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第6章 王位継承の行方
混乱重なるさらなる事件
しおりを挟むその日から、状況は、一変した。国王が自分の過ちを認めたことで、これまで王族への思いを内に秘めていた人たちは、それを機に変化があった。
アンジーによると、城へは連日大勢の人が押し掛け、まさに混乱状態。
これまで表立っての騒ぎがなかったのが、嘘のように……いや、これまでだってただ隠れていただけで、いつこうなっても仕方のない危険性はあった。
押し掛ける人たち……それに対して、国王どころか誰からも、国民の声に応えるものはない。
「どうして……」
それは、純粋な疑問だ。国王が過ちを認めれば、騒ぎが大きくなることくらい誰にでもわかる。
それに対処しないというのは、あまりにもおかしい。
国王の真意が、読めない。
……いや、それどころではない。
「シュベルト様! 今、国王様が……」
それは、国王の発言からわずか3日後のこと。老化により弱っていた国王が、死去したと……大々的に、報じられたのだ。
国王の死去、それは国の一大事だ。だが、ただでさえ事態が混乱していたのに、それに輪をかける形になったのは、もうなにをどうすればいいのか、わからなかった。
国王は、すでに自分の死期が近いことを、察していたのだろうか。だから、あんな暴露をして、次期国王にリーダ様を推した……?
今の状況で、シュベルトを次期国王としたところで、余計にこじれるのは見えているから。
「じゃあ、あれは国王の意思で言ったってこと?」
「多分、だけどな」
現在俺たちは、屋上に集まっている。俺とシュベルトを中心に、ノアリ、ミライヤ、アンジェさん、リエナ。リィも味方になってくれそうではあるが、この場にはいない。
リィも今回の件で、なにか力になりたいと言ってくれた。だから、彼女には周辺の動向を探ってもらっている。基本、俺たちとの接触は控えている。
「……まさか、こんなことになるとは」
と、つぶやくシュベルト。当然ながら、こんな急なことになるとは、思っていなかったようだ。
「今、学園内は大混乱。シュベルト様の出自に、リーダ様の次期国王任命。その任命をした国王が、亡くなったなんて……」
「一部ではすでに、動きがあります。なにせ、国王の死去と、遺言に近いリーダ様の次期国王任命……王族の間でも、かなり騒がれているようです」
「うーむ……」
これだけのことが一度に起こると、もう俺たちだけでどうにか出来る問題ではないのではないか……なんて思ってしまうな。
言い方は悪いが、今やシュベルトよりもリーダ様の方が支持が高い。ただでさえ、国王の遺言もあるのだ。もうリーダ様が次期国王になるのは決まったようなもの。
だが……
「一部では、今回の件に疑問の声も上がっているようです」
「疑問?」
「国王様の死が、もしかしたら老化のもの以外の可能性が。世間が騒いでいるこの時期に重なったこと……シュベルト様への不信が高い中で、リーダ様が次期国王に任命された。そのわずか数日後に、国王様が…………もしかしたら、これは」
「リエナ、それ以上は」
「……失礼しました」
疑問の声、か……確かに、なんかいろいろとタイミングが良すぎるとは、思わないこともない。
シュベルトは話を遮ったが、つまりはこういうことだろう。……リーダ様の手の者が、国王を暗殺したのではないか、と。
「でも、死因は老化なんでしょ? だったら……」
「……ま、そう発表されてるだけ、ってことよ」
老化という死因は、王族から発表があっただけにすぎない。もしかしたら……
「……今は、その辺のことは置いておこう」
「そうですね。今、考えるべきは……」
国王が死んだこと、リーダ様が次期国王に任命されたこと、これらは事実だ。だがまだリーダ様は学生、次期国王として扱おうという動きはあるが、まだすぐにというわけではない。
俺たちが今考えるべきは、そこではない。
「……これから、か」
シュベルトの、これから。それを、考えなければ。
シュベルトはすでに、第一王子ではない。それどころか、国民を騙していたレッテルを張られ本格的に遠ざけられている。シュベルトと仲良くしている俺たちにも、嫌な目が向けられるくらいに。
リィを一歩引いた位置に置いているのも、このためだ。
事実は、なにをどう考えても変わらない。悪いイメージも、すぐには晴れない。
ならば、考えるのはこれからのこと、だ。シュベルトが王族であることには変わりなくても、その扱いはこれまでと変わるだろう。
「……みんな、私のことで、すまない」
と、シュベルトが頭を下げる。別に、シュベルトが悪いことをしているわけでもない……とは言いづらいものの、謝る必要なんてない。
「頭を上げてください、シュベルト様。私たちは……」
「そうそう、友達だろ? なら、困ったときに力を貸すのは当然だ」
「……あぁ、ありがとう」
まだ頭を上げず、目元を伏せたままのシュベルトからは、若干の涙声がした。
「ただ、ちょっとひとりで考えてみたいんだ。庭でも、歩いてきていいかな」
「それでしたら、私たちも……」
「いや……ひとりに、なりたい」
顔を上げ、そう語るシュベルトの目から、迷いは消えていた。どうやら、自棄になっているわけでないようだ。
本当なら、シュベルトをひとりで行動させるのはお勧めしないが……学園の中だ。心配するようなことは、起こらないだろう。
「わかった、こっちでもなにか、いい案を考えておくから」
「……あぁ、頼む」
そう笑みを浮かべるシュベルトの顔は、いつも通りの、笑顔だった。
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