81 / 307
第4章 騎士学園での騒動
剣と剣
しおりを挟む試験開始。直後、ガルドロは俺に向かって走り出す。その足には迷いがなく、俺しか見えていないようだ。
これまで話した雰囲気から、ガルドロは気が長い方ではない。しかも、名に自信を持っているということはそこを突っつけば、気持ちは簡単に崩れる。
さっきの言葉は、挑発だ。実際、ガルドロは相当な使い手……さっきのいざこざでは、俺をなめていたおかげで簡単に見切ることが出来ただけだ。
なので、今回も同様のことをする。さっき俺が剣を掴んで見せたこと、俺がフォン・ライオスであること……俺をもう、なめてはかからないだろう。ならば、怒りでその冷静さを上回ってやればいい。
「らぁ!」
射程範囲に入ったガルドロが、剣を振り下ろす。俺はそれを、一歩左に移動するだけでかわす。
この試合では、もちろん殺しは禁止だ。これは入学試験なのだからな。なのにガルドロがこうも思い切った行動をとってくる理由は一つ。
怒りで我を忘れているから……ではない。この会場全体には、結界というものが張ってある。それは、結界の中にいる者は一定以上の傷を負わないというもの。単純な話、死ぬほどの攻撃を受けても結界がダメージを防ぐ、ということだ。試合で死人が出るのはよろしくないからな。
「く、そぉ!」
「よ、ほっ」
ガルドロの剣撃を避ける、避ける、避ける。やはり結界があるから、躊躇がない。
この結界は、魔法によるものだ。そして魔法を使えるのは、エルフしかいない。この学園には、エルフの教員がいるということだ。学園にエルフがいて、勉強を教えている……この学園は、人種間の問題にも足を踏み入れている。
「こ、の! 当たらねえ、おら!」
「頭に血が上り過ぎだ。そんなんじゃ、当たるものも当たらないよ」
「うるせえ!」
どうやら、怒りに完全に呑まれているだけではないようだ。もしそうなら、剣筋はもっとめちゃくちゃになっているはず。そうでないってことは、怒りを乗せつつ理性を残している。
そう、これは試合でもあるが……入学の試験だ。勝ち負けが問題ではない。この学院に入学し、その後の評価のためにも勝つ以上に実力を見せる必要がある。
ふむ……さっきのように、また剣を掴むのは簡単だが……それではあまり面白みがない。それに、あくまで剣の腕を持って相手を下さないと実力は測れないし。避けているだけというのは、もってのほかだ。
「もらったぁ!」
足をとまた俺に隙ができたと思い込んだガルドロは、鋭い一撃を振り下ろす。このまま、防戦一方のまま負ければ入学なんてできない。
誰の目にも明らかな、腕の差を見せるには……これだ。
キィンッ……!
「なっ……」
その鋭い一振りを、剣で受け止めること。
「なん、だと……ただの、模造剣に……!」
「確かにこいつは、模造剣……ただの、普通の剣だ。ランクはあんたの名剣に比べたらかなり下がるし、模造剣同士には上も下もない」
そう、試験の際に渡されたのは、どこにでもあるような剣。ガルドロの持っている名剣なんかとは、そもそも格が違うだろう。
だが、そんなもの問題ではない。相手が名剣だろうが、どんな使い手だろうが……俺が殺すべき男は、もっと高みにいるのだから。
「こんなところで、足踏みしてられないんだ」
「なに言って……うおっ」
受け止めていた剣を受け流し、ガルドロの体勢を崩す。力を入れていたから、比較的簡単にバランスを崩すことが出来た。
そこから俺は、反撃に移る。斬る、というよりは突きの姿勢で剣を打っていく。
「くっ、ぬ……くそ!」
それを、ひとつひとつガルドロは捌いていく。受け止め、受け流し……なるほど、威勢だけじゃないってことか。手は抜いていないし、これをすべて捌けるってことはガルドロの実力はやはり高い。
が、捌くので手一杯といった感じか。なら……
「そこ!」
「なっ……」
突きを受け止めたガルドロの剣を、弾き飛ばす。意識はすでに防御に徹していたし、少し手を加えてやれば得物を弾くのは容易い。ガルドロの流派はガチガチの功竜派、防御や細かい動作が得意ではないのだ。
そのまま俺は、剣の切っ先をガルドロの喉元へと突き付ける。
「どうだ、まだやるか?」
「……! ……く、まい……った……」
『試験終了!』
試験終了の声。それに伴い、会場は湧く。ほとんどの者は、勝者はガルドロだと思っていたんじゃないだろうか。
あの後ノアリに聞いたが、ガルドロは家柄が立派なだけではなく、俺が感じたように相当な実力者だったらしい。度々開かれる剣術大会で、他を圧倒していたとか。
対して俺は、名前こそでかいがガルドロのような、知名度はない。だから、一般の予想はガルドロの勝利だと思っていたのではないだろうか。
「く、そ……認めねえ、俺は認めねえぞ。フォン・ライオスの家の血筋で強いってだけのことだろ……ま、親が『勇者』なら当然か」
「……!」
会場では次の試験が始まるため、背を向け早々に立ち去る……そのつもりだったが、去り際に聞こえたガルドロの台詞に、思わず足を止める。それが、負け惜しみ以外の何物でもないと知りながら。
こいつはつまり、こう言ったのだ。俺の剣の腕は、なんの努力もしていない、ただ血筋に恵まれただけのものだと。冗談じゃない、俺が今までどれだけ、血のにじむ努力をしてきたと思ってる。
それを、ただ血筋の一言で済ませるのか。なにより…
「な、なんだよ……」
「俺を、あの男の子供だからって理解されるのは、とんでもない侮辱だ」
俺はあの男を殺すために、剣を握ってきた。あの男を殺すために、騎士となって実力をつける道を選んだ。それを、なにも知らない奴が……! ただでさえ、あの男が父親であるという事実にうんざりしているのに。
気づけば俺は、ガルドロの前へと戻り、剣を振るっていた。首を落とす勢いで……いや、首を落とすつもりで。
「……ひっ!?」
ガルドロの首が、落ちる……はずだった、本来は。しかし、この会場に張られた結界のおかげで、致命傷となり得る攻撃は打ち消される。首を落とす一太刀も、首は繋がったままだ。
まあ……首が斬られる、その恐怖は、本人に刻み込まれただろうが。
『な、なにをしているのです! 早く退場しなさい!』
その行為を見た客席は動揺に湧き、司会の声も慌てたようなものだ。鼻を鳴らして、俺はその場を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、
屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。
そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。
母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。
そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。
しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。
メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、
財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼!
学んだことを生かし、商会を設立。
孤児院から人材を引き取り育成もスタート。
出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。
そこに隣国の王子も参戦してきて?!
本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る
とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました
ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公
某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生
さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明
これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語
(基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる