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第7章 人魔戦争
その足掛かりとして
しおりを挟む「せ、世界、征服?」
突然現れた、謎の魔族……このゲルド王国への宣戦布告を宣言し、その先の目的を口にした。
それが、世界征服であると……堂々と。
「……ますます、なにを言っているか……わかっているのですか」
「えぇ、もちろん」
宣戦布告に続いて、世界征服……それは、なんと規模の大きすぎる内容だろうか。
しかし、それを語る当の本人は、その言葉に嘘偽りがないことを示している。その態度は、どこか自信に満ち溢れていた。
「この国は現在、王の不在により困惑を極めている。内紛状態……とはいきませんが、それに近しいところにはある。崩すには容易い」
「……」
「王の不在にも関わらず、諸外国からの侵略を受けていないのは国内の混乱をうまく隠しているからか、そもそも侵略行為を起こす国がいないほど国同士の親交が良好だったか」
いずれにせよ、これが好機だ……そう、目の前の魔族は告げる。
正直、なにもかもが突拍子もなさすぎて、あんまり頭がついてかない。……だが、わかっていることが、ひとつある。
……こいつは、嘘など、言っていない。本気で、この国に宣戦布告をし……世界を、取るつもりなのだ。
「王の、不在って……どこで、そんな情報を」
「確かに、うまく隠してはいます。ただ……真実は、隠し通せるものではない。それだけです」
この魔族が、このタイミングで現れたこと……やはり偶然では、ないのだろう。王……国王が死んだ事実は、国内のみの発表に抑えている。
だがこの魔族は、どこからか国王が死んだという情報を得て……こうして、混乱の最中にあるこの国に、来たのだ。
「世界征服……なんのために、ですか」
アンジーは、警戒した様子ながら問いかける。おそらく、できるだけ情報を引き出すつもりなのだ。それと同時に、時間稼ぎの目的もある。
すでに、周囲の人たちの中に、異常に気づいている者もいる。なにせ、シルエットだけは人間の姿だが、その実人間とは言い難い姿をした謎の人物が、いるのだ。
骸骨の顔と、鎧のような体。その異様な出で立ちに、誰かが人を呼んでくれることを狙っている。
この場で、俺とアンジーで押さえ込んでもいいが……相手の実力がわからない以上、早計に動くのは危険だ。返り討ちに、あわないとも限らない。
「なんのため……そうですねぇ。言うなれば……世界をあるべき姿に戻す、でしょうか」
「あるべき、姿?」
「えぇ。そもそも、この世界にはあなた方人間の存在はなかった。いつからか人間が増え、我々のような種族は消え入ってしまった。それが、間違いなのです」
……この世界に、元々人間族はいなかった。セイメイも、確かそんなことを言っていた。
この世界には、竜族、魔族、鬼族、後のエルフ族である命族。その4種族を始まりとして、いつしか人間族が現れたと。
世界を、あるべき姿に戻す……つまり、人間を、滅ぼすっていうのか?
「安心してください、あなたが考えているような、物騒なことをするつもりはありません」
「!」
こいつ……俺の心を、読んだみたいに。
「今や、この世界は人間ありきで成り立っているのも事実。我々が世界を統一した暁には、人間は我々の手足となり労働に生かすつもりです」
「! なんだと……」
「世界を統一する……この国には、その足がかりとなってもらいます」
……こいつは、本気だ。だから、今言った言葉にも、嘘がないことがわかる。
人間を、滅ぼすつもりではない。だが、こいつの言ったとおりになったら、それは生かされているだけと、なんら変わりはない。
やっぱり、ここでなんとかしてこいつを拘束する必要がある。誰か、早く駆けつけてくれ……
……ここは、もう少し時間稼ぎをするか。
「言うじゃねぇか。けど、そんなこと、できるはずもないだろ。お前に、そんな力があるとでも?」
なんせこの国には、それなりに実力者が揃っている。認めたくはないが、勇者となったガラドを筆頭に……兵士、学園の教師たち、他にも実力者が揃っている。
こいつは不気味だが、たった一人で、なにをどうできるとも、思えない。
「ふむ、なるほど。どうやら我々が、相応の実力を持っていることを、示せとそうおっしゃいたいのですね?」
「いや、別にそこまでは……」
「なら……」
魔族は、なにかを考える仕草を見せる。あごに手を当て、小さくうなずき……
その手を前へと差し出し、指を、二本立てた。
「おい、なんの真似を……」
「2分です」
「は?」
「2分で、この国を制圧して見せましょう」
ゾワッ……
「!? ……っは」
なん、だ……いきなり、空気が重くなった。胸の奥に、なにかがズシンと、乗っかっているような……いきなり水の中に、放り込まれたような。動けないわけではないが、そんな妙な重圧がある。
2分で、この国を制圧? なにを言っているんだこいつは……そんなことで、実力を示そうっていうのか?
「お、前、なにを……」
「いえ、なんということはありません。いわゆる結界です……我々にとっての脅威は、エルフ族の魔の力。しかしこの結界は、魔力を封じます」
魔族は、淡々と話す。魔力を、封じる、結界だと? それを、この瞬間に発動した……つまり、あらかじめ結界を備えていた、ってことか?
魔力を封じると言った。元々、体内に魔力を持っているのは、エルフ族と魔族だけって話だ。
「我々……? それに、魔力を、封じるなら……お前ら、だって……」
「我々単語(まぞく)に影響のある結界を、我々単語(まぞく)がわざわざ作るとでも? 魔力に干渉するのは、エルフ族のみですよ。……これは魔力の大きな者ほど、体にかかる負荷も大きい」
「エルフ族、のみ……だと?」
「えぇ。ほら、ちょうどそこのエルフのように」
ドサッ……
男が指さすのは、俺の隣……そこには、アンジーが苦しそうに胸を押さえ、膝をついている姿があった。
彼女は苦しげに、呼吸を繰り返している。
「アンジー!? はぁっ……!?」
「はぁ、はぁ……ヤーク、様……逃げ……」
「ふむ……やはりあなたにも、影響は多少あるようですね。やはり……"転生"されておられる影響も、少なからずあるようだ」
っ……そうか、なんで俺も、こんな苦しいのかと思ったが……俺は、転生魔術の影響を受けている。つまり、この体には魔力の痕跡が残っているってことだ。
それに干渉して、結界が効いてしまった、と……
「では、始めましょうか……見ていてください。我々の、力というものを」
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