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第6章 王位継承の行方
面白い面子
しおりを挟むヤネッサとの話を終え、俺はノアリ、ミライヤと合流した。ヤネッサとの話で、リーダ様の協力者であるエルフに対する推測は進まなかった。アンジーに聞きに行ったノアリとミライヤの成果も、似たようなものだ。
ヤネッサから聞いて身のあった話といえば、魔石の詳細……むしろ、なんで今まで知らなかったんだという内容ではあったが。それに、ひとつの解決策。
リーダ様が捜しているセイメイを、リーダ様に引き渡してしまえば……リーダ様は、今回のような行動には出ないのではないか、というものだ。
「なるほどね……でも、そのセイメイってのどこにいるのよ」
解決策を話したところ、腕組みしたノアリは言う。俺も思っていたことだ。セイメイを引き渡そうにも、セイメイがどこにいるのかわからないのだ。
過去、俺がセイメイと会ったのは2回。だが、そのどちらもセイメイの方から俺に接触してきたのだ。
「どこにいるかもわからない相手……ですか。難しいと思います」
ミライヤも、それは難しいだろうと言う。俺も思ってはいたが、他に2人から言われると、余計に難しいんだろうなと思う。
そりゃそうだよなぁ、向こうから一方的に接触してきただけの相手を、捜すのは難しいよなぁ。
「どうしたもんか」
俺は腕を組み、考える。現在、近くの公園のベンチに座り、3人並んで腕を組んでいる、なんとも珍妙な光景となっていた。
「いっそのこと呼んでみたら?」
「いや、そんなんで会えたら苦労はしないんだけど」
「ダメでもともとです、やってみましょう!」
……なぜこの2人は、妙にやる気なんだろうか。
まあ、このままうんうん頭をひねっていたところで、ただ時間が過ぎていくだけだ。だったら、ミライヤの言う通りダメでもともと、か。
「はぁ、しゃーない……すぅ……セイメイどこだー! でてこーい!」
「なーんじゃ?」
「うひゃぁ!?」
息を吸い込み、目当ての人物の名前を叫ぶ……その直後、背後からいきなり声がしたではないか。
ちょっとお茶目感はあるが。聞き覚えのあるその声に、振り向くと……そこには、今叫んだ名前の人物が、立っていた。
「せ、セイメイ……」
「カカ、なにを驚いた顔をしとるんじゃ。呼んだのは主じゃろうが」
「や、まさか本当に、出てくるとは思わなくて……」
まったく期待していなかった方法で、捜していた人物が現れたのだ。そりゃ驚きもするだろう。
と、とにかく、本当に上手くいってなんか、拍子抜けではあるがよかった。
「そ、そうだ。ノアリ、ミライヤ、こいつが、話していたセイメイってエルフで……」
「ぷ、くく……う、うひゃぁ、ですって……くふふ……!」
「わ、笑っちゃ悪いですよ、せっかく呼んで下さったのに……ぶふっ」
……セイメイが現れ、こいつがセイメイだと2人に教えようと視線を向けたところ、ノアリもミライヤも、口元を押さえて振るえていた。というか、笑い出そうとするのを耐えていた。もうほぼ吹き出しているが。
こ、こいつら……俺だって、あんなこと恥ずかしかったのを、なるべく考えないようにしていたのに……!
