復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第6章 王位継承の行方

魔石について

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 ……それからの日々は、特に代わり映えすることはなかった。シュベルトは以前通りに過ごし、リーダ様もあのような大胆な行動を取ることはなかった。

 やはり王族である以上、シュベルトに例の件を直接聞いてくる者はおらず、シュベルトからの例の件を口にすることはなかった。代わりに、俺やノアリなんかは、シュベルトと仲良くしているからか例の件について聞かれたが。

 シュベルトが嘘をついていたことを知っていたのか……といったものだ。嘘をついても仕方なかったので、正直に知っていたと答える。知っていた上で、一緒に過ごしていたのだと。

 それは果たして、効果があったのかはわからない。だが少なくとも、あの放送があった直後よりは、みんなの目は和らいできたかのように思う。このままいけば、シュベルトに対する信頼も少なくともこれ以上落ちることはないだろう。

 ……気にかかるのは、リーダ様だ。シュベルトを貶めることが目的なら、なぜ今沈黙しているのか。畳み掛けるように、シュベルトの不利になる情報を出していけばいい……それを、しない。

 俺たちとしては助かるが、この沈黙が不気味でならない。何度か会いに行ってみたが、今度は他の生徒に阻まれて会えなかった。多分、リーダ様本人が俺と会うのを拒否しているのだろう。


「……ふぅ」


 俺としては、このまま時間が流れるのはありがたい。一旦落ちてしまった信頼だが、これ以上落ちることはない。リーダ様の動きが不気味であるのが、それ以上に引っかかっているか。

 自ら国王になると宣言したリーダ様が、このまま黙ったままとも思えないが……それとも、動けないほどに別のことで忙しい、とか。


「そっかー、学園ではそんなことがあったんだ」


 ため息を漏らす俺の正面に座るヤネッサが、テーブルに肘を突きながら言葉を漏らす。今俺は、ヤネッサの家にいる。

 結局、ヤネッサに会いに来たのはあれから数日後となった。シュベルトの信頼回復……いや信頼がこれ以上落ちないように、優先事項をそちらと決めていたからだ。

 数日の間、リーダ様に動きはなかった。なので、シュベルトのことは一旦大丈夫だろうと思い、エルフであるヤネッサに話を聞きに来たわけだ。


「あぁ、もう大騒ぎだよ」

「そのわりに、あんまり忙しそうじゃあないよね?」

「俺の頭の中は、って意味。実際には、最悪暴動まで覚悟してたんだけど」


 学園で、真実を知らされた生徒たちが取った行動……それは、シュベルトに実害のあるものではなく、ただ疑念を持ってシュベルトを見ていたくらいだ。

 下手をすれば、暴動が起きていたかもしれない。人ってのは、疑心が高まるとなにをするかわからないからな。それがなかったのは、少なからず貴族としての教養が、みんなを短絡的な行動に移さなかったのだろう。

 学園の外でもそうだ。学園内よりは混乱も大きかったようだが、暴動とまで大きなことは起こっていない。ただ……


「毎日のように、城に詰めかける連中はいる、か」


 王族、いや国王の失態とも言える、シュベルトの出自のごまかし。それを聞きつけた、いわゆる記者が、毎日のように城に詰めかけているらしい。王族は、それに応えてはいないが……

 記事では『国王沈黙を貫く』、『第一王子の位はリーダ様に譲渡か?』、『現王政に疑問あり』などのネタがでかでかと書かれている。そして、そういう記事ほど飛ぶように売れる。

 スクープだの衝撃の事実だの、貴族であってもそういうネタには弱いようだ。王族を批判するような記事も中にはあるが、後ろ盾でもあるのか、揉み消されることはなく販売されている。

 こんな状況になって、揉み消しもなにもないだろうが。


「でも、近所のおばちゃん言ってたよ。今の国王様は国民のことを考えていろいろやってくれてたから、騒ぎもそれほど大きくならなかったんだって」

「……なるほどね」


 俺は、一度国王に会ったことがある。それは今の俺ではない……転生前の、俺だ。

 国宝に選ばれ、魔王討伐のために集められた俺たちは、その時一度だけ、国王に会った。あれから月日は流れたが、あの時の国王は今も健在だ。

 国王は、俺にも他のみんなと平等に接してくれた。他の貴族が、平民だと見下ろす中……まあ、他の連中の手前、平等にしていただけかもしれないが。


「……目に見える範囲では、ね」

「……そっか」


 とにかく、直接会った印象だと……国王は悪い人では、ない。だから国民からの信頼も厚く、あんな発表があっても思ったほど騒ぎにはならなかった……と?

 ……だとしたら、リーダ様の目的は果たされるのか? シュベルト様を陥れ、国王をその座から引き下ろし……自分が、国王になる。そんな計画を持っていても、今の所なんの意味も……

 とはいえ、目に見える範囲で、騒ぎがないだけではあるのだが。


「で、ヤークはそのリーダの協力者について、調べてるんだって?」

「え? あ、あぁそうだ……てか、リーダって。一応王族だぞ」

「私元々この国の人間じゃないしぃ」


 それはあまり関係ないのではなかろうか。まあいいか。

 そう、俺がヤネッサを尋ねた理由は、リーダ様に協力しているエルフについて、心当たりがないかを聞くためだ。まあ心当たりといっても、あまり期待はしていないんだが。エルフのことはエルフ、程度の気持ちで来ただけだし。

