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第3章 『竜王』への道
幕間 誕生日
しおりを挟む「ノアリ(ちゃん)、誕生日おめでとう!」
様々な声が重なり、今回の主役を祝う。お祝いの言葉通り、今日はノアリの誕生日だ。
俺たちに囲まれ、嬉しそうな表情を浮かべるノアリが、照れくさそうにしながらも微笑み……
「あ、ありがとう」
頬を染め、笑みを浮かべる姿は年相応でかわいらしい。誕生日ということでこうして祝っているが、『呪病』が治った祝賀会、というのも兼ねている。
誕生日を迎えると同時に死ぬはずだった呪い……それが解かれ、治っていくのは思いの外早かった。体が元に戻った数時間後には自分で体を起こせるほどになったのだ。
そして、今日……大事を取り昨日までウチで療養してもらい、誕生日会を開こうということになった。療養といっても、自由に動ける程度には回復していたのだが。
ここにはノアリ本人を除き、俺とキャーシュ、母上、アンジー、ノアリの両親にロイ先生、そしてヤネッサが揃っていた。
父上は用事があり、後で合流するようだ。
「わ、私、こんな大勢に祝ってもらうの、初めて……」
「そっか」
ノアリは人見知りな性格だが、家が貴族なのでそれなりに祝われる経験があったのかと思っていたが……そうでも、ないらしいな。
この日のために家の中を少し飾り付け、料理は庭で。それぞれがわいわいと賑やかにしている。
「今日はノアリちゃんが主役だからどんなわがまま言ってもいいのよ!」
「う、うん……」
ノアリも、初めて会ったときに比べればだいぶ打ち解けることができた。もっとも、このメンバーだからかもしれないが……
ウチのメンバーはともかく、いつの間にか、ヤネッサとノアリも仲良くなっている……いや、というよりヤネッサがめちゃめちゃノアリに絡んでいっている。話しやすいのか……同性で、精神年齢が近いせいだろうか?
まあ、仲良くなるのはいいことだ。ヤネッサもこの誕生日会が終わればエルフの森に帰るため、今日がノアリと過ごす最後の時間。会いに行こうと思えば行ける距離だが、簡単ではない。
堪能しておきたいのだろう。まあ最後だし、ノアリ本人も満更ではないみたいだしな。
「んん、うまっ」
ノアリの誕生日会とはいえ、出される料理は平等だ。アンジーがこの日のために腕によりをかけて作ったようで、その出来映えは充分だ。
それに……
「にいさま、これボクが作ったんです!」
「おぉー、そうなのか」
差し出されるサラダをぱくり。これを作ったというのは、なんとキャーシュだ。
俺のいない間、ロイ先生の所にお邪魔していたり訪れてくれたりというが、どうやらそこで料理を教わっていたらしい。先生料理できたんだな……
俺にとって、唯一血の繋がりのある中で信頼できる弟……そんなかわいい弟が作ったものを、ないがしろにするわけにはいかない。
「うん、美味しいよキャーシュ」
「よかったー!」
これはお世辞ではない。さすがにアンジーと比べるのは失礼であるが、この年の子供が作ったにしてはすごく美味しい、本心だ。
「ヤークは相変わらず、キャーシュが大切のようですね」
「先生」
そこに来たのは、先生だ。グラスを片手に、お酒でも飲んでいるのだろう。キャーシュはすっかり先生になついたらしく、とてとてと駆け寄り片足に抱きついている。うらやましい。
「先生、ありがとうございました。キャーシュを預かってもらっていたみたいで」
「いや、私にはそれくらいしかできることがなかったので。それよりも……ヤーク、なんだか大きくなったみたいですね」
「そ、そうですかね」
先生に言われると、照れる。とはいえ、俺がこの旅の中で出せた成果といえば、子供のゴブリンを一対一で倒せたくらい。他は、みんなに助けてもらってばかりだ。
まだまだだ。今回の旅の目的は果たせたとはいえ、俺自体が成長したとは言えない。
「先生……」
