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第7章 人魔戦争
幕間 残された者たち
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「ふぅ……」
魔族による、襲撃……それから、数日が経った。
国中を巻き込むほどの被害が出たとはいえ、人的被害はほとんどなかった。今や国中が、国の復興に動いている。
今はひとりでも多くの、人手が欲しい……ノアリも、積極的に復興に協力していた。額に流れる汗を、拭う。
「お疲れ、ノアリちゃん」
「女の子なのによく働くねぇ」
「これくらいどうってことないわよ」
男手が力仕事に動いている中で、ノアリもそちらに参加していた。
元々、料理作りとかそういいたことは苦手な彼女は、体を動かすことを選んだ。
その理由は、他にもある。
「よっ、と」
「おぉ」
自分より倍は大きい木材を、片手で持ち上げる。これは、日々の剣の修行によるもの……だけでは、ない。
竜族の血が覚醒し、身体能力が格段に向上した。その結果、大の大人でも持ち上げられないようなものを軽々と持ち上げることが出来るようになったのだ。
「相変わらず惚れ惚れするほどの力だなぁ」
「あっはは……」
ノアリは、自分に竜族の血が流れていることを、自ら明かしていない。なにか聞かれれば、隠さず応えるつもりではあるが……
学園でのノアリの、竜人としての姿を見た者もいるだろう。が、特になにも言われない。
今は、みんな国のことで手いっぱいなのだ。
「よい、しょ」
男でも数人がかりのものをひとりで運ぶなど、たとえできても他の女子はしたがらないだろう。なにせ、女の子らしい姿とは言えない。
だが、別にノアリはそんなこと、気にしない。女の子らしく、みんなから見られなくても……ただひとりから、そう見られていれば……
「っと。そういえば、ヤークはどこに行ったのかしら」
それぞれができることを、各地でやっている。なので、誰がどこにいるなんていちいち把握してはいないが……
どうしても、目で捜してしまう。
「ノアリ様ー!」
「! ミライヤ」
そんなノアリの下へ、見知った顔が駆けてくる。ミライヤだ。
彼女はノアリの正面に止まり、肩で息をする。
「ノアリ様、これどうぞ」
「これ……おにぎり?」
「ノアリ様、あんまり休んでないでしょう? なので……」
差し出されたおにぎりを目にするや、ノアリの腹からくぅ……と音が鳴る。
どうやら、腹が空いていたらしい……ノアリは赤面しつつ、おにぎりを受け取る。
「あ、はは、ありがとう。なんか、この体あんまりお腹空かないみたいで」
「今音鳴ってましたよね?」
「ぐ……やっぱり聞こえてたか」
「ふふ」
少し休憩を貰い、2人は木陰に移動して、座る。
ぱくりと、おにぎりを一口。うん、おいしい。
「はぁ……なんだか、久しぶりにゆっくりしている気がするわ」
「えぇ、そうですね」
考えてみれば……この半年、いろいろなことがあった。
エルフ族の始まりの王だというシン・セイメイと名乗るエルフ族と戦ったり、この国の第一王子が何者かに殺されたり……そして、魔族の襲撃だ。
シュベルト・フラ・ゲルドは友人とも言える距離感にいた……その死の悲しみが、半年で和らぐかといえば、そんなことはなかった。
そんな、国中がドタバタしている時に、今回の魔族襲撃だ……ようやく、一息入れられるといったところに。
「……これから、どうなっちゃうんですかね」
「ミライヤ?」
ふと、隣のミライヤが呟く。もう結界の張られていない、青い空を見上げて……誰に言うでもなく。
本当は、自分でも気づかずに言ったのではないかというほど、小さな声。しかし、ノアリには聞こえていた。
「……これからどうなるかなんて、誰もわからないわ」
「……」
「いろんなことがありすぎたもんね」
思い出されるのは、『魔導書』事件。その事件で、ミライヤは両親を殺された……それから、まだ1年と半年だ。傷も癒えていないはずだ。
だというのに、こうして国のためにと、身を削ってくれている。
……両親の件、友人の件、そしてミライヤ本人には関係なくとも、友人のエルフの故郷や仲間の件……短期間でこれだけのことが起きれば、不安になって当然だ。
「これからも、なにがあるかなんてわからない。不安で仕方ないかもしれない。私だって…………でも……大丈夫。ミライヤのことは、私が守るから」
「ノアリ様……」
「あ、あと一応ヤークもね!」
にひひ、とノアリは笑う。少しでも、ミライヤから不安を遠ざけるように。
とはいえ、言葉だけで言うのは簡単だ。行動でも示したいが……一番いいのは、もうなにも起こらないことが、そう、一番……
「っぷはぁ、ごちそうさま! おにぎりありがとうね、おいしかった! お茶も!」
「いえ、お気に召してくれたならよかったです!」
「しっかしおにぎりひとつでもここまでおいしくなるとか……さてはヤークの胃袋狙ってるな?」
「そ、そんなことは……」
「あははは……は……」
そこで、ノアリは気づく。自分は料理が苦手だが、ミライヤは得意だ。
それに、身体つきだって……自分は貧相と言ってしまえるものだが、ミライヤはなんとも女性らしい身体だ。
女として、これは……負けているのではないか?