 ちなみにノアリとミライヤには、アンジーの所へ行ってもらっている。


「うーん、確か投影魔術、だっけ?」

「あぁ、セイメイはそう言ってた」


 リーダ様がその姿を、声を学園内に届けた方法について、シン・セイメイはそう言っていた。セイメイについては、先ほどヤネッサに話しておいた。

 事前に、ノアリとミライヤにも。シュベルトにはまだだが、落ち着いたら話すつもりだ。


「でもさー、信用できるの? セイメイなんて、聞いたことないよ? 魔術の創造主とか、うさんくさいよ」

「あはは」


 同じエルフであるヤネッサに聞いても、その答えはわからない、というものだった。そもそも本当にそんなすごい人物なのかも……とはいえ、俺だって遥か昔の英雄の名前なんて、知らないしな。

 奴は転生魔術の創造主と言っていたが……転生のことをここで細かく説明する暇もないので、ヤネッサには魔術の創造主だとだけ言っておいた。


「けど、そいつがただ者ではないことは確かなんだ。それに、リーダ様はそいつを誘き出すために、投影魔術を使ったらしい」

「んー……なんかややこしいよぅ。リーダにはエルフの協力者がいる、そのエルフの力を使って投影魔術ってのを使って、セイメイってエルフを誘き出した……なんのために?」

「そこまでは、わかんないけど」


 少なくともこの件には、2人のエルフが関わっている。リーダ様の協力者、リーダ様が捕まえたがってるセイメイ。

 学園内にいるエルフは、クロード先生を筆頭に、他にもいるが……その中に、リーダ様に協力しているエルフがいるのか。


「それに、本当なの? そのセイメイってのが、『魔導書』事件に関わってたなんて」

「……リーダ様がそう言ってただけだよ。俺を動揺させるだけのものかもしれない」


 そう、確証はない……だが、1年もまだ不明のままなんだ。あながち間違いでは、ないのかもしれない。


「ふぅん。けど、魔石を渡した誰かがいる時点で、エルフが関わってる可能性はあるとは思ってたよ」

「……そうなの?」

「あり、言ってなかった?」


 うん、言ってなかった。初めて聞いた。


「そもそもの話……魔石って、どういうもんなんだ?」

「……知らなかったの?」

「いや、大まかにって感じ。魔法を溜めといて、人間でも魔法が使える石みたいな」


 ビライス・ノラムに魔石を渡した人物……それがセイメイだとして。なんの目的があるのかはわからないが。

 そこまで考えて、俺は魔石についての知識があまりないことに気づく。学園にも、魔石はあるのにな。


「こほん。じゃあ、私が教えてあげよう」

「お。じゃあお願いします、ヤネッサ先生」

「うむ。まあ、ヤークの知識で大まかには間違いないんだよ。魔石ってのは、要は魔力を溜める器」

「器」


 指を立て、ドヤ顔で説明していくヤネッサ。


「そ。で、例えるなら器に魔力という水を溜めていくの。で、魔法が使えるようになる。使うと水が燃えるように消費される」

「水なのに燃えるのか?」

「例えばって言ったじゃん、燃えるようにって言ったじゃん。……それで、魔力が空になると、また魔力を溜める。そしたら使えるようになる。ちなみに、器はあらかじめなんの魔法が使えるか決まってるんだよ。火を出す、風を起こす……人を、操る、ってね」


 なるほど……魔石は、あらかじめできることが決まっており、それに魔力を溜めることで力を発揮する、と。

 ……そういや聞いた話じゃ、魔石が本格的に普及し始めたのと、この国にエルフが暮らし始めた時期が同じくらいだったな。


「じゃ、エルフが魔力を溜めとけば、誰でも使えるんだ」

「うん。でも、人を操るとか、そんな邪悪な力……よほどの魔力の持ち主じゃないと、そんな力を持つ魔石に魔力は溜められないよ」


 俺の問いかけに、ヤネッサはうなずくが……次第に、難しい顔になっていく。


「つまり……」

「とんでもない魔力の持ち主だっていう、セイメイならあり得るってこと」


 魔石によっては、相応の魔力を溜めなければならない。それを踏まえると、高度な魔力を持つセイメイの線は、あながち間違いではない。

 目的とか、そんなことはわからない。ただ……


「もし、『魔導書』事件にセイメイが関わっていたら……」

「……許せない、ね」


 俺の言葉を引き継ぐように、ヤネッサが言う。ヤネッサ自身、あの事件で片腕を失う深手を負ったのだ。

 だが、真に許せないのは……ミライヤの、ことだろう。あの事件が起こらなければ、ミライヤが傷つくことも、ミライヤの両親が殺されることもなかったのだから。

 実行したのはビライス・ノラムだとしても、そんな邪悪な魔石を渡した時点で、無関係とは言わせない。


「はぁ、けどまー、リーダ様がセイメイを捜してるって理由もわからないしリーダ様の動きも読めないし、わかんないことだらけだよ」

「……」


 わからないことだらけ……俺が頭を抱えていると、珍しくヤネッサは黙ってしまった。どうしたのだろう、お腹でも痛いのだろうか。


「ねぇヤーク」

「なんだね」

「その、セイメイってのを誘き出すために、リーダは投影魔術ってのを使ったんだよね?」

「そう言ってたな」

「だったら、セイメイを突き出しちゃえば、リーダがまたあんな大胆なことは起こさないんじゃないかな」

「…………あ」


 ヤネッサの言葉に、唖然とする。そうだ、そうだよ……なんで今まで、気づかなかったんだ。

 リーダ様が、またいつあんなことをしでかすかわからない。だったら、リーダ様の目的を果たしてやればいいんじゃないか。セイメイを誘き出すためにやったのなら、セイメイを突き出せばいいじゃないか。

 難しく考えすぎて、こんな簡単なことに気づかなかったとは。


「それもそうだよ。ありがとなヤネッサ」

「ふふん」


 とりあえず、俺がやるべきことは決まったな。セイメイをリーダ様の所へ、突き出す。

 どこにいるか、わかんないけど。
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