「ん……話したいことはお互いありますが、それはまた後で。今はほら、主役がお待ちですよ」
ふいに、先生が手で示した方向には……ノアリが、立っていた。誰かからのプレゼントだろう、大きなぬいぐるみを抱き締めている。
実に年相応の贈り物だ。耳が長い白い生き物だ。口元を隠している。
「やぁノアリ、楽しんでる?」
「あ、う、うん」
手をあげ、ノアリに一歩近づくが……ノアリは一歩、後ろに下がる。やはり、か……誕生日会というイベント事なら、なんかいけるかなと思っていたのだが。
あの日……ノアリが呪いから解き放たれ、自由に動けるようになってからというもの。ノアリはやたらと俺を避けるのだ。今のように近づいていっても避けたり、目をあわせてくれない。
かと思えば、視線を感じたりノアリがなにかを話したそうにしていたり。嫌われた、というわけではないらしいのだが……
「んー……」
嫌われてもいないのに避けられる、その理由がわからない。一応母上にも聞いてみたが、なんかほほえましいものを見る目で答えられた。
結局、今日に至るまで2人きりになる時間があまりなかったのだが……
「あ、の、ヤーク……」
と、ノアリの方から話しかけてくれる。俺から話しかけることはあったが、ノアリからは初めてじゃないか?
ともあれ、せっかくノアリから話しかけてくれたのだ。先生は気を使ってかキャーシュを連れてどっか行ったし、近くには誰もいない。
「えっ、と……お礼、まだ、言えてなかっ、た……よね」
「お礼……?」
ノアリの口から、お礼なんて言葉が出るとは。このタイミングでお礼とは、おそらく……いや確実に『呪病』のことだろう。ノアリには、一連の出来事を説明してある。というか、母上が勝手にした。俺が旅に出たこととか、ノアリのために薬を取ってきたこととか。
それはもう嬉々として話していた。だから、ノアリはもしかしたら俺に恩義を感じているのかもしれない。だが……
「ノアリ、俺は別に……」
「ううん、言わせて」
お礼がほしくて、やったのではない。俺は俺が、ノアリを死なせたくなかったから勝手にやったのだ……そう答えようとしたが、ノアリ本人に遮られた。
聞いて、と。強い瞳で。
「私……苦しかった。痛くて、つらくて、自分がどうにかなっちゃいそうで……このまま死んじゃうのかなって、思ってた」
「……」
「でも……それをヤークが、助けてくれた。ヤークが、私のために危険な旅に出て、それを聞いて……心配したし、私なんかのためにって思った。でも……嬉しかった」
小さく、しかし確かにノアリは言葉を紡いでいく。その言葉はだんだんと、はっきりとした想いを孕んでいって……
「だから……だから、ありがとう、ヤーク。私のために危険なことをしてくれて。私を、助けてくれて」
しっかりとした口調で、頬を赤らめ、俺をまっすぐ見て、今度はしっかりと顔を見せて。
お礼を言われたかったわけじゃない。が、やっぱり……嬉しい、な。
「ノアリ、ちょっと動かないで」
「え? うん」
「……はい、これ」
俺はノアリの目の前まで近づき、あるものを首にかける。それは俺が、ノアリに用意していたプレゼントで……
「……ネック、レス?」
「誕生日おめでとう、ノアリ。俺からの誕生日プレゼントではあるけど、まあ、お金は親に借りたんだけどね」
ノアリのプレゼントに、俺はネックレスを選んだ。先端が星の形をしたもの。正直、どれにしようか悩み……
母上やアンジー、ノアリの母親、そして一応ヤネッサにも調査して、ノアリくらいの女の子にどんなプレゼントが喜ばれるかを調べた。しかし、少し背伸びしすぎだっただろうか?
そんな俺の心配は……
「……嬉しい……ありがとう……!」
ネックレスを手に涙するノアリの表情と、心からの嬉しさのこもった言葉で、あっという間に晴れてしまった。
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