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第8章 奪還の戦い
『勇者』殺し
しおりを挟む……その放送は、聞く者の心に少なからず動揺を与えるには、充分であった。
『先ほど、『勇者』ガラド・フォン・ライオスの息子ヤークワード・フォン・ライオスを、『勇者』ガラド・フォン・ライオス殺害の容疑で、逮捕した。
繰り返す、先ほど、『勇者』ガラド・フォン・ライオスの息子ヤークワード・フォン・ライオスを…………』
……それは、それほどまでに、聞き逃せない内容のものだった。
その名前は、いまや誰もが知っている。
「ヤークが……」
「たい、ほ……?」
放送を聞いた、国民全員に動揺が走る中、その中でもひときわ大きな感情を揺らすのは、この2人であった。
ノアリ・カタピル。そして、ミライヤ。ヤークワード・フォン・ライオスとは、共に学園で剣の腕を磨く、よき友だ。
そして、件(くだん)のヤークワード・フォン・ライオス……彼こそ、今放送で話していた通り、『勇者』ガラド・フォン・ライオスの息子である。
「ど……どう、いう……こと?」
「き、聞き間違い……ですよね? だって、ヤーク様が人を……それも、お父上を、殺すなんて……」
しかし……無情にも、放送は繰り返される。二人そろって、内容を聞き違えたなんてことはないだろう。
ヤークワードが、人を殺すはずがない……それは、ノアリも同意見だ。
彼は、そんな人間では……
「…………」
ふと、思い出すことがある。彼の、父親……ガラドに対する、感情だ。
ノアリは、時折感じていた。ヤークワードが、ガラドに対してよい感情を抱いていないことを。それも、あれは敵意に近い……
しかし、親子の問題だからと、口を出すことはなかったのだ。
「……まさか、ね」
嫌な想像を拭うように、ノアリは首を振る。
ヤークワード・フォン・ライオス……フォン・ライオスの名を持つ時点で、その名を聞けば知らぬ者はほとんどいないだろう。
さらに、今回の魔族との一件で、重大な活躍をしたのが、ヤークワード・フォン・ライオスという名前の少年だと、人々には伝えられた。
本人は、自分の名前を出されるのを断ったらしいが……
「の、ノアリ様……ど、どうすれば……!?」
「うぅ……」
ミライヤは、ヤークワードがガラドに抱いていた感情など、知らないだろう。
単純に……いや、ノアリが深読みしただけかもしれないが……親しい男の子が、父親を殺したかもしれない。その事実に、頭が混乱している。
ノアリだって、今すぐ叫んで真相を突き止めにいきたいが……
「……一旦落ち着きましょう、ミライヤ」
「ノアリ様……?」
「落ち着く……そう、落ち着くのよ」
ノアリは、深く深呼吸を繰り返す。そうすることで、頭に酸素を送り込み、血の上った頭を冷静にする。
こういうときこそ、落ち着かなければならない。焦っても、ろくなことにはならないのだ。
まずは、真実を、確認する。
「この放送は……どこからかしら。出処がわかれば……」
「あ……そこにヤーク様がいる!?」
「多分ね」
無論、それは賭けだ。放送をしている場所を特定したからといって、そこにヤークワードがいる可能性は……5分5分といっただろう。
だが、他に手がかりがない。こんな状況だ、仮にヤークワードを犯罪者として捕まえたとしても、捕まえておく場所が限られている。
「国中で、あちこちに人がいるわ。そこに、ヤークがいるとは考えにくい」
「なら、人があまりいない……今回、魔族による被害が少ない場所?」
父親殺し……また『勇者』殺しとして捕まえたヤークワードを、人々の目に晒させるとは考えにくい。
となると、人々があまりいない場所……そこに、ヤークワードは連れて行かれた可能性が高い。
しかし、そんな場所……
「んー……」
ノアリとて、生まれたときからこの国で暮らしている……だが、未だに国の全容は知らない。ミライヤは、以前は他の国で暮らしていたという。
知らない場所が、多い。事前に当たりをつけることは、難しい。
ならば、足を使うか。国中を回って、ヤークワードが捕らえられていると思わしき、人の少ない場所を……
「いつまでかかるってのよ……!」
考えただけでも、日を跨ぐ作業だ。今は、1分1秒が……こうやって考え込んでいる時間さえ、惜しいのだ。
なんにしても、人手が足りない。協力者がほしいが……ほとんどの人は、この放送を受けてなにを思うだろう。
『勇者』を殺した最悪の男
本当に『勇者』が殺されたのか?
父親殺しのろくでもない息子
国が大変なときに輪をかけた厄介者
魔族から救ってくれた人物がなぜ
なにがなんだかわからない
……いずれにしろ、この件に無関心なものはいない。
それだけ『勇者』の名は重い。子供なんかも、ガラド・フォン・ライオスという名前は知らなくても、『勇者』の称号はみな知っている。
それだけの、重大人物が殺された……その事実だけで、人々は……
「おいおい、これマジかよ?」
「嘘じゃないの? だってこんな……それも、『勇者』が……」
「けど嘘でこんな放送流さないだろ? それもこんな状況下で」
「本当だとしたら……『勇者』を殺したってこと? それも……奴がいるって、ことだよな」
「それも……息子、って、言ってたよな」
「それって……」
「とんでもない、クソ野郎じゃないか」
「……」
「ノアリ様、これって……」
「……まずい、わね」
これでは、協力者を探すどころの話では、ない。
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