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第8章 奪還の戦い
2人の少女
しおりを挟むゲルド王国第一王子……いや、元第一王子、シュベルト・フラ・ゲルド。彼の侍女であったのが、リエナという少女だ。
元は平民の出だ。だが、その実力の高さから王族の侍女を務めることになった。
現在、彼女の立場は平民でもなければ、貴族でも、まして王族でもない。それを、本人が一番良くわかっている。
第一王子の侍女だった。だが、それももう昔の話。今は、その肩書きすらないのだ。
「私が、ここに来た理由ですが……来た、というより、元々この付近にいまして」
「ふむふむ」
「アンジェリーナ様と一緒だったんです。そうしたら、突然学園の一室が爆発して……気になって、アンジェリーナ様は正門、私は裏門に来たわけです」
リエナは、自分がここにいる理由を淡々と語る。冷静な人がいると、自分も冷静になれるものだ。
彼女がここにいる理由はわかった。ヤークワードを助けに来た、という理由ではないようだが、そもそも自分たちが彼がここにいるのだって、ヤネッサのおかげでわかった。
彼女は、ヤークワードはこの学園に捕らえられていることを、おそらく知らない。
「……アンジェリーナ様も……」
リエナの言葉から、正門にはアンジェリーナがいることがわかった。となると……
ノアリたちと、合流していないだろうか。そもそも人が消えたこの空間で、会うことができるのかもわからないが……
なんとなく、一緒にいるような、気がする。
「では、質問を返しますが……なぜ、あなたはここに? そういう質問をしてきたということは、わけもなくここにいるわけじゃないでしょう」
今度は、先ほどの質問を返される形で、ミライヤに問いかけられる。
先ほどの質問……なぜここに、というものを聞いた時点で、ミライヤが目的を持ってこの場に訪れたことを表している。
でなければ、たまたまここで会っただけで、それ以上の反応はしないはずだから。
「それは……」
そこで、ミライヤは口ごもる。果たして、自分がここにいる理由を正直に、話してもいいものだろうか。
リエナは、ここにヤークワードが捕らえられていることは知らない。教えれば、助けを求めれば、協力してくれるだろうが……巻き込んで、いいのだろうか。
かといって、この場で嘘をつくのも、どうだろう。いい理由が思いつかないし、そもそもミライヤはそういうのは苦手だ。
「ミライヤさん?」
「……実は」
考えた結果……ミライヤは、正直に話すことにした。
嘘をつくということは、後ろめたいから……後ろめたいことなんて、なにもない。それに、これまで共に過ごしてきた仲間に、嘘なんてつきたくない。
「……そういう、わけで」
「そうですか……ヤークワード様が」
話を終え、ミライヤはほっと一息。あくまで、主観ではあるが……話した。
ヤークワードが捕らえられたのは罠にハメられたこと、彼はここに捕まっていること、正門と裏門に別れて学園に侵入するつもりだったこと、そして急にアンジーらが消えてしまったこと。
これらを簡潔に。それを聞いたリエナは、学園を見上げる。
「では……助けなくては、いけませんね」
迷いなく、そう言った。
「……いいん、ですか?」
「もちろん。私は、あなたたちほどヤークワード様と接しているわけではないけれど……彼が、そんなことをする人間だとは思えません」
リエナが、ヤークワードと2人きりで話したことは、ない。いつだって、シュベルトを通じて話したり、見ていただけだ。
それでも、わかる。その人の、人柄くらい。
なにより……
「シュベルト様の、お友達ですから……」
「リエナ……」
「今まで、シュベルト様があんなにも心を許した相手は、見たことがありません。同性だから、というのもあったのか……アンジェリーナ様や私にも、見せない顔を見せていた」
浮かべるのは、在りし日を思い出すかのような、懐かしむ表情。それは、彼が……リエナが仕えるべき彼が、生きていたときのことを、思い出しているのだろう。
おそらくリエナは、シュベルトのことを、主人として以上に想っていた。今となっては、その真偽は本人に聞こうとは、思わない。
だけど、ひとりの男性を想う気持ちというのは、ミライヤにもわかるつもりだ。
「協力、させて」
想い人の、友達……リエナにとってはきっと、それだけで充分なのだ。
強い眼差しを受け、ミライヤは、大きくうなずいた。
「こちらこそ、お願い、します」
「ふふ」
ミライヤとリエナ、2人の少女は、固く握手を交わす。さっきまでひとりで心細かったのが、今は嘘のようだ。
そして2人は、共に同じ場所を……ヤークワードが捕らえられている、騎士学園へと視線を向ける。
「では、慎重に、いきましょう」
「はい」
今のところ、見張りのような存在はいない。今のうちだ。
ミライヤとリエナは、お互いに小さくうなずきあってから……あまり利用したことのない、裏門へと歩みを進めた。
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