復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

文字の大きさ
167 / 307
第7章 人魔戦争

その足掛かりとして

しおりを挟む


「せ、世界、征服?」


 突然現れた、謎の魔族……このゲルド王国への宣戦布告を宣言し、その先の目的を口にした。

 それが、世界征服であると……堂々と。


「……ますます、なにを言っているか……わかっているのですか」

「えぇ、もちろん」


 宣戦布告に続いて、世界征服……それは、なんと規模の大きすぎる内容だろうか。

 しかし、それを語る当の本人は、その言葉に嘘偽りがないことを示している。その態度は、どこか自信に満ち溢れていた。


「この国は現在、王の不在により困惑を極めている。内紛状態……とはいきませんが、それに近しいところにはある。崩すには容易い」

「……」

「王の不在にも関わらず、諸外国からの侵略を受けていないのは国内の混乱をうまく隠しているからか、そもそも侵略行為を起こす国がいないほど国同士の親交が良好だったか」


 いずれにせよ、これが好機だ……そう、目の前の魔族は告げる。

 正直、なにもかもが突拍子もなさすぎて、あんまり頭がついてかない。……だが、わかっていることが、ひとつある。

 ……こいつは、嘘など、言っていない。本気で、この国に宣戦布告をし……世界を、取るつもりなのだ。


「王の、不在って……どこで、そんな情報を」

「確かに、うまく隠してはいます。ただ……真実は、隠し通せるものではない。それだけです」


 この魔族が、このタイミングで現れたこと……やはり偶然では、ないのだろう。王……国王が死んだ事実は、国内のみの発表に抑えている。

 だがこの魔族は、どこからか国王が死んだという情報を得て……こうして、混乱の最中にあるこの国に、来たのだ。


「世界征服……なんのために、ですか」


 アンジーは、警戒した様子ながら問いかける。おそらく、できるだけ情報を引き出すつもりなのだ。それと同時に、時間稼ぎの目的もある。

 すでに、周囲の人たちの中に、異常に気づいている者もいる。なにせ、シルエットだけは人間の姿だが、その実人間とは言い難い姿をした謎の人物が、いるのだ。

 骸骨の顔と、鎧のような体。その異様な出で立ちに、誰かが人を呼んでくれることを狙っている。

 この場で、俺とアンジーで押さえ込んでもいいが……相手の実力がわからない以上、早計に動くのは危険だ。返り討ちに、あわないとも限らない。


「なんのため……そうですねぇ。言うなれば……世界をあるべき姿に戻す、でしょうか」

「あるべき、姿?」

「えぇ。そもそも、この世界にはあなた方人間の存在はなかった。いつからか人間が増え、我々のような種族は消え入ってしまった。それが、間違いなのです」


 ……この世界に、元々人間族はいなかった。セイメイも、確かそんなことを言っていた。

 この世界には、竜族、魔族、鬼族、のちのエルフ族である命族。その4種族を始まりとして、いつしか人間族が現れたと。

 世界を、あるべき姿に戻す……つまり、人間を、滅ぼすっていうのか?


「安心してください、あなたが考えているような、物騒なことをするつもりはありません」

「!」


 こいつ……俺の心を、読んだみたいに。


「今や、この世界は人間ありきで成り立っているのも事実。我々が世界を統一した暁には、人間は我々の手足となり労働に生かすつもりです」

「! なんだと……」

「世界を統一する……この国には、その足がかりとなってもらいます」


 ……こいつは、本気だ。だから、今言った言葉にも、嘘がないことがわかる。

 人間を、滅ぼすつもりではない。だが、こいつの言ったとおりになったら、それは生かされているだけと、なんら変わりはない。

 やっぱり、ここでなんとかしてこいつを拘束する必要がある。誰か、早く駆けつけてくれ……

 ……ここは、もう少し時間稼ぎをするか。


「言うじゃねぇか。けど、そんなこと、できるはずもないだろ。お前に、そんな力があるとでも?」


 なんせこの国には、それなりに実力者が揃っている。認めたくはないが、勇者となったガラドを筆頭に……兵士、学園の教師たち、他にも実力者が揃っている。

 こいつは不気味だが、たった一人で、なにをどうできるとも、思えない。


「ふむ、なるほど。どうやら我々が、相応の実力を持っていることを、示せとそうおっしゃいたいのですね?」

「いや、別にそこまでは……」

「なら……」


 魔族は、なにかを考える仕草を見せる。あごに手を当て、小さくうなずき……

 その手を前へと差し出し、指を、二本立てた。


「おい、なんの真似を……」

「2分です」

「は?」

「2分で、この国を制圧して見せましょう」


 ゾワッ……


「!? ……っは」


 なん、だ……いきなり、空気が重くなった。胸の奥に、なにかがズシンと、乗っかっているような……いきなり水の中に、放り込まれたような。動けないわけではないが、そんな妙な重圧がある。

 2分で、この国を制圧? なにを言っているんだこいつは……そんなことで、実力を示そうっていうのか?


「お、前、なにを……」

「いえ、なんということはありません。いわゆる結界です……我々にとっての脅威は、エルフ族の魔の力。しかしこの結界は、魔力を封じます」


 魔族は、淡々と話す。魔力を、封じる、結界だと? それを、この瞬間に発動した……つまり、あらかじめ結界を備えていた、ってことか?

 魔力を封じると言った。元々、体内に魔力を持っているのは、エルフ族と魔族だけって話だ。


「我々……? それに、魔力を、封じるなら……お前ら、だって……」

「我々単語ルビ(まぞく)に影響のある結界を、我々単語ルビ(まぞく)がわざわざ作るとでも? 魔力に干渉するのは、エルフ族のみですよ。……これは魔力の大きな者ほど、体にかかる負荷も大きい」

「エルフ族、のみ……だと?」

「えぇ。ほら、ちょうどそこのエルフのように」


 ドサッ……


 男が指さすのは、俺の隣……そこには、アンジーが苦しそうに胸を押さえ、膝をついている姿があった。

 彼女は苦しげに、呼吸を繰り返している。


「アンジー!? はぁっ……!?」

「はぁ、はぁ……ヤーク、様……逃げ……」

「ふむ……やはりあなたにも、影響は多少あるようですね。やはり……"転生"されておられる影響も、少なからずあるようだ」


 っ……そうか、なんで俺も、こんな苦しいのかと思ったが……俺は、転生魔術の影響を受けている。つまり、この体には魔力の痕跡が残っているってことだ。

 それに干渉して、結界が効いてしまった、と……


「では、始めましょうか……見ていてください。我々の、力というものを」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

処理中です...