257 / 307
第8章 奪還の戦い
逃げ回るだけじゃなくて
しおりを挟む「見つけたぞ、こっちだ!」
「ひゃぁあああああああ!」
ミライヤ、リエナ。この2人は現在、大勢の教師たちに追われていた。
慎重に移動していたはずなのだが、やはり完璧に身を隠すなんて不可能な話で。結果として、こうして追われてしまっているわけだ。
「待て、待ちなさい!」
「くそ、あの生徒は確か平民の……足速いな!」
「止まりなさい! 悪いようにはしないから!」
「無理ですぅううううう!」
ここで自分が捕まれば、ここに来た目的を聞かれるだろう。なにをされても吐かない自信はある、とは言えないし、ノアリたちにも迷惑がかかる。
ここは、絶対に逃げ切らなければならない。
……でも、どこへ?
「ミライヤさん、こう目的もなく走り回っていては……」
「でも、逃げ回るしかないじゃないですかぁ!」
本当なら、こうやって逃げ回ってしまうこと自体、悪手だ。間違って、ノアリたちと合流してしまったら目も当てられない。
かといって、どこに行くか考える時間など、ない。逃げ回るので精一杯だ。
「あ、あれ? なんだか、人数が、減っている、ような……」
「半分ほどは、途中別れました。おそらく、正門と爆発した部屋に向かったのでしょう」
せっかくなら、全員そっちに行ってくれればいいのに……それはさすがに、都合が良すぎる問題らしい。
最初に比べて半数以上は減っているが、それでもこの広い廊下で対抗するには2人だけでは心許ない。
「こ、こっち!」
曲がり角を、曲がる。このまま、ずっと逃げ続けているわけにもいくまい。
こうなれば、一か八かだ。曲がった先は、一本道……それに、今まで通った道よりも、若干狭い。
一本道で、後ろに逃げ場がないのなら。ミライヤの自身の居合いが活かせる、かっこうの舞台だ。
「リエナさん、私、やります!」
「や、やる?」
曲がり、ある程度進んだところで足を止める。そして、体を反転させて……
姿勢を低く、腰の剣に手を添える。意識を集中させ、己の奥に眠る、鬼の血を感じ取る……ドクンドクンと、鼓動が聞こえる。
「み、ミライヤさん……」
バチバチ……と、体から迸る電撃に、リエナは言葉を失う。これは一度、見たことがある。
セイメイとの戦いの際、彼にふっ飛ばされたミライヤを、リエナは追った。そこで、起き上がったミライヤが、目にも止まらぬ速さで移動した姿を、見た。
それに、間近で見てわかる……ミライヤの額から、なにか、白く輝く……まるで、角のような……
「いきます!」
居合いの体勢を保ったまま、瞬きの間にその場からミライヤが消える。そこに残ったのは、バチバチと弾けるように小さな電撃のみ。
それに目を奪われていたためだろうか。リエナが、視線を動かしたときには、すでに事が始まっていた。
一本道に伸びる廊下、その先にいる教師たちが、次々と倒れていく。ミライヤが過ぎたであろう場所に音を残して、ならぬ雷を残して。
元々、ミライヤの居合いは一級品だと、ヤークワードとノアリは太鼓判を押していた。そこに、覚醒した鬼の力が合わされば、それを防ぐ術はないだろう。
……普通に考えるなら。
ガギンッ
「っ!」
目にも止まらぬ速さで振るわれる斬撃……しかし、ふいにそれが、鋭い音を立てて受け止められた。
自身の剣撃が、誰よりも強いと自惚れるわけではない。それでも、自身が振るう斬撃を、それも鬼の力を覚醒した状態で止められるのは、初めのこと。
ミライヤは、目を見開いた。
「やはり、筋はいい……けれど、動きが直線的すぎる」
ミライヤの剣を止めたのは、男性教師のひとり。
雷纏いし剣を、しっかりと受け止めていた。
「この一直線の廊下なら、我々の逃げ場がないと思ったのだろうが……それは、逆も同じことだ」
「!」
「その居合いは速いが、一直線にしか来ないとわかっているのなら、対処できる」
盲点だった、この地形が自分の弱点にもなりうることに、気づいていなかった。
来る場所がわかれば対処できる。口では簡単でも、実行するのは難しい。それをできるとは、さすがは騎士学園の教師だろう。
この地形では、雷を足場に、動き回ることもできない。
「目的はわかっている。おとなしく捕まれば痛い思いは……」
「えい!」
「ぅっ……」
警告にも似た言葉を吐く教師は、しかしその瞬間、その場に倒れた。ミライヤは、なにもしていない。
倒れた教師の後ろには……リエナが、いた。
「隙だらけです」
「リエナさん……」
「安心してください、峰打ちです」
どうやら、ミライヤに気を取られているうちに、リエナが背後に回り倒してくれていたようだ。
おかげで、追ってきていた教師たちは一応倒せたわけだが……
「行きましょう、すぐに