復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第8章 奪還の戦い

深刻な事態

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 周囲に、広がっていく……

 真実を確かめる術のない情報は、その情報だけが頼りだ。他に、詳細を知る方法などない。

 だから人々は、もたらされる情報が真実だと認識し、それが広がっていく。こんな状況でもたらされた情報ならば、なおさらだ。

 『勇者』の死、いや殺人。それを行ったのが、『勇者』の息子などと……国中が大変なこの時期に、そんな間違った情報を流すはずがない。

 ゆえに、この情報は真実だ。しかし……


「……なんだか、おかしくないかしら」

「ノアリ様?」


 この情報を受け、ノアリは……腕を組み、考える。

 この情報は、おそらく真実。どこからどこまで、はともかくとして、実際に起きた出来事なのは、間違いないだろう。

 つまり、『勇者』ガラド・フォン・ライオスは死に……それが事故にしろ事件にしろ、犯人が息子のヤークワード・フォン・ライオスとされている。


「多分、この放送の内容は、正しいんだと思う」

「え……じゃあ、ノアリ様も、や、ヤーク様がお父上を……」

「……その真偽は、わからない。でも、誰かが"そういうこと"にしようとしているんじゃないか……そう思うの」

「そういう、こと……? それって、ヤーク様を犯人に、仕立て上げようと?」


 もちろん、これはノアリの予想だ。ヤークワードが無罪だと考えたいがための。

 ヤークワードはそういうことをする人間ではない……そういった、個人的な感情は、置いておいて。


「だって、よく考えたら変よ。国が大変で、みんな自分のことで手いっぱい……ううん、自分のことすら、やっと支えられる状態。そんな中で、こんな情報を流す?」

「……えっと……それは、『勇者』様が殺されたともなれば、なにを置いても発表するのでは?」

「普通なら、ね。でも、この状況も、『勇者』殺害も、どっちも国の一大事。今国の一大事なら、それに輪をかけてみんなを不安にするような情報を、流すべきじゃない」


 自分のことさえも、いっぱいいっぱいの現在。だというのに、そこに『勇者』殺害という、国を揺るがす情報を流す……しかも、こんな真実を確かめようもない方法で。

 今はできるだけ、人々の安寧を願うべきだ。魔族に襲われ、殺されそうになり、国は崩壊しかけた。

 人々に心のゆとりを持たせ、国の復興を急ぐ。それが最善であるはず。


「あんまり、こういう言い方はしたくないけど……少なくとも、みんなの心が落ち着きを取り戻すまでは、『勇者』殺害の件は包み隠すべきだと思う」

「つ、包み隠す、ですか?」

「『勇者』なら、忙しい用事に追われている、とかごまかせば、姿を消しても不審に思われないわ。今回の功労者である、ヤークもね。で、事が落ち着いた後、事件を発表すればいい」


 ノアリの言葉は冷たいが、それはある意味の真実だ。

 貴族で、しかもそれなりの地位にいるカタピル家なら、たとえノアリのような子供でも貴族社会の闇は、耳に入ってくる。

 不都合な真実は、裏でもみ消したり、そういうのはしょっちゅうだ。

 だから、今回の件も……まあ『勇者』殺害という件はさすがに包み隠せないが……せめて、国民の安寧を待って、発表すべきだと思ったのだ。


「……でも、包み隠すことは、しなかった」

「私が考えられる理由は、2つ。
 ひとつ目は、目撃者が結構いて、包み隠すこと自体ができなくなってしまった。目撃者に情報を流されるくらいなら、先に流しちゃおうってことね」

「じゃあ……」


 身を乗り出すミライヤに、首を振り……ノアリは、一本上げていた指先とは別にもう一本、指を上げる。


「2つ目。何者かが、ヤークを『勇者』殺しの犯人に、仕立て上げようとしている」

「え……」


 ノアリの言葉に、ミライヤは絶句する。


「変な話よね。ひとつ目の考えを推すなら、この情報を流す不自然さは納得できるけど、同時にヤークが犯人だと認めざるを得ない。なんせ目撃者がいるんだから。
 2つ目の考えを推すなら、ヤークは犯人じゃない。でも……」

「……誰かが、悪意を持ってヤーク様を、陥れようとしている?」

「それも、『勇者』を殺してまで、ね。
 ヤークを犯人に仕立て上げるため、まずはみんなにそう植え付けるため……この情報を流した。こんな、不自然な形でね。
 ヤークが犯人じゃないって信じるなら、2つ目の考えを推すべきだけど……深刻さも、ひとつ目とは段違い」


 ヤークワードを、何者かがはめようとしている……『勇者』であるガラドを、殺してまで。

 そう考えた場合、今回の一件の裏には、なにか巨大な陰謀が、渦巻いている可能性がある。

 こんな重要な情報を、一存で流せるほどの権力を持つ人物。そんな人物が、裏に潜んでいる。

 思っていたよりも、この一件は、深刻なのかもしれない。


「そんな……ど、どうすれば……」


 ミライヤにとって、事態があまりに大きすぎて、どう対応すればいいかわからない。いや、ミライヤだけではないだろう。

 周りの人たちもだし、なによりノアリ自身も、そうだ。


「みんながみんな、ヤークを疑ってはいないはず。まずは、ヤークの無実を信じている者で、話し合った方がいいわね」

「あ、ヤーク様の母上様……それに、弟君おとうとぎみ

「身内なら、今回の一件がおかしいと、わかっているはず」


 ミライヤは面識はないが、ヤークワードの母親……"癒しの巫女"と呼ばれている人物だ。かつて、『勇者』と共に世界を救った人物。

 それに、ヤークワードの弟。聞くところによると、ヤークワードは弟のキャーシュにべた惚れらしい。


「他にも、ヤークの人柄をよく知っている人」


 自分以外に、ヤークワードを深く理解している人物……ノアリは、考える。いや、考えるまでもない。

 メイドのアンジーだ。彼女は、フォン・ライオス家お付のメイド……ヤークワードや、ガラドについても深く、理解しているだろう。

 それに、剣の先生であるロイ。他にも、騎士学園の学友、リィ……シュベルトが亡くなって以来かかわりは減ったが、アンジェリーナ、リエナ。


「味方は、いるわ」


 きっとみんなも、今回の一件に不信を抱いているはずだ。

 まずは、みんなと合流することから始めよう。
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