復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第7章 人魔戦争

見るに堪えない

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「あ、ヤーク様!」

「ミライ……おっとと」


 学園内に入り、食堂に着くと、俺たちを見つけて駆け寄ってくる影がひとつ。それは、ミライヤのものだ。

 無事だったことに安堵していると……ミライヤは俺の前で止まることなく、そのまま抱き着いてくる。

 油断していたため、後ろに倒れそうなのを、なんとか踏ん張る。おぉ、そんなぎゅっと抱き着かれたらいろいろ当たっちゃう……


「ちょ、ミライヤ……」

「ぐすっ……よかった、です……っ」

「……」


 恥ずかしいので離れてもらおうとしたが……俺の胸に顔を埋め、泣く彼女を見てはなにも言えなくなってしまう。そうだよな、不安だったよな……

 とりあえずは、ミライヤが落ち着くまでは、こうしておこう。


「皆さん、お待たせしました」

「ふん……」


 改めて食堂を見渡せば、一箇所に多くの人々が集まっている。気を失っていない人たち……か。もちろん国中すべて、とはいかないがある程度の人間が、ここに集められているんだ。

 ガラドは、ほとんどの人たちが気絶していたと言っていた。そして、ここにいるのは気を失っていない人たち……

 別の場所に、気絶した人間がこれ以上いる、ってことか。


「まったく、いったいどうなっとるんだ」

「そうよそうよ」


 さて……ほとんどは怯えた様子だが、当然そんなお行儀のいい人たちばかりではない。

 現状に不満を持つ人はいる。


「おい、いったいなにが起きているんだ!」

「それはまだ、なんとも……」

「あいつらあれだろ、魔族ってやつだろ! 魔族はあんたが倒したんじゃないのか!」

「えぇ、それは……」

「勇者ならなんとかしろ!」

「そうよそうよ!」


 ……やれやれ、父上も大変なことだ。不満ばかりを漏らす連中の、相手をしなければならないのだから。

 たいていこういう場面では、人の不満というのは爆発する……そして、それをぶつけるべき相手がいれば、攻撃相手を見つけたとばかりに不満をぶつける。

 しかも、ガラド・フォン・ライオス……実際にかつて魔王を討ったはずの勇者が、ここにはいる。勇者ならば人々が困っていたら助けるのは当然だと、好き勝手言いまくる。

 その上、魔王を倒し滅んだはずの魔族が復活しているのだ。お前の不手際だ、なんとかしろと、声高々に叫ぶわけだ。


「ま、俺には関係ないか……」


 ガラドが人々からどう思われ言われようと、俺には関係ない。これが本当の親なら、なにか思ったかもしれないが……いや、ヤークワードの親であるのは、間違いないんだが。

 どうなってもいいと思っているから、俺は口を挟まない。

 不満は不満を呼び、やがて黙っていた連中も声を上げる。大人も子供も、相手が『勇者』であろうと関係なしだ。


「ひ、ひどい……ガラド様を責めても、なんにもならないのに……」

「……」


 先ほどまで俺の胸で泣いていたミライヤが、人々に、ガラドに、悲しげな視線を向けている。

 こんなときに、他人の心配が出来るのかこの子は……ミライヤの爪の垢を、あいつらに煎じて飲ませてやりたいな。


「ヤーク様……」

「う……」


 そんなミライヤが、俺を見上げてくる。語らずともわかる……どうにかしてくださいませんか、だ。泣いたばかりのせいか、目は潤んでいる。

 別に俺はこのまま、ガラドが悪者にされようが、どうでもいいんだが……そんな表情をされると……


「はぁ、しかたな……」

「ヤーク、彼女を頼む」

「へ?」


 ガラドは知ったこっちゃないが、ミライヤの頼みは断れない。そう思って、一歩前に出ようとした時……隣から、声をかけられた。

 彼女……ノアリを渡され、彼は前へ出る。その頼もしい背中が、一歩一歩と歩みを進めていく。


「魔族が現れた理由については、私にもわかりません。ですが、皆様に危害が加わらないように、精いっぱい……」

「どうせ奴らの狙いはあんただろう!? 私たちは巻き込まれ損だ!」

「そうよそうよ!」

「精いっぱい頑張るなら、さっさと魔族を殺してこい! そもそも、あんたが魔族を滅ぼしていればこんなことには……」

「やかましいぞ、貴様ら!!!」


 ! ……その場に、怒号が轟いた。

 人々の声であふれかえっていた食堂内は、すぐに静かになった。それほどに、今の声は……人々を強制的に黙らせる、力があった。


「く、クルドさん……?」

「な、なんだ貴様は!」


 困惑するガラドと人々。その視線を一身に受け、それでもクルドは堂々と立っていた。


「さっきから聞いていれば、不幸は全部他人のせい……か。まったく見ているに堪えんな」

「なっ……なんだその言い方は! 私を誰だと思っている! 上級貴族であるアルバンナ家の……」

「知ったことではない」


 ただでさえ、クルドはでかい。その上、この威圧感だ……俺も、初めて会った時は殺されるかと、思ったものだ。

 クルドの人となり、いや竜となりを知ってからは、それは大きな間違いだとわかったが。


「なん……」

「済んだことをいつまでもぐちぐちと、玉の小さい男だ。不幸を他人のせいにすれば現状が変わるのか? ならば貴様らで勝手にやっていろ」

「な、なんだ貴様いきなり出てきて! 私は間違ったことなど言っていない!」

「ガラド殿が魔族を滅ぼさなかったから……か?」

「そうだ!」


 ……あのおっさんすげえな。この状況で、クルドに噛みつくなんて。俺だったら小便漏らして気絶する自信があるぞ。


「それは違うな。魔族は確かに消滅していた。魔王を討ったことで、奴らは完全に消滅していたんだ」

「な、ならなんでそいつらが今になって、現れるんだ!」

「さあな」

「第一、なぜそれが貴様にわかる!」


 クルドの言葉は、どこか真を突いている。自信満々に話しているからだろうか。いや、確信があるんだ。

 クルドは、魔族の気配がわかる。だから……


「なぜ、か……それは俺が……」


 なぜそれがわかるか……そうう問われ、クルドはその場で力を込める。おいおい、クルドの奴、まさか……

 大気が、振動しているような感覚。クルドの体に、異変が起こる……その背中からは翼が、腰からは尻尾が生える。

 以前、クルドは人間の姿をしていたが尻尾はそのままだった。この10年の間に、尻尾も隠せるようになっていたんだ。

 人の姿……且つ、翼と尻尾の生えた姿へと、変化した。まさに、先ほどのノアリのようだ。


「俺が、魔族の気配がわかる……竜族だからだ」


 目の前に、竜族が現れる……それも、すでにこの世にはいないというのが人々の常識だ。その常識が、今壊れ……

 数秒後……人々の間からは、悲鳴が上がった。
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