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第3章 『竜王』への道
幕間 剣の鍛練
しおりを挟む「はっ、やぁ!」
ノアリから、強くなりたいとの告白があってまた数日。今、俺と共に木刀を振っているのは、そのノアリ自身だ。
ノアリは、強くなりたい、剣を習いたいと先生に訴え、先生は承諾したが両親からの許可を貰うように言われた。その後、ノアリは両親からの許可を、勝ち取ったようだ。
結果、こうして俺と同じく、剣の鍛練を受けている。
「ノアリ、素振りも大切です。集中力を切らさないように」
「はい!」
ノアリが生徒となり、先生からの呼び方は「ノアリ様」から「ノアリ」となった。俺の時と同じだ。貴族の家柄とはいえ生徒になった以上、そういった上下関係はなしにすると。
そうして、ノアリも生徒のひとりとなった。ノアリの場合、授業の日は自宅ではなく、ウチに来る。というか、俺の鍛練の日と合わせ、俺と一緒に受ける、と言った方が正しいか。
俺としても、ひとりでやるよりも2人でやるというのは新鮮と同時に、なんだか負けられない気持ちになるのでやりがいがある。
「うん、だいぶん様になってきましたね。やはり、筋がいいようです」
剣の素振りとはいっても、まったく剣を握ったことのない素人がそれなりの形になるには、時間がかかる。
が、先生が見抜いていた通り、ノアリは動きがいいようだ。教えられたことを、すぐに吸収している。
「さあ、少し休憩にしましょう」
あまり根を詰めすぎてもいけない。ノアリは女の子だし、さらに最近まで病に伏せていたのだ。それを、先生も考慮しているのだろう。
俺もノアリと合わせて休憩をとる。ノアリと練習内容は違うが、こうして時間を合わせることでノアリと共に休憩する。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
いつものごとく、アンジーがお茶を出してくれる。それを口に運び、喉を潤す先生は実に絵になる。まさに美男美女ってやつだな。
「うん、今日も美味しいです」
「あ、ありがとうございます」
実際に、アンジーの淹れてくれたお茶はおいしい。その感想を、先生は微笑みと共にアンジーへと向けるのだ。あんな美男から笑顔を向けられたら、そりゃ照れるよな。
ただ、アンジーの照れはそれだけではないように思う。なんとなくだけど、アンジーが先生を見る目が他の男を見る目とは違う……それに、気づいたのはいつからだっただろう。
先生がアンジーをどう思っているかはともかく、アンジーからはまず間違いなく……だろう。もちろん本人から聞いたことはないし、聞けないが。だが、それを踏まえた上で2人のやり取りを見ていると……
「……ど、どうしました? ヤーク様、そんな顔をして」
「へ? ううん、なんでもないよ」
今自分がどんな顔をしているのかわからないが、アンジーが軽く引いている様子を見るに、それはもう温かい目をしていたのだろう。自重せねば。
俺は無粋なことは言わない。温かく2人を見守ろうではないか。
「こほん。さて……ヤークには教えたけど、ノアリにも剣の主な3つの流派を教えておこう」
「はい」
3つの流派……それは、俺が剣を習い始めた頃に習ったものだ。最近は『呪病』騒ぎで忙しかったのもあるし、復習しておこう。先生の説明と共に、頭の中で思い立てていく。
ひとつ、攻撃を主体とした功竜派(こうりゅうは)。ひとつ、防御を主体とした防竜派(ぼうりゅうは)。ひとつ、技術面を主体とした技竜派(ぎりゅうは)。これら3つの流派が、基本的な型となり、そこから複数の流派を極めるなり一つの流派を極めるなりしていく。
俺は、我流……3つの流派のどれにも属さないが、3つの流派のどれにも属している……ようなもの。要は、3つの流派どの型とも違うから、相手に動きを悟られにくい利点、型がない分自身の上達が難しい不利点などがある。
俺は、不服だが我流の父上の剣を見よう見まねでひとり鍛練していたため、我流になった。もちろん我流どころか流派自体知らなかったが。
さて、その点で考えるとノアリは……
「私の見立てでは、ノアリは技竜派ですね」
「やっぱり」
どうやら先生も、俺の考えと同じだったらしい。
これまで横で、ノアリの様子を見ていたが……3つの中でどれか、と聞かれたなら、これと答える。
「技竜派……技術面って、ことですか」
「そう。ノアリは力が不足している……これは、単純に子供だからというのもありますが、これから腕力等を鍛えていくより、今あるノアリの良い点を伸ばした方がいいでしょう」
「良い点……」
「何度も言うように、ノアリは体の動きがいい。ただ防御に回るよりも、その体の柔らかさを生かして技量を伸ばして言った方が、いいと考えます」
ノアリに、攻撃主体の流派は厳しい。防御主体も悪くはないが、それよりもノアリの飲み込みの早さなどを考えると、技術面を磨いた方が遥かに良いだろう。
技術面を主体とした流派……そういった意味では、我流と少し似ているかもしれない。だが、自分岳の剣である我流よりも、繊細な技術が必要であり、ゆえに極めた分かなりの武器となる。
「ノアリ自身、やりたいことはありますか? 言いたいことがあれば、遠慮なく言ってください。私は、先生ですから」
「えっ、と……私も、その流派が、いいと思います」
まだ、聞いたばかりではわからないこともあるだろう。だが、ノアリはちゃんと、自分の意見で答えていく。
本人に強制するのはよくないし……ノアリは積極的な性格ではないとはいえ、最近では自分を出すようになってきた。
今の返事も、言葉こそ淡白だが……その目には、闘志が宿っていた。
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