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第7章 人魔戦争
竜族の力
しおりを挟む竜族のクルドが助けに現れてくれて、頼もしさがすごい。実際、クルドに何度も鍛錬に付き合ってもらった身としては……クルドは、かなりの強さを秘めている。
俺が、今よりも子供だったことを除いても。クルドの実力は、今の俺なんかじゃやっぱり太刀打ちできないほどの位置にある。
もしかしたら、セイメイに匹敵する力の、持ち主かもしれない。
「行くぞ、ヤーク!」
「おう!」
そんなクルドが一緒にいてくれれば、絶望的だったこの状況にも希望が湧いてくる。
対するノアリは、こちらを観察するようにじっと睨みつけていたが……俺たちが構えたのを見て、腰を低くする。あの姿勢は、一気に突っ込んでくるつもりだな。
クルドが言うには、このままの状態だとノアリは、竜族の血に呑まれてしまう。今の状態でも、かなり危険に見える……これ以上状況が悪化する前に、早く……
「グァアアア!」
「ぬっ……!」
大気を震わせるほどの咆哮。直後、予想通りにノアリはそこからこちらに、突っ込んでくる。
狙いは俺……ではなく、クルドだ。
ドォ……ン……!
まるで近くでも爆撃でも起こったんじゃないかと思えるほどに、凄まじい音が響く。そこには、衝突するノアリとクルド……
ノアリが拳を打ち込み、それをクルドが手のひらで受け止めている形だ。たったそれだけの衝撃で、地面がひび割れ、二人の立つ場所にはクレーターが出来ていた。
「グ、ルルルァ……!」
「っ……これは、なかなか……」
「クルド!」
二人の力は互角……かと思いきや、クルドが若干押されている。地面に踏み込み、その場に留まろうとしているが……
地面を抉り、後方へと下がっている。
「心配するなヤーク。だが……すまんな」
「え……?」
心配するなと、力強い言葉をくれるクルド。しかし、直後に謝られた……どういう、意味だ?
その言葉の意味は、すぐにわかることになる。
「手を抜いていては、こちらがやられてしまう……!」
「!」
その瞬間、クルドの雰囲気が変わる。ノアリを見る目が変わり、歯を食いしばり、逆に力を込め返す。
すると……ノアリの体が、ゆっくりと後退し始めた。
「グゥ……?」
ノアリの拳を受け止め、押し返す……言うだけならば簡単だが、やるのはかなり難しい。それも、クルドの力が純粋に、今のノアリの力を上回っているからこそだ。
そのまま、ノアリの体を押し返し……ノアリよりも一回り大きな手のひらで、拳を掴む。
「ぬっ……お、おぉおおおお!」
「!?」
そしてクルドは、ノアリの拳を掴んだまま、ノアリの体を持ち上げた。
いくら体格に大きな差があるとはいえ、人一人の体を持ち上げるなんて……なんて、凄まじい力だ。それも、片腕だけで。
「ウゥ、グァウ!」
「っ!」
しかしノアリも、無抵抗では終わらない。体を持ち上げられた状態で、クルドの指に噛み付いたのだ。
ただの人間の噛みつきならば、そうダメージになることもないだろう。だが、今のノアリは竜族の血が覚醒している……あの鋭い牙は、人間族のそれではない。
「ぬぅ……ぜぇえええや!」
クルドは若干痛そうな表情を浮かべるが……手を離すことはなく、ノアリの体をぶん回し……地面へと、叩きつけた。
背中から無防備に地面に打ち付けられる……見ていても、痛いとわかる攻撃だ。
「クルドっ、やりすぎじゃ……」
「いや……こんなもの、ダメージにすらならんだろう」
「そ、そうなの?」
結構派手目に体を打ち付けたように見えたが……ダメージはないと、クルドは言う。さらに、ノアリに視線を向け……俺も、視線を辿る。
そこには、何事もなかったかのように立ち上がるノアリの姿があった。
「ま、マジかよ……」
