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第3章 『竜王』への道
竜族の暮らす街
しおりを挟む竜族の暮らす街……偶然なのかわからないが、『竜王』を探している俺にとっておそらく目的としていたとも言える場所にたどり着いた。竜族が暮らしているのなら、その中に『竜王』がいるのではないか、という予想からだが。
それは予測だとしても、目の前にいるのが竜族だという事実は変わらない。なにせ、自分からそう言ったのだから。そう、この……
「ところで、クルド……さんはなんで人の姿を?」
クルドと名乗った、強面の男が。
竜とは言うが、見た感じ人間とそう変わりはない姿をしている。角と尻尾を除けば。
「うむ、常に竜の姿では暮らしにくいのでな……遥か昔に訪れた人間の姿を、模倣したのだ。どうだ、完璧であろう」
人間と近い姿をしているのは、暮らしやすさを求めてサイズを小さくしたためらしい。竜族に会うの、というかその存在を知ったのさえ初めてだが、本来の竜の姿、大きさを予想すると、相当なでかさであることがわかる。
ジャネビアさんの書いた本には、『竜王』は首が痛くなるくらい見上げるほど巨大だった、と書いてあったしな。
だから、暮らしやすさ重視で人間を模倣した。その理屈はわかるが……
「……角はともかく、尻尾は人間以外の種族も生えてませんよ」
「なんだと!? そうなのか!」
人間にはその2つは生えてはいないと指摘する。角は、獣人ならば生えていてもおかしくはないが……猫型や犬型でもない限り、尻尾は生えていない。しかも、そんな極太の尻尾は初めて見た。
それを指摘すると、ひどく驚いていた。うっかり、といった感じに。
「あの、あちこち建物とかが大きいのは……」
「あぁ。竜の姿で暮らすには、人間サイズでは物足りなくてな。で、自分たちで組み上げたのだが……いざこのサイズで暮らすと、でかすぎてな! わざわざ家のサイズを変えるのも面倒だから、この大きさになっているんだ!」
サイズの違い……それに、自分たちで組み上げたから、なんか違和感があったのか。それにしても、それくらい気づけよ。
もしかして、強面な印象とは裏腹に、天然?
「……人間、来たことがあるんですね」
「遥か昔にな。あれ以来、人間と接するのは久しぶりだ」
「じゃあクルドさんは、その人間を模倣して……それまでは、竜の姿だったんですね」
「あぁ、他の連中もな。ちなみに、クルドでいい。敬語も要らん。先ほどの勢い、なかなかよかったぞ」
「あはは……」
さっきのは、あまりの敵意に体が反応して……思わず、素が出てしまった。俺もそうだが、アンジーやヤネッサも危なかったし。
そのアンジーとヤネッサはというと、少し後ろを着いてきている。アンジーはまだ警戒しているのか、周囲に気を配っているようだ。ヤネッサも周囲をキョロキョロしてはいるが、あれは警戒というより興味だ。
「やめておけ、無意味だ」
「!」
「どれだけ警戒しようが、無意味なことだ」
警戒しているアンジーに、振り返らずクルドさん……クルドが告げる。それは、警戒など必要のないというもの。
それは、すでに自分たちには戦闘の意思がないから警戒の必要性がないことを言っているのか……それとも、いくら警戒しても、それだけでは埋められない実力差があるから警戒しても死ぬときは死ぬ、という意味なのか。
前者だと信じたいが、後者だとしてもその通りだ。俺やアンジー、ヤネッサじゃクルドひとりにさえ勝てないだろう。まして、この街に暮らしている全員なんて……
「……そういえば、他の住人の姿が見えないけど……」
「皆好き勝手なものさ、外に出ず交流しない者や、ふらふらとどこかに行く者。街とは言っても治める者がいるわけでもないし、好き好きに暮らしているのさ」
……竜社会ってのも、いろいろなんだな。
「ところで、お前たちがここへ来たのは……」
「うん……来たのは偶然だけど、これも運命だと思う。この街に『竜王』はいる?」
今は、クルドの家に向かっているところだ。道中、俺たちの目的を話した。『呪病』の存在、『竜王』の血を求めて旅をしてきたこと、とある人物に聞いた『王家の崖』という場所、そこで猛吹雪に襲われ気づけばここにいたこと……