「……ミライヤ、今度料理教えて」
「え? は、はい」
『ジジ……』
落ち込むノアリのお願いに、ミライヤがうなずいた時だった……どこからともなく、音が、聞こえた。
音ではない……声だ。
「? なんの放送かしら」
これは、この国に住む者なら誰でも知っている放送通信だ。音を発する魔石をあちこちに設置し、声を国中に伝送し届ける……国中に届く、放送。
ちなみに、魔石にはエルフ族の魔力が使われているため、魔力封じの結界内では、使用できなかったものだ。
『これは、緊急の放送である。この内容には虚偽は一切含まれていない、すべて真実である。ゆえに、国中のパニックが予想されるが、どうか落ち着いて聞くように』
「……物々しい、放送ですね」
ミライヤの言うように、その言葉の内容は、どうにも堅苦しい。それに、その声もどこか硬い。
いきなりの放送に、みな手を止めて、放送に聞き入る。
その、内容とは……
『先ほど、『勇者』ガラド・フォン・ライオスの息子ヤークワード・フォン・ライオスを、『勇者』ガラド・フォン・ライオス殺害の容疑で、逮捕した。繰り返す、先ほど、『勇者』ガラド・フォン・ライオスの息子ヤークワード・フォン・ライオスを…………』
「………………は?」
唐突な、その内容に……無機質な魔石から発せられる、声に……
残された者たちは、ただただ、固まって聞くことしか、できなかった……
魔族による、襲撃……それから、数日が経った。
国中を巻き込むほどの被害が出たとはいえ、人的被害はほとんどなかった。今や国中が、国の復興に動いている。
今はひとりでも多くの、人手が欲しい……ノアリも、積極的に復興に協力していた。額に流れる汗を、拭う。
「お疲れ、ノアリちゃん」
「女の子なのによく働くねぇ」
「これくらいどうってことないわよ」
男手が力仕事に動いている中で、ノアリもそちらに参加していた。
元々、料理作りとかそういいたことは苦手な彼女は、体を動かすことを選んだ。
その理由は、他にもある。
「よっ、と」
「おぉ」
自分より倍は大きい木材を、片手で持ち上げる。これは、日々の剣の修行によるもの……だけでは、ない。
竜族の血が覚醒し、身体能力が格段に向上した。その結果、大の大人でも持ち上げられないようなものを軽々と持ち上げることが出来るようになったのだ。
「相変わらず惚れ惚れするほどの力だなぁ」
「あっはは……」
ノアリは、自分に竜族の血が流れていることを、自ら明かしていない。なにか聞かれれば、隠さず応えるつもりではあるが……
学園でのノアリの、竜人としての姿を見た者もいるだろう。が、特になにも言われない。
今は、みんな国のことで手いっぱいなのだ。
「よい、しょ」
男でも数人がかりのものをひとりで運ぶなど、たとえできても他の女子はしたがらないだろう。なにせ、女の子らしい姿とは言えない。
だが、別にノアリはそんなこと、気にしない。女の子らしく、みんなから見られなくても……ただひとりから、そう見られていれば……
「っと。そういえば、ヤークはどこに行ったのかしら」
それぞれができることを、各地でやっている。なので、誰がどこにいるなんていちいち把握してはいないが……
どうしても、目で捜してしまう。
「ノアリ様ー!」
「! ミライヤ」
そんなノアリの下へ、見知った顔が駆けてくる。ミライヤだ。
彼女はノアリの正面に止まり、肩で息をする。
「ノアリ様、これどうぞ」
「これ……おにぎり?」
「ノアリ様、あんまり休んでないでしょう? なので……」
差し出されたおにぎりを目にするや、ノアリの腹からくぅ……と音が鳴る。
どうやら、腹が空いていたらしい……ノアリは赤面しつつ、おにぎりを受け取る。
「あ、はは、ありがとう。なんか、この体あんまりお腹空かないみたいで」
「今音鳴ってましたよね?」
「ぐ……やっぱり聞こえてたか」
「ふふ」
少し休憩を貰い、2人は木陰に移動して、座る。
ぱくりと、おにぎりを一口。うん、おいしい。
