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死に戻り勇者、魔王の娘と対峙する
眠れない夜
しおりを挟む「……」
「……」
どうしよう、全く眠れない。さっきまで、恥ずかしかった気持ちが落ち着いていく……なんてやってたのに、全然そんなことはなかった。
冷静になれば、やっぱり恥ずかしいよ、ドキドキするよ。同い年の異性と、というシチュエーションだけでも緊張してしまうのに……
相手は、あのディア……シャリーディアだ。老若男女問わずその美貌には魅力され、あまりの美しさから劣情を抱くことすら恐れ多いと言われているのだ。
年頃の異性と寝た経験なんてない。それは、ディアも同じだ……同じく緊張して眠れていない。
……と思って、いたのだが。
「すぅ……」
気持ちよさそうな寝顔を浮かべて、ぐっすりと寝ている。さっきまで緊張したようだった、しおらしい姿はどこへ行ってしまったのか。
ディアの、油断しきった寝顔を見ることができる……と考えれば、先に彼女だけ眠ってしまったのは幸運と言うべきなのだろうか。
「んにゃ……ろあぁ……」
「!」
とはいえ、時折寝言で俺の名前を呼ぶ。そんなかわいらしいことをされては、なんだかむず痒い。
果たして俺は、おとなしく眠ることができるのだろうか。それとも、朝まで眠れなくなってしまうのだろうか。
「ぅんん……」
寝ているときの声は、なんだか色っぽい。すぐ横を向けば、無防備なディアの顔。うん、やっぱりかわいい。
普段は美しいといった表現が合うが、こうして無防備な表情になるとかわいいというのが似合う。じっと見ているだけでも、こっちがおかしくなってしまいそうだ。
じっと、じっと見つめて……自分でもいつの間にか、ディアの顔に自分の顔を近づけていく。目線は、小さくかわいらしい唇に、釘付けになっていた。
吸い寄せられるように顔を近づけていき……互いの吐息が感じられるほどの距離になって……
「ぶべ!?」
予期せぬ衝撃を頬にくらい、体が吹っ飛ぶ。そのまま、布団から落とされてしまうほどに。
いてて……な、なにが起きたんだいったい?
「で、ディア?」
もしや、ディアが起きていたんだろうか。で、良からぬことをしようとした俺を殴った。
恐る恐るディアの姿を確認すると……ディアは目を閉じたままだった。その代わり……
「んぁあ……!」
「おわっ、あぶね!」
顔面に向かって放たれた拳を、間一髪避ける。鼻先に掠った……!
ディアは寝ている……だが、先ほどから手足をバタバタ動かしている。
これって……もしかして……
「……寝相が、悪いのか? めちゃくちゃ」
一つの結論が、頭の中に浮かんだ。ディアは、めちゃくちゃ寝相が悪い。そう考えれば、この現象は説明がつく。
かわいらしい寝顔、お腹まで捲れた服……普段凛としていてもその中身は子供らしい。そんな微笑ましい気持ちを抱く暇がないほど……ディアの動きは、激しかった。
腕を伸ばし、足を負け、どこともわからぬ空間を殴り、蹴り上げる。その姿は、なんというか……怖い。
「……誰かと寝るなんて久しぶり、って言ってたけど……」
俺は、思い違いをしていたのかもしれない。てっきり、教会という場所では誰かと一緒に寝るような機会などないのだと、そう思っていた。
だが……実際に、そうでなかったとしたら? 仲のいい人と一緒に寝ることを許されているのだとしたら?
ディアと一緒に寝たら、その相手は、今のように殴られたりまたは蹴られたりするのだろう。
「ぅへへ……」
だらしない表情を浮かべている。そんなディアの寝相は、すごく悪い……これでは、一緒に寝ようという者も、いないのかもしれない。
それに、おそらくディアは自分の寝相が悪いことに、気がついていない。
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