「異常なまでの硬さ……それが、竜族の特徴でもある。地面に打ち付けた程度では、大した効き目はないだろう」
「異常なまでの、硬さ……」
クルドの言葉に、俺は思い当たる節があった。それは、セイメイと戦った時のこと……
あの時、ノアリはセイメイの強烈な攻撃を受けたにも関わらず、何事もないように動けていた。同じく攻撃を受けたミライヤは、動けなかったというのに。
つまり、今のノアリにダメージを与えるには、あれ以上の攻撃を与えなければならないと、いうことか。
「まあ、そう悲観するな」
「クルド……?」
「ガァアアア!」
立ち上がるノアリが、再びクルドに突撃する。もはや俺のことは、眼中にもないのだろうか。
それをクルドは、ノアリの頭をわしづかみ受け止める。
「ウッ、ウゥ……!?」
「お、おいクルド? それ、大丈夫なの? 大丈夫なんだよな?」
ノアリはうめき声を上げ、クルドはノアリの体ごと持ち上げた。このまま、頭を握り潰してしまわないか心配だ。
ノアリは手足を振り回し、暴れるが……クルドは、打撃が当たっても平然としている。
「ただ獣のように暴れるだけか……こちらとしては、好都合だ。下手に抵抗の手段を覚えられるよりはな」
「暴れるだけって……それでも、俺は結構苦戦したんだけど」
「はは、それは仕方ない。さて……ノアリは元に戻す、後遺症も残させん……だが、少し痛い目を、見てもらう」
ノアリの体を持ち上げ、ちょうどクルドの目の前には、ノアリの腹部が来る形になる。
そして、クルドは拳を握り締め、腰を落とす……って、まさか……!
「だ、大丈夫なんだよな? それ大丈夫なんだよな!?」
「あぁ、ヤーク、俺を信じろ」
「ぬ……」
信じろ、と言われては、それ以上なにも言えない。そもそも、クルドが来なければなぶり殺しにされていたのは俺だ。
今はクルドを信じて、託すしかない……!
「ガァア、アゥウウ!」
「すう……ふぅ。……覇!!」
深呼吸をしたクルドは、暴れるノアリを意にも介さず……気合いの入った声を上げると同時、ノアリの腹部に拳を打ちこんだ。
その瞬間……ドォン……と、まるで近くで大砲でも撃ったんじゃないかというほどの音が、大きく轟いた。
「! こ、これが竜族の……?」
「ッ、ガ、ァ……!」
クルドの拳はノアリの腹部にめり込み……さらに、その衝撃波が、ノアリの背後にあった建物にぶち当たる。拳の、余波で……壁に、ひびが入った?
ただのパンチが、これほどの威力を持つのか……これが、竜族……!
「って、ノアリ!?」
こんな一撃を受けたら、人間なら粉々になってしまうだろう。いくらノアリが人間族とは体の構造が変わってきているとはいえ、そんなものを受けたら……!
心配する俺をよそに、クルドはノアリを地面に寝かせる。駆け寄ると、そうやらノアリは気を失っているようだ。
「い、生きてる……」
「言ったろう、後遺症も残させん……だが、少し痛い目を、見てもらう、と」
「少し……?」
確かにあれだけの衝撃を受ければ、元には戻るかもしれないが……ノアリ、泡まで吹いて気絶してる。本当に後遺症とかないのか?
とはいえ、クルドがそんな嘘をつく必要もない、か……
「クルド……ありがとう」
「はは、なぁに気にするな。それに、礼を言うにもまだ早いだろう」
「……あぁ」
ノアリが元に戻っても、ちゃんと起きても……問題は、なにひとつ解決していない。
魔族の、問題はまだ、なにひとつ……
「おぉい! 今すごい音が聞こえたが、どうした! 敵襲か!」
「……はは」
学園の中に、気絶していない人を捜しに入っていたガラド……今の音に驚いて、戻ってきたようだ。
とにもかくにも……これで、ひとまずは一段落、つけるな。
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