復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第8章 奪還の戦い

見えない敵の狙撃

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「はぁ、はぁ……」


 ドサッ……


「! ノアリ!?」

「ノアリさん!?」


 崩れ落ちる……その音に、前方を歩いていたヤネッサとアンジェリーナが、振り返る。

 そこには、うつ伏せに倒れたノアリの姿があった。それも……


「やっ、あれ……ち、血が……!?」


 流れ出ていく血は、床を赤く染めていく。アンジェリーナが驚愕するのも、無理ない話だ。

 固まる彼女の横で、しかしヤネッサは即座に動いた。


「アンジェ! 周囲を警戒して!」

「…………」

「アンジェ!!」

「! あ、は、はい!」


 ヤネッサはノアリをゆっくりと、仰向けにする。胸元から血が出ている。

 胸元から、流れる血……傷口が、ある。こんな傷、先ほどまでは当然なかったはずだ。

 この僅かな時間の間に、できた傷。自然にできるわけがない。だとしたら……

 誰かに狙われ、狙撃された……!?


「アンジェも、近くに来て!」

「は、はい!」


 ヤネッサは即座に、魔法で自分たちを覆うように防壁を張る。これで、どこから狙撃されたとしても問題はない。

 問題は、ノアリ。撃たれた傷口からはなおも血が流れており、一刻を争う。

 幸い、まだ息はしている。


「あぁ、ノアリさん……!」

「大丈夫、助ける!」


 ヤネッサはノアリの胸元に手をかざし、己の魔力を集中。傷口を塞ぐべく、回復魔法をかける。

 とはいえ、ただでさえ防壁の魔法を張っている状態だ。動員する魔力も限られる……回復の時間は、遅くなってしまう。

 ヤネッサは集中し、魔力をこめる。


「……誰も、いない……」


 そうつぶやくアンジェリーナの声は、震えている。当然だろう、謎の攻撃がノアリを襲ったのだ。見えない敵が、潜んでいる。

 ……攻撃、本当にそうだろうか。ノアリが何者かに攻撃されたとして、それはこの学園の教員であることは間違いないだろう。

 彼らが、ヤークワードを取り返されるのを防ぐのはわかる。そのため自分たち侵入者を排除しようとするのも、まあわかる。

 だが、曲がりなりにもノアリはこの学園の生徒だ。それを、こんな命を危険に晒すようなことまでして、奪還を防ごうとするだろうか。


「それとも、そこまでしてヤークを取られたくないの……?」


 その答えは、今はここにはない。いや、考えても仕方のないことだ。

 今は、ただノアリのことを、治す。それだけを考えろ。


「血は、止まった。次は……」


 まずは血を止め、傷口を塞ぎ、そして失われた体力を回復させる。弾が残っているので、体内から取り出す。なんだろう、この妙な感じ。

 今のヤネッサでは、失われた血までは取り戻せないが……これで、一命を取り留めることは、可能だ。


「アンジェ、周囲に変わったことはない?」

「変わったこと、と言われましても……特には、見当たらないかと」


 この学園の生徒ではないヤネッサには、普段の学園と今の学園で違ったところがあったとしても、わからない。

 だから、ノアリと同じくこの学園の生徒であるアンジェリーナに、注意深く観察してもらう。


「ぅ……」

「ノアリ!」


 小さく漏れる声が、ノアリの意識が戻ったことを教えてくれる。よかった……ほっと、一安心。

 それにしても、ノアリを襲った謎の攻撃は、あれ以降なにも仕掛けてこない。ヤネッサが魔力防壁を張っているから、手が出せないのだろうか?

 ……だとしたら、ここから移動するために防壁を解いた瞬間、また攻撃される可能性がある。


「姿が見えない分、厄介だ……」


 もしも相手が、同じエルフ族なら、ヤネッサにもその位置がわかっただろう。エルフ族は、同族の気配がわかるのだ。

 だが、そうはできないということは……敵は、人間。それも、ノアリを一撃で意識不明にするほどの、実力を持っている。


「ヤネッサ……もう、大丈夫だから」

「無理しないで、ノアリ」

「ありがとう。でも、大丈夫」


 起き上がるノアリは、全快とは言えない。それでも、あまり魔力を消費させたくない……それが、ノアリの気持ちだ。

 血は止まった。傷口も塞がった。じゅうぶんすぎるほどだ。


「ごめん、油断した」

「ううん」


 謝罪するノアリだが、ヤネッサは気にすることはないと首を振る。

 自分だって、油断していたわけではない。なのに、ノアリが倒れるその時まで、なんの気配も、ましてや攻撃音も聞こえなかった。


「……あれ?」


 そこまで考えて、ヤネッサは思い至る。弾丸がある以上、ノアリを襲ったのは狙撃に間違いない……

 ならばなぜ、ただの狙撃で、ノアリはダメージを負った? それも、致命傷となるほどの。

 ノアリの体は、今や竜族の血が混じり合い、常人以上の硬さになっているらしい。純粋な竜族ではないが、竜族と人族の中間……竜人と呼ぶべき存在へ。

 そんなノアリに、ただの弾丸が通用するか? 竜族に近い体にダメージを与えるには……それこそ、魔力の込められた攻撃でもないと……


「ぁ……」


 考えて考えて考えて……気づいてしまった。気づいては、いけないことに……

 ヤネッサは、先ほどノアリの体内から抜いた弾丸を、見る。先ほど、感じた妙な気配……なんで、気づかなかった。いや、なんで、気づいた。

 弾丸を、そっと手に取る。


「あ、あぁ……」

「ヤネッサ?」


 わかった、わかってしまった……手に取り、直接触れたことで、疑念は確信へと変わる。

 ノアリに致命傷を与えた弾丸、弾丸から感じる妙な気配、そして……手に触れ、感じた違和感。

 こんなことが、あっていいのか。ヤネッサの口から漏れるのは、もはや言葉ともならないもの。

 だって、これは……


「あぁあああぁああ…………!!」


 ……この弾丸に使われているのは、同胞エルフぞくの血肉なのだから。
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