「おい、お前ら……」
「だ、だって、あんな……う、うひゃ、うひゃぁって……ぶほほ!」
「ご、ごめんなさい、ヤーク様……そうですよねダメですよね笑っちゃあ…………んくふはは……!」
「ぐっ……!」
なぜ、俺はこんな辱めを受けているのだろう。思い出しただけで、自分でも恥ずかしいというのに。
「なんじゃ、顔が赤いぞ小僧」
「やかましい!」
くそ、このままじゃただ笑われるだけで終わりそうな気がする。いいよもう、笑いたきゃ勝手に笑ってろよもう。
「んんっ……セイメイ、あんたを呼んだのは他でもない」
「あ、無理やり話題変えたわ」
「変えましたね」
「っ……リーダ様が、あんたを捜してるらしいんだよ。だから、ちょっと会ってやってくれない?」
2人のちゃかしを受けながらも、セイメイにセイメイを呼んだ理由を話す。それを、セイメイは黙って聞いていた。
あごひげ……はないが、それを触っているかのような仕草で、あごを触っている。声の様子といい、やはり中身はおっさんか。
「リーダ……あぁ、確かこの国の第二王子じゃったか」
「そうそう」
「なぜじゃ? なぜ、第二王子ともあろう者が儂を捜しておる?」
「それは……わかんないけども」
リーダ様がセイメイを捜している、しかしその理由までは、俺も知らない。
捜しているというが、その理由がわからない。そんな相手に会えと言われても、さすがに困ってしまうか……だが、会わないでは俺も困る。
リーダ様が投影魔術を使ってあんなことをしたのは、セイメイを誘き出すためだ。だから、セイメイと会いさえすれば、もうあんなことは起こらない……はずだ。
「……リーダという男の協力者に、相応の魔力を持つエルフがいる。儂としても、その者には興味がある」
「じゃあ……!」
「じゃが……断る」
しばらくものを考えるような仕草をした後、セイメイは笑った……不敵に。
その答えは、俺の期待していたものとは正反対のものだった。
「え、いや、なんで……」
「なんで? むしろなぜ主の願いが聞き入れられると思ったのか」
俺はてっきり、即座にオーケーしてくれると思っていた。これまでのこの男の性格から、そう予想したからだ。
しかし、断ると……確かに、そう言った。
「その第二王子と会って、儂になんのメリットがある?」
「それは……今、協力者のエルフに興味があるって言ってたし……」
「興味がある、とはな。じゃがわざわざ儂から足を運ぼうとは思わん。……己が願いを叶えたいならば、相応のメリットを明かさねばな」
……セイメイの言っていることは、正論だ。俺が会ってほしいというだけで、セイメイにとってはメリットがない。会いたい理由が不明となれば、なおさらだ。
かといって、セイメイがリーダ様と会ってセイメイが得をすることなんて、俺には思い浮かばない。
「あの……なんとか、なりませんか? 友達が、ピンチなんです」
悩む俺をフォローするように、ミライヤが言葉を続ける。ミライヤにとっても、シュベルトにこれ以上被害が及ぶ可能性は排除したいのだ。
ミライヤに言われ、セイメイは押し黙る。まさか、かわいい女の子に言われたから意見を変える、とか言わないよな……まあ、俺にとってはそれでもありがたいんだけどさ。
セイメイは、ミライヤの姿を、全身を見ていた。いや、見過ぎだろう。
「あの……」
「カッカッカ、なんとも不思議な娘よの」
「え?」
突然、腹を抱えて笑い出すセイメイ。その奇行ともいえる行動に、ミライヤも俺も呆然とするしかなかった。
その様子を見て、足を一歩踏み出すのは……
「ちょっと、おっさん! ……おっさん? まあなんでもいいわ、ミライヤを変な目で見るんじゃないわよ!」
さすがはノアリ、訳の分からない状況でも関係なしと、声を張り上げる。ミライヤを背後に守るように、立っている。
それを受けて、セイメイは笑いを引っ込めるが……今度は、ノアリをじろじろと見ている。
「な、なによ……」
「ほほぉ、主もか……主ら、なかなか面白いのぉ」
「?」
何事か感心したように、セイメイはうなずいている。ひとりで勝手に感心されても困るのだが……その視線は、ノアリ、ミライヤ……そして、俺を順番に見る。
「なんだよ……?」
「いやぁ、そもそもここに来た理由よ……なるほど面白い面子が揃っておると思って来てみれば、予想以上じゃったわ」
「はぁ?」
なにがおかしいのか、さっきから肩を震わせている。いや、ここに来た理由って……俺が呼んだからじゃないのか?
