死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

文字の大きさ
220 / 263
死に戻り勇者、魔王の娘と対峙する

朝はやってくる

しおりを挟む


「ぅ……んん……!」


 カーテンの隙間から、明るい光が差し込んでくる。窓の外では、チチチ……と鳥が鳴いている。朝日が登り、朝がやってきた証拠だ。

 布団の中に潜り込んでいた彼女が、寝起きの声を上げ……腕を伸ばしながら、起き上がった。


「ふぁ、あ……よく寝たぁ。おはようロア……ロア?」


 目覚めたディアは、隣で寝ていたはずの俺へと、視線を移す。しかし、そこに俺の姿はない。

 キョロキョロと辺りを見回して……ようやく、俺の姿を見つけた。


「ロア、どうしたのそんなところで」

「あぁ、おはようディア。どうしたんだろうな」


 俺は、布団から離れた床に寝転がっていた。結局、ディアに布団から追い出された後、俺は床で寝ることに決めた。

 だって戻ろうとしても、殴られるんだもの。あぁ頬痛ぇ。


「? なんだか不機嫌?」

「そんなことないさ」


 別に不機嫌ではない。理不尽に震えていただけだ。何度か殴られてしまったからな……神官というわりに、なかなかいいパンチしてたじゃないか。

 その後、俺にいろいろ聞いてきたディアを雑ながらかわしていく。教えてやったほうがいいだろうか、寝相が悪いぞ、と。


「わ、私が寝ている間、変なことしてないわよね?」


 と、布団を片付けながらディアが聞いてくる。変なことされたのは俺なんですけどね……物理的な意味で。


「いや、してないよ」


 まあ、ここは正直に答えておこう。俺は全然、変なことなどしていない。

 そもそも、一緒に寝る選択肢をした上で、ディアもその辺覚悟の上だと思っていたが……


「……別に、してもよかったのに」


 と、ぼそっと呟いたのは、俺に聞こえるように言ったのか、それとも俺がたまたま聞こえてしまっただけか。

 とはいえ……変なこと、仮にしようと思って実行に移しても、そうなる前に殴られ蹴られて終わりだ。寝込みのディアに変なことは、できないだろう。

 ディアとは昔はよく遊んでいたが、考えてみれば一緒に寝たことは……少なくとも、一緒の布団で寝たことは、ないな。子供の頃から寝相が悪かったのか、それとも大人になってからなのか。


「……寝てるお前に変なことする気は、ねぇよ」

「え、それって……」


 拗ねているらしきディアに、言う。いくら俺を好きと言ってくれた相手とはいえ、寝ている最中になにかするというのは、なにかイケない気がする。

 これ以上口を開いてもボロが出そうなので、そそくさと片付けて、リビングに向かうことにする。


「ねぇちょっと、さっきのって……あら、いい匂い」


 追いかけてきたディアが、香る匂いに鼻を動かす。


「もう少しで朝飯の時間だからな」

「朝飯……って、ロアはここにいるじゃない。ということは……」


 そう、俺はここにいる。つまり、今朝飯を作っているのは、俺以外の人間だということになる。

 そして、それは一人しかいない。リビングの扉を開ける。


「! ……おはよう」

「あぁ、おはようガリー」


 扉を開ける……そこには、キッチンに立つガリーの姿。

 朝飯……というか、家事は交代制でやっている。今日はガリーが作る番だったのだ。


「……ねぇロア」

「なにさ」


 小声で、ディアが話しかけてくる。


「ガリーって、料理できるの?」

「ふふん、それは食べてからのお楽しみだな」

「……なんでちょっと自慢げなのよ」


 この村に来たばかりの頃、ガリーは料理どころか、なにもまともにはできなかった。彼女の過去を考えれば、不思議でもないが。

 だから俺は、彼女に人としての生活を教えることにした。料理を始め、掃除、人付き合い、などだ。初めは言われたことをやるので手一杯だったが……


「ほんとに大丈夫? なんか毒とか入ってるんじゃ……」

「もしそうなら、俺はとっくにこの世にいないさ」

「ふたりとも、ご飯……できたよ」


 俺たちの会話は聞こえていないのか、それとも聞こえても興味がないのか……三人分の料理を、ガリーはテーブルに並べる。


「ま、騙されたと思って食ってみろよ。ひひっ」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...