある。
俺なら、その数秒でガリーの【消滅】が村人を襲う前に、人々から引き離すことが出来る。
「……」
そんな緊張感で、じっと見ていたが……なにやら、様子がおかしい。
先ほどまで無表情だったにもかかわらず、今は呆気にとられた表情を浮かべている。目を見開き、視線をさ迷わせている。
まるで、自分でもどうしたらいいのか、わからないと言わんばかりに。
「ガリーさん、困ってますねぇ」
俺の隣に来て、言うのはエフィだ。その言葉の内容とは裏腹に、どこか嬉しそうだ。
「困ってはいるようだけど……」
「なんだか、右も左もわからない小動物みたいですよ」
人々に囲まれ、どう対応していいかわからない。その姿に、俺は思い出す。
ガリーは、その過去で人間の酷い面を見ている。だから、こうして自分に好意的な様子が、信じられないのだろう。
「人の温かさ、か……」
俺だって、ファルマー王国を追われ……このラーダ村で、人々の温かさに触れ、今ではこんなにも穏やかな生活を送れている。
モンスターの活性化や、ゲルドの出現により、最近は穏やかでもなかったが。それも、これまでの話だ。
「ところでアーロさん」
「なんだ?」
「あの子の住むところなんですけど……」
と、エフィが切り出す。エフィも、考えてくれていたようだ。
「ウチはどうかなって思いまして」
「! いやいや、それは危険だろ!」
エフィからの提案は、予想もしていないものだった。まさか、一緒に住むというものだとは。
当然、それを受け入れられるはずもない。
「でも、あの子……もう、危ないことはしないと思うんですよ」
「思うって……なんの根拠が」
「んー……勘、ですかね」
それは、根拠とも言えない……勘という、ひどく曖昧なものだった。
納得できない俺とは違って、エフィに危機感は見受けられない。
まさか、エフィに対しての危機感が。この短時間ですべて【消滅】してしまったんじゃないだろうな?
「大丈夫ですよ。ガリーちゃんが危ない子かもしれないっていうのは、ちゃんとわかってますから」
「……?」
しかし、エフィはガリーに対しての危機感を、まったくなくしたわけではないという。
ならば、ますます、一緒に住むなんて発想が出てきた理由がわからない。
「ガリーちゃんは……多分、温もりに飢えているんだと思います」
「温もり?」
「はい。今まで、ひとりで……周りに、信じられる人なんていなかった。だから、あの子の心は、凍り付いてしまったと、思うんです」
「……」
エフィは、ガリーに寄り添いたいと思っている……か。心優しい彼女なら、そう思う理由は分からないでもないが。
だからといって、エフィではもしもの時に対処できない。なのに、むざむざ危険な目に遭わせるわけにも、いかない。
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