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第7章 人魔戦争
好転する状況
しおりを挟む「では、我はそろそろ行く」
「……そっか」
魔族がいなくなっても、考えることは多い。だがこの先は、俺が、俺たちが考えることだ。
すでにやることはやった、伝えることは伝えた……そういうように、クルドは背を向けた。
「いいのか、ノアリやミライヤになにも言わなくても」
「本当なら誰にもなに言わずに、姿を消すつもりだったんだ。その必要はない」
「そうか……」
もう少しここにいてくれても、とは思う。だがクルドにはクルドの、竜族の都合というものがあるだろう。頼ってばかりも、いられない。
引き止めることは出来ない。だから……
「ありがとう、クルド。それに……また会えて、嬉しかったよ」
「あぁ、我もだ」
「またな」
「あぁ、また」
短い別れを済ませ……クルドは背から翼を広げ、屋上から空へと飛び立っていく。幼い頃に見た背中は、やっぱり今も大きくて。
あっという間に、その姿は見えなくなる。竜族の街へと、帰ったのだ……もしも今回の件で、周囲からなにか言われることがあるとしたら、悪いことをしたなとは思う。
クルドの気遣いを、無駄にはできない。最後に、もはやクルドの見えなくなった空に一礼をして……俺は、校内へと戻っていく。
「…………」
さて、部屋にはミライヤを残してきてしまった。一応ガラドもいるし、リーダ様はミライヤの活躍を知っているから、平民だからって邪見に扱われることはないとは思うが……
あまり、放ってばかりもいられないな。戻ろう。
「きゃっ……って、あれ、ヤーク?」
「お……」
廊下を歩き、曲がり角を曲がる……そこで、誰かとぶつかりそうになる。咄嗟に、その場に立ち止まる。
そこにいたのは、ノアリだった。
「ノア……ぐぇ!」
「ヤーク! あんた、無事だったの!?」
突然、ノアリに襟元を掴まれ……いや、持ち上げられる。俺より小柄なノアリに、しかし俺の体は持ち上げられる。
し、締め殺される……!?
「よかった、無事で……や、別に、そこまで心配していたって、わけじゃあ……」
「ぅ、え……」
「あ……ごめん」
持ち上げられていた状態から落とされ、派手に尻を打つ。何度か咳き込んでしまう。
「えっと……大丈夫?」
「さっきまではな! けほ!」
もうだめかと思った……まさか、同じ人間に2日連続で殺されそうになるとは思わなかった。
俺はなんとか呼吸を整えつつ、立ち上がる。
「ご、ごめんなさい……」
「いいよ、もう……それより、あんな急いでどうしたんだ?」
「あ、そうだった! 眠っていた人たちが、目を覚ましたのよ!」
……ノアリも、目的地は一緒だ。俺とノアリは並んで移動する。その最中に、互いの状況を交換する。
どうやらノアリは、未だ眠ったままだった人たちを見て回っていたらしい。他の人たちに任せておけばとも思ったが、まあノアリらしいというか。
「ヤークの方も、いろいろあったみたいね」
「……まあな」
簡潔に、話す。魔族を倒したこと、それにより影魔族が消滅したこと……そして、先ほどクルドが去ったこと。
クルドが去ったことを知ると、ノアリは視線を伏せた。
「そっか……もっと、ちゃんとお礼言いたかったんだけどな」
「ま、クルドはお礼なんていらないとは思うけどな」
『呪病』の件、今回竜族の血が暴走した件……ノアリにとって、クルドに思うところは多いはずだ。
そうして話しているうちに、俺たちは元いた部屋へと戻る。
「みんな、眠っていた人たちが目を覚ましたわよ!」
扉を開けるや、大声で伝えるノアリ。それに一瞬呆気にとられるが、次の瞬間には歓声が上がった。
結界がなくなり、眠っていた人たちが目覚め始めた……それは、吉報だ。魔族により沈んでいた気持ちが、一気に高ぶっていく。
「それは本当ですか、ノアリさん」
「嘘ついてどうするってのよ!」
「……そうですか、それはよかった」
「ヤーク様、ノアリ様!」
駆け寄ってきたミライヤを、ノアリは抱きしめる。あはり不安にさせてしまっていたか。
……少し前までのミライヤなら、絶対にひとりにはさせられなかった。男が苦手になってしまっていた、少し前までは。
「悪いなミライヤ、不安にさせた」
「ヤークざまぁ……」
「泣くなよ……」
とにかく、状況は好転している。みんな、部屋の外へ出ていき、それぞれ身内の、友達の、大切な人たちの所へと向かっていく。
俺も、眠り続けていた家族の所へ……
「キャーシュ、母上!」
「……ん、に、兄様? わっ」
目覚めたばかりのキャーシュ、我が愛しの弟を、思い切り抱きしめる。
あぁ、なんかすげえ久しぶりな気分。
「に、兄様、くるし……」
「はは、本当にヤークは、キャーシュが大好きだな」
そりゃあ、転生して幼馴染が親になってしまった俺にとって、キャーシュは唯一俺が気を許せる血の繋がった家族だからな。
母上……ミーロのことも心配ではあったが。かつて想いを寄せていた幼馴染も、キャーシュには全然敵わない。
「……みんな、盛り上がっているみたいだな」
キャーシュを抱きしめたまま、俺は周囲を見回す。ノアリは両親と、ミライヤはリィと……それぞれ、大切な人との再会を喜んでいる。
……いいな、こういうの。みんなが笑っている、この空間。
もちろん、ここに至るまでの経緯は絶望のようなものであったが……
「これも、ヤークが頑張ったおかげだな」
「……そんなことは、ないですよ」
ここにはいない、クルドが手伝ってくれたから。俺ひとりじゃ、どうにもならなかったもんな。
居てくれたら力強かったが……居ればやっぱり、頼ってしまっていただろう。ここからは、俺たちで、国を立て直していかないとな。
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