それとも、それは建前で……なにか"別の理由"で俺たちの前に姿を現した?
「ちょっとヤーク、大丈夫なのこのおっさん!?」
「む、失礼な娘じゃな。……主、竜族という言葉に聞き覚えはあるか?」
じろじろ見られた挙句に笑われては、文句を言いたくなる理由もわかるが……そんなノアリを指して、セイメイは脈略もなく聞く。
その口から出てきたのは、竜族……その、単語だ。なんで、このタイミングで、その名前が出てくる? しかも、なんでノアリに聞く?
「なによいきなり……会ったことは、ないわよ。でも、ヤークが『竜王』の血って薬を持ってきてくれて、そのおかげで助けられたことはあったわ」
「いや、血が薬っていうか……まあ、似たようなもんか」
それは、『呪病』事件の一幕。『呪病』に侵されたノアリを救うため、竜族に会い、『竜王』の血を手に入れた。それをノアリに飲ませたことで、ノアリは治ったのだが……
それが、なんだというのか。
「あぁ、なるほど……だから、か」
「だから?」
「いやなぁに……少々、その娘から竜族のにおいがしたのでな」
「におっ……き、キモい!!」
セイメイの言葉を受け、ノアリは自分の体を抱く。まあ、においがどうのって言われたらな……
……『竜王』の血を飲んだことで、ノアリから竜族のにおいがしている……本当に、それだけか? 第一、においってんならヤネッサがなにも言わないのはおかしい。まあわざわざ言うほどでもないと思ってるのかもしれない。『呪病』の件ではヤネッサも旅に同行し、一部始終を知っているし。
それだけなのかどうか、俺が気にしすぎなだけか……それに、ノアリのことはそれで説明がつくとしても、ミライヤにまで変な目をい向けているのはどういうことだ。
俺は転生者だから、同じように興味を持っているのだろうが。
「すまぬすまぬ。不快な思いをさせてしまった代わりといってはなんじゃが……どれ、なにか聞きたいことがあれば、儂がそれに答えてやるぞ?」
「はぁ? それで乙女のにおいを嗅いだ罪が消えるわけないでしょ!」
ノアリはもう、いろんな意味でセイメイが嫌いになってそうだな。
だが、セイメイの今の言葉により……俺は、ひとつのことを思い出していた。本人に会ったら、聞こうと思っていたことだ。なぜ、忘れていたのか。
「……なら、あんたに聞きたいことがあったんだ」
「ちょっとヤーク!」
「ほほぉ、なんじゃなんじゃ、言ってみるがいい。魔術の構造についてか? それとも生命の在り方についてか?」
……なんか、めちゃくちゃ生き生きしているな。やっぱり、こいつ知識を開け散らかしたいだけじゃないだろうか。
だが、俺が聞きたいことは、おそらくそんな生き生きするものではない。
「1年前、『魔導書』事件の首謀者ビライス・ノラムに魔石を渡したのは……あんたか?」
「……」
瞬間、周囲を静寂が包み込んだ。その質問が出た瞬間、やかましかったノアリも静かになったからだ。
ミライヤは、両手を握り締めている。
「ビライス……はて、そいつは人間じゃよな?」
「当たり前だ。人間の貴族、若い男だ」
なにかを思い出そうとしているのか。その仕草だけで、セイメイが誰かに魔石を渡した経験があるのはわかった。問題は、それがビライス・ノラムなのかどうか。
違うなら、いい……そのまま、俺たちにとって長い時間が過ぎ……額から流れた汗が、地面に落ちた……
「あぁ、思い出した。うむ、確かに渡したぞ、魔石を。人の心を操る部類のもの……じゃったかな?」
そして、決定的な一言を……ビライス・ノラムに魔石を渡した黒幕だと、判明した。
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