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第3章 『竜王』への道
幕間 上機嫌な日
しおりを挟む……『呪病』という呪いが解けたあの日から、数日が経った。ノアリ含め、呪いに体を蝕まれていた子供たちは、その後体調が悪化することもなく、回復へと向かっていった。
王都を悩ませていた、一連の『呪病』事件は真実の一部の情報が公に明らかになった。『呪病』の正体が呪いであること、その呪いを操っていた術者がいたこと……そして、その術者を討ったのがガラド・フォン・ライオスであること。
それらはすべて真実で、間違いはない。ただ、一連の事件のすべてを明らかにしたわけではない。まず、術者であるセクニア・ヤロという男。彼が術者であることは、一部の王族や上流貴族しか知らない。
どうやらこの男、国民からわりと信頼のある人物だったらしく、これを公にすれば少なからず混乱を招く、ということだ。これは彼と直接対峙したガラドや兵士たち、そして俺と母上、アンジーも知っていて、ノアリや彼女の両親さえも知らない。
そして、これは俺が内緒にしてくれと頼んだのだが……『竜王』の血の存在や術者の存在の判明、それらの情報を持ってきた場所や人物、さらには俺の存在を隠してもらっている。
これは単純に、竜族やエルフ族に迷惑をかけたくないから。もしも万病に効く血、なんてものが知られれば、必ずそれを手に入れようとするだろう。竜族の村は隠された場所にあるとはいえ、その存在さえ知られるべきではない。
もうひとつの理由として、俺という子供よりも、ガラドという魔王を討った実績のある勇者の栄誉にした方が、周囲の反応が段違いだからだ。だから、今回の旅の真実を知っているのは、家族とノアリたち関係者だけだ。
「っくし!」
うぅ、くしゃみ……誰か俺の噂でもしているのだろうか?
とにかく、エルフ族はまだしも、竜族が関わっていることは本当に一部しか知らない。元々、竜族は存在さえ曖昧だからな。口を滑らせなければバレることはない。
ノアリや、ノアリの両親も口を滑らせるタイプじゃない。むしろ両親は、クルドにめちゃくちゃ感謝していた。あの様子なら、心配する事態にはならないだろう。
一連の事件が終息した頃……というか、ノアリの体調が回復した翌日。クルドは帰っていった。できれば俺も着いていきたかったが、場所が場所だけに、ザババージャさんによろしく伝えてもらうことにした。
そして、ヤネッサは……
「ヤークー、そろそろノアリちゃんが来るわよー!」
「はーい」
と、俺を呼ぶ母上の声。俺は机の上に置いてあった、カラフルな袋で包んだものを手に、部屋を出た。
ヤネッサは、あのあと帰るつもりではいたのだが、とある理由で今日まで残ることになった。俺としても、エルフの森にはお礼をしに行きたかったから、ひとりで帰すわけにもいかなかった。
その間ヤネッサはこの家に住んだ。今回の旅の同行者ということで、母上からも父上からも特に反対はなかったが……ほぼ裸体に近い格好でうろうろするのは、勘弁してほしい。
そんなヤネッサが、呪いの術者を討った場所へ行きたいと言い出したのは、クルドが帰った直後。父上の権限で、城には難なく入ることができ……術者が死んだという部屋に入り、ヤネッサは言った。
『ここ……魔族の、においがする』
その言葉を聞いた瞬間、俺の背筋は凍りついた。ガラドも動揺に、顔を固くしていた。
確かザババージャさんは、呪いをかけることができるのは人間以外だ……という主旨の発言をしていた。その時点で、今回の事件の黒幕はエルフ族か魔族でないかと、思っていたが……
ヤネッサは鼻がいいという話だったが、まさかすでに死んだ人物の種族までかぎ分けられるとは。驚いたが、これでセクニア・ヤロ=魔族という図ができ、呪いをかけることができた謎も解けた。人間ではなかったのだから、できたことだ。
いったいいつから、魔族が国に潜り込んでいたのか。というか、魔族は魔王が消滅したことで、同じく消滅したはずだ。気になることは、まだあるが……それは、俺が考えても仕方ないだろう。それよりも、俺が今考えるべきことは……
「ヤーク、机に食器並べてくれる?」
「はーい」
「ぼくもやります!」
母上の指示に従い、俺とキャーシュは食器を並べていく。キャーシュは、俺がいない間ロイ先生の所に預けられていたらしい。しかし、事件が解決してからは家に戻ってきた。先生にも、感謝だ。
寂しくさせていたことで、キャーシュと再会したときには泣かれた。めちゃくちゃ泣かれた。ぽかぽかと叩かれた。
なんとかその後ずっと一緒にいたことで、許してもらえた。一緒にいたというより、くっつかれていたというべきかもしれない。
「ふんふんふん♪」
「楽しそうだな、キャーシュ」
「うん!」
鼻唄を歌い、上機嫌に食器を並べていくキャーシュ。なぜ、今日こんなに上機嫌なのか……その理由は、知っている。というか、俺も楽しみだからだ。
それもそのはず。なんせ今日は、ノアリの誕生日なのだ。少し前までは、誕生日を迎えれば死んでしまうはずだった……だが、今はこうして、新しく年を取ることができる。
これが、嬉しくないはずが、ない。
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