「はぁ……なんだか、久しぶりにゆっくりしている気がするわ」
「えぇ、そうですね」
考えてみれば……この半年、いろいろなことがあった。
エルフ族の始まりの王だというシン・セイメイと名乗るエルフ族と戦ったり、この国の第一王子が何者かに殺されたり……そして、魔族の襲撃だ。
シュベルト・フラ・ゲルドは友人とも言える距離感にいた……その死の悲しみが、半年で和らぐかといえば、そんなことはなかった。
そんな、国中がドタバタしている時に、今回の魔族襲撃だ……ようやく、一息入れられるといったところに。
「……これから、どうなっちゃうんですかね」
「ミライヤ?」
ふと、隣のミライヤが呟く。もう結界の張られていない、青い空を見上げて……誰に言うでもなく。
本当は、自分でも気づかずに言ったのではないかというほど、小さな声。しかし、ノアリには聞こえていた。
「……これからどうなるかなんて、誰もわからないわ」
「……」
「いろんなことがありすぎたもんね」
思い出されるのは、『魔導書』事件。その事件で、ミライヤは両親を殺された……それから、まだ1年と半年だ。傷も癒えていないはずだ。
だというのに、こうして国のためにと、身を削ってくれている。
……両親の件、友人の件、そしてミライヤ本人には関係なくとも、友人のエルフの故郷や仲間の件……短期間でこれだけのことが起きれば、不安になって当然だ。
「これからも、なにがあるかなんてわからない。不安で仕方ないかもしれない。私だって…………でも……大丈夫。ミライヤのことは、私が守るから」
「ノアリ様……」
「あ、あと一応ヤークもね!」
にひひ、とノアリは笑う。少しでも、ミライヤから不安を遠ざけるように。
とはいえ、言葉だけで言うのは簡単だ。行動でも示したいが……一番いいのは、もうなにも起こらないことが、そう、一番……
「っぷはぁ、ごちそうさま! おにぎりありがとうね、おいしかった! お茶も!」
「いえ、お気に召してくれたならよかったです!」
「しっかしおにぎりひとつでもここまでおいしくなるとか……さてはヤークの胃袋狙ってるな?」
「そ、そんなことは……」
「あははは……は……」
そこで、ノアリは気づく。自分は料理が苦手だが、ミライヤは得意だ。
それに、身体つきだって……自分は貧相と言ってしまえるものだが、ミライヤはなんとも女性らしい身体だ。
女として、これは……負けているのではないか?
「……ミライヤ、今度料理教えて」
「え? は、はい」
『ジジ……』
落ち込むノアリのお願いに、ミライヤがうなずいた時だった……どこからともなく、音が、聞こえた。
音ではない……声だ。
「? なんの放送かしら」
これは、この国に住む者なら誰でも知っている放送通信だ。音を発する魔石をあちこちに設置し、声を国中に伝送し届ける……国中に届く、放送。
ちなみに、魔石にはエルフ族の魔力が使われているため、魔力封じの結界内では、使用できなかったものだ。
『これは、緊急の放送である。この内容には虚偽は一切含まれていない、すべて真実である。ゆえに、国中のパニックが予想されるが、どうか落ち着いて聞くように』
「……物々しい、放送ですね」
ミライヤの言うように、その言葉の内容は、どうにも堅苦しい。それに、その声もどこか硬い。
いきなりの放送に、みな手を止めて、放送に聞き入る。
その、内容とは……
『先ほど、『勇者』ガラド・フォン・ライオスの息子ヤークワード・フォン・ライオスを、『勇者』ガラド・フォン・ライオス殺害の容疑で、逮捕した。繰り返す、先ほど、『勇者』ガラド・フォン・ライオスの息子ヤークワード・フォン・ライオスを…………』
「………………は?」
唐突な、その内容に……無機質な魔石から発せられる、声に……
残された者たちは、ただただ、固まって聞くことしか、できなかった……
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