死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

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死に戻り勇者、因縁の地へと戻る

元勇者vs殺し屋

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「私は……まあ、雇われの殺し屋、といったところでしょうか」

「殺し屋……?」


 その人物は、殺し屋だと名乗った。その声色から、顔は見えないが男だろうと言うのがわかる。

 殺し屋なんて、物騒なやつがリリーを……ディアを、メラさんを。そして俺に殺意を向けている。


「殺し屋って、誰がお前みたいなのを雇ったんだ」

「それは、話せませんねぇ。私にも、依頼人の面子を守る義務があるので」


 なにが面子だ、人殺しを依頼するような人間に、ロクな奴はいないだろう。

 とはいえ、この殺し屋が依頼人のい情報を吐くとは思えない。

 ……少なくとも、今は。


「なら、力づくで聞きだしてやる!」


 しゃべるつもりがないなら、しゃべりたくなるまでボコり続ければいい。

 乱暴な考え方だが、効率的でもある。

 そう、正面に立つ殺し屋へと向け駆け出し、拳を振りかぶって……


「そっちは偽物ですよ」

「!?」


 殴った殺し屋の顔が、ぶれる。直接触れることも叶わず、拳は宙を舞ってしまったようだ。

 背後から、声がする。直後、腹部に強烈な痛みが走る。


「っ、ぐ……!」

「おっと」


 振り向きざまに裏拳を放つが、どうやら避けられたらしい。腹部には、背後からナイフが刺さっていた。

 この痛み……本物か。


「急所は外しましたか。ですが、深手であることに変わりはないでしょう」

「ちっ……」


 刺される直前、妙な気配を感じてとっさに体の位置をずらしたのが、正解だったか。

 さすが殺し屋を自称するだけある。殺気も感じさせなかったし、的確に急所を狙ってきた。

 ……だが。


「こんなん、別に脅威じゃない」


 俺の仲間……いや仲間だったやつは、【鑑定眼】により常に急所を狙ってくるのだ。そんなやつと戦ったおかげか、そういう手合いには今さら驚きはない。

 とにかく、一撃必殺として考えなければならない。俺は、殺し屋に注意しながら、突き刺さったままだったナイフを引き抜く。

 いってぇ……が、あのままではまともに動けないし。失血しないために、早急に片をつけないと……


「……痛い、か」


 そこで、俺は一つの策を思いつく。

 危険だが、このままなぶられるよりはマシか。


「大丈夫ですか、ナイフを抜いて。刺さったままにしておいた方が出血も少ないでしょうに」

「やかましい。お前とはくぐってきた修羅場が違うんだよ」

「勇者パーティーとしての経験ですか」


 殺し屋の言うことはもっともだが……単純に、武器が増えるというメリットもある。

 さて、手元にはナイフ一本。他は素手……相手は、おそらく多彩な武器を仕込んでいる殺し屋。

 しかも、【幻影】の『スキル』が厄介だ。


「ま、このまま睨み合ってるつもりはないけど、な!」

「!」


 俺はナイフを手に、殺し屋に斬りかかる。ゲルド程ではないが、俺もナイフはそれなりに扱える。

 殺し屋はそれを華麗に避けていく。身のこなしが、素人のそれではない。

 こんなすごい力を、人を殺すために使っている……俺にはそれが、理解できない。


「ははっ、そんなものでは当たりませんよ。それに、そんな派手に動いては傷が広がりますよ」

「なら、さっさと倒されろ!」

「ご冗談を」


 手に持っていたナイフが、殺し屋が懐から出したナイフに弾かれる。が、俺は代わりの拳を、殺し屋の顔面におみまいする。

 殺し屋はそれを、またも華麗にかわして……俺の懐に、入り込んだ。


「胴体ががら空きですよ」


 ドスッ……


 ……鈍い衝撃が、俺の体を貫く。腹には、銀色のナイフが刺さり……俺の血が、刀身を赤く染めていく。

 あぁ、痛い……くそっ、なんでこんな……


「ははは、もろいですねぇ。勇者と言えど、すでに過去の……」

「……捕まえた」


 勝利に笑う殺し屋……の腕を俺は、力強く掴む。


「! あなた、なにを……」

「痛いってことは……お前は、本物だ」


 【幻影】はその名の通り、そこにないものを見せたり、逆に消したりすることができる『スキル』だ。

 だが……においや痛みといった、目には見えないものまでをあざむくことは、できない。

 つまり……この身に受けた痛みの先には、必ず本体がいる。


「正気ですか……自らを囮に……!?」

「こっちには時間がないんだ」


 もっと余裕があれば、別の対策を練ることもできただろう。

 だが、俺自身の傷……それ以上に、そこに寝かせているリリーの容態。それにディアやメラさんのことも気がかりだ。

 速攻で終わらせるには、もはや肉を斬らせるしか俺には思いつかない。


「こんな、正気ではない……! 死ぬのが怖くないのですか!」

「怖いよ……死ぬのは、怖い。よくわかってるさ」


 一度死んだ……俺は、死についての概念は多分、他の人より理解している。

 だから、命を無駄にするつもりなんてない。


「だけど、こうしてでも守らなきゃいけない人がいるんだ。お前なんかにはわからないだろ」

「ま……」


 俺は、殺し屋の腕を掴んだまま……拳を握り締め、渾身の力を込めて、振り抜いた。

 顔面に命中した拳は……殺し屋の仮面を砕き、その意識を狩り抜いていく。

 先ほどは通用しなかったが……今度こそ、届いた……!
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