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第1章 復讐者の誕生
復讐のために
しおりを挟む俺は剣の鍛錬以外にも、いろいろと調べた。魔王が討伐された後……俺が死んだ後のことを。とはいえ、この年で遠出はできないので、両親の付き添いで街に出たときに。一般知識としてのものだから、この国で誰もが知っている共通認識程度だが。
……『人々に恐怖を与え、世の中を魔族のみの世界として支配しようとしていた魔族、人類の敵。それは見事、国宝が選出した五人の戦士により討ち倒された……一人の犠牲の上に』。
『勇者』剣術使いガラド、癒しの巫女ミーロ、魔法使いエーネ、豪傑ヴァルゴス……苦難の道を生還した四人は国をあげて祝福され、世界の危機を救った英雄として語り継がれることとなった。その裏で、旅の果てに死んだライヤ共々。
だが、元々貴族であるヴァルゴスや、平民でありながらこれ以上ない成果を挙げたガラドやミーロ、そしてエーネと違い、なんの成果もなく死んでいった平民を称える声は少ない。せめて、ライヤの尊い犠牲があったからこそ強敵を倒せた、とかなんとか伝えてくれれば、扱いも変わったのだろうが。
最期のあいつらの様子を見るに、俺のことはなんとも言わなかったのだろう。死んだのではなく殺してきたことも含めて、な。どのみち、俺は活躍という活躍はしていないけど。
「坊ちゃま、口元に食べかすがついていますよ」
「あ、ありがとう」
おっと、考え事に没頭していたせいで、周囲への注意が疎かになっていたようだ。いかんいかん。
……とにかく、あいつの所業を訴えればそれだけであいつを地に落とせる。あの憎たらしい鼻っ柱をへし折ることが出来る。
俺がライヤであることを信じてもらうのも、俺とミーロしか知らないようなこと、それを挙げるだけでいい。俺だけが訴えても効果は薄いだろうが、ミーロが信じればそれは、ただの子供の妄言ではなくなる。
簡単なことだ。転生魔術なんておとぎ話のような認識だが、ちゃんと調べてもらえれば俺のことを証明できるはずだ。
ただ、問題があるとすれば……ガラドだけでなく、ガラド以外のメンバーも罰せられる可能性があるということ。直接殺したガラドは当然として、他のメンバーも見殺しにしたのだ。罰せられて当然、だが……気が進まない理由としてミーロも、罰せられることになる。
わかっている、ミーロも俺を見捨てたのだと。だけど、なにか理由があるはず……たとえばガラドに脅されていたとか。それが甘い考えだというのもわかっている。幼馴染だから、かそれとも……
でもせめて、ミーロが俺を見捨てた理由を知りたい。昨日まで、あんなに笑い合えていたのに。
理由が知りたい。復讐と同じくらいの、これは本心だ。そしてそれとは別に、もう一つ問題がある。むしろこっちのが深刻だ。
俺は今日まで、ミーロの子供として過ごしてきた……幼馴染の、子供として。それはつまり、赤子の頃からあんなことやこんなことをしたりされたり、あれやこれやと見たり見られたりしてきたわけで……
「……」
「まあヤーク、そんなに震えてどうしたの?」
「もしかして、風に当たり過ぎてしまったでしょうか」
ヤバいな、考えただけで……想像しただけで、体が震える。単に幼馴染として接していた、というのとはわけが違う。ミーロの、子供としてだ。それはもう、風呂とかトイレとか……ああしてこうしてああなってこうなってが……ごほん。とか。それはもう思い返すのもアレなこととか。
もし、俺が俺だと判明したとして、これまでにしてきたことを思えば……もうそれで育ってきた俺はともかくとして、ミーロは俺と目も合わせてくれなくなるだろう。それどころか、下手したら自決しかねない。俺が逆の立場ならする。
癒しの巫女が自決なんて、笑えない話だ。それは避けなければならない。
「な、なんでもない、ですよ。うん、大丈夫です」
心配する二人を、大丈夫だからと安心させる。その目は、まったく安心などしていないが。
とにかく、だ。俺があいつに復讐するには、俺が俺だとバレないようにしなければならないということだ。そう、普通に過ごしていれば、まさかてめえが殺した人間がてめえの子供に転生しているだなんて考えることは、まずない。絶対に明かせない秘密は、絶対にバレることのない秘密となっている。
あいつへの復讐、それを誰にも悟られずにやり遂げる。やり遂げても、そのあと犯行がバレて捕まってしまったのでは意味がない。俺にはたどり着かない方法で、殺さなければ。いわば、完璧な殺害を計画しなくてはならない。
それを思えばこそ、剣という得物は最適だ。剣ならば武術と違い、刺さるだけで致命傷となりえる。武術にも一定のレベルの差があればうまくいくだろうが、ヴァルゴスならばともかく、残念ながら俺があいつを一撃で殴り殺せるビジョンが思い浮かばない。剣の方が現実的だ。
それに、冒険者の多いこの国には、帯刀している人間がたくさんいる。殺害の武器が剣だとして、武器だけで犯人を絞り込むのはまず不可能だろう。
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