「『竜王』……確かに、そう呼ばれている者は、いる」
「! じゃあ……」
「その前に……貴様ら、その話を本で読んだと言ったな。そして、その著者の示した場所に来たと」
『竜王』は、いる……この答えに、思わず前のめりになる俺を、クルドが制す。そして逆に聞かれたのは、『呪病』を治す手がかりを最初にくれたジャネビアさんについてだ。
「その者の、名は?」
「えっと……ジャネビア、って人ですけど……」
「じゃねびあ……もしや、エルフ族のジャネビアか!?」
別に名前くらいいいだろうと、ジャネビアさんの名前を告げる。すると、今度は逆にクルドに詰め寄られる。
アンジーが引き離そうとするが、まるで動く気配すらない。いや、それよりも、その反応は……
「じゃ、ジャネビアさんを、知ってるの?」
「あぁ。さっき話した、遥か昔に訪れた人間……正確にはエルフか。それが、ジャネビアだ」
「……マジ?」
ジャネビアさんが『竜王』と会ったってのは、聞いた話だったが、他の竜とも会ったなんて聞いていないぞ。しかし、クルドは嘘をついている様子はない。
「うそ……ここに、おじいさまが?」
「ん? おじいさま?」
「アンジーは、ジャネビアさんの孫で……」
「なんと!」
「きゃ!?」
ここにいるアンジーが、そのジャネビアさんの孫だと話した瞬間、クルドはアンジーを持ち上げる。いくら背丈はクルドの方が大きいとはいえ、成人女性のアンジーをあんなに軽々……中身が、竜だからか?
まるで、赤ん坊にやる高い高いみたいだ。あぁ、懐かしいな……俺もアンジーに同じことされたっけ。
「って、下ろしてください!」
「あっはっは、あいつ子など産んでおったのか!」
まるで懐かしい友人に会ったような反応。ジャネビアさん、ただ『竜王』と会っただけじゃなくて、それなりに親交も深めていたのか。
それにしても、長寿とはいえジャネビアさんがここを訪れたのは、アンジーの両親が生まれるより前のこと。そのジャネビアさんと知り合いなんて……クルド、見た目よりずっと歳いってるのか?
まあ、人間の姿を模倣してるっていうから、見た目はそれこそエルフ以上に、中身と一致しないか。
「アンジーおねえちゃん、楽しそう」
「楽しくない! 恥ずかしいから下ろしてください!」
「あっはっはっは!」
……なんかどんどん、知り合いの輪が広がっていくな。アンジーにあの反応なら、とりあえず敵意を向けられることはもうなさそうだ。
アンジーには悪いが、クルドの気が済むまでこのまま付き合っていてもらおう。
「……じゃあ、ジャネビアさんもここに? そんなこと一言も……」
「あぁ……ジャネビアで思い出した。あいつが去った後、結界を張ったんだ。ジャネビアはいい奴だが、今後悪意のある輩が現れるともわからん。エルフはいい奴と知れたがな。だから、お前たちが遭ったという吹雪は……」
「……なるほど。悪意のある人間なら、間違って『王家の崖』にたどり着いても、その後の結界の吹雪で死んじゃうってことか」
つまり、この場所はジャネビアさんが去った後に作られた……なら、ジャネビアさんがなにも言わなかったのも納得だ。知らなかったのだから。
あの吹雪、魔法の使えるエルフがいなければ、確実に死んでいた。ガラドでも無理だろう。いくら魔王を討つほど鍛えても、寒さには強くなれないから。吹雪というのも、鍛えられない箇所へのダメージという部分は納得だ。
多分ジャネビアさんとしか会ってないのに、エルフ全体がいい奴と決めつけるのもいかがなものとは思うが。というか、クルドならいくら悪意ある者が来ても、結界にかけるまでもなく倒せるだろうに。
あと、悪意ない人間がたどり着いた時の配慮の無さがすごい。
「あぁ、だから……」
そういえばクルドは、俺たちに「何者だ」と聞いていた。「どうやってここに来た」とかではなく。結界の存在は知っていたってことか。そのわりには忘れていたようだが。
「は、話をするなら、お、下ろしてくださいー!」
「あ……」
気づけば、持ち上げられたアンジーがぶんぶん振り回されていた。酔いそうだ……そしてそれを、ヤネッサはなぜかうらやましそうに見つめていた。
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