34 / 307
第2章 エルフの森へ
剣の教えを胸に秘め
しおりを挟む「おぉおおおお!」
振り落とされるこん棒……それを確認し、俺のとった行動はひとつだ。いや、とれた行動はひとつだ。
手に握った木刀を握りしめ、それを思い切り振り上げる。振り落とされるこん棒に、めがけて。
ガギィッ!
「く、ぉ……!」
木刀とこん棒がぶつかり合った、妙な音が響く。剣同士がぶつかり合うほど鋭い音ではなく、かといって木刀同士がぶつかり合うほど鈍い音でもない。
互いの得物がぶつかり合い、その場で拮抗する。
「ぬ、おぉおおお……!」
「ギジャジャジャ!」
これは……思っていた以上に、重い……!
そもそも振り下ろされる力と振り上げる力では、圧倒的に振り下ろす力の方が強い。加えて、得物が片や丸太のように太いこん棒、片やただの木刀。とどめと言わんばかり、使い手の腕力の差だ。
体格は同じくらいでも、その腕力の差はまったく違う。子供のゴブリンだからと油断していた、その腕力はこん棒を打ち付けた地面がひび割れるほどに、強い。
全体的に、そして体勢的にもゴブリンに優位なのは明らかで……
「ヤーク様! 今助けを……」
「だい……じょうぶ、だから……!」
助けに入ってくれようとしてくれるアンジー。その心遣いを拒否する。このままでは俺はゴブリンのこん棒に押し潰されるのは必死、どう見ても助けが必要だろう。
……そんなの、ごめんだ! こんな同じ体格の、ゴブリンに負けていては……この先の俺が、思いやられる……!
『ヤークの剣は我流です。攻防技……そのどれにも特化はしていませんが、ゆえにどれもバランスよく扱うことができます』
ふと、頭の中に声が響いた。いや、思い出しているのか……先生との、鍛練の日々を。
父上……あの男の日々の、そして転生前での剣の扱いを見ていた俺は、それを手本に剣を覚えていった俺は、先生曰く我流の流派となっていたらしい。そもそも剣に流派なんてものがあることすら知らなかったが。
『攻撃……相手の剣を受け止めるのは、自分と同等、またはそれ以上の力を持つ相手にはオススメはしません。相手の力が上回っている以上、必ず押し切られます。ですから、受け止めるのではなく……』
……受け流す!
「っ!?」
『攻撃を受け流すのは、実は受け止めるよりも難しいのです。相応の技量が求められます。ですがヤークのその自由な剣なら、鍛えればそれも可能でしょう』
受け止めていたこん棒を、刀身をずらして受け流していく。刀身を這うようにこん棒が流れ、木刀を擦り滑る音が耳に届く。
それにより、今まで力で押そうとしていた相手はそのバランスを崩し、前のめりに倒れそうになる……のを、踏ん張る。
それを確認しつつ、俺は、先生の教えを頭で思い出しながら、それを実行して……
『攻撃を受け流せば少なからず隙が生まれるはず。狙うなら、そのタイミングです。自分は素早く相手の視界から外れ、そして狙うのは心臓部分か、頭、もしくは……』
「顎ぉおおお!」
横へとずれ、ゴブリンの視界外へ……そして、木刀を両手で握りしめ、思い切り振るう。
『顎は、生物にとって重要な部分。顎が揺れれば脳も揺れます。相手が生物である以上、この現象からは逃れられませんよ。心臓部分や頭は、本能的に生物は守りますから、その程度の隙ではまだ狙えない可能性が大きいので、今のヤークの技量なら顎がオススメです』
ベコォッ
「ル……ッ!?」
「当たった!」
振るった木刀は、狙い通りにゴブリンの顎へ。それがどれほどの威力を持っていたのか、ゴブリンの様子を見れば明らかだ。
なんとか倒れないでいるが、体を揺らしこん棒を杖代わりに、その場に踏ん張るのが精一杯のようだ。見るからに、隙だらけ。今の一撃で意識まで狩り取れればよかったのだろうが、そうはうまくいかないらしい。
まあ、いい。今はただ、このチャンスを活かすのみだ。背後へと、回る。
「らぁああああぁい!」
木刀を振り上げ、狙いをゴブリンの頭へと定める。敢えて声を張り上げ、気合いを全身へと入れる。相手の視覚に入って声を上げるのは自分の存在を気取らせるだけだが、相手がたいした判断もできない今、声を張り上げるのは気合いを入れ直すためだ。
ゴブリンはなおも、ふらついている。隙を逃すなと、頭の中で誰かが吠える。
先生か、それとも……
「ふっ!」
バコッ……!
「グ、ゲェ……!」
力の限り、思い切り振り下ろした木刀が、ゴブリンの頭へと衝突する。肉体へと打ち付けた音が響き、なにかが砕ける感覚がした。ゴブリンにも頭蓋骨があれば、骨が砕けたのだろうか。
そのまま、力の限りに振り抜く。ゴブリンの体は地面へと打ち付けられ、何度か地面を跳ねてその場に転がる。
「はぁ、はぁ……」
自然と、肩で息をする。本当にこれで倒せたのか、その警戒が解けない。そのせいか、動けない。
視界に、アンジーが映る。アンジーはゴブリンの様子を確認すると……
「気絶しています」
そう言って、うっすらと笑った。
「! やっ……」
それを聞いて、やったと思わず声を上げそうになる……が、緊張の糸が切れたためか、それとも体に溜まっていたダメージ、疲労のためか……その場に、尻餅をついてしまう。情けない。
ともあれ……モンスターとの初戦闘、俺の……勝利だ!
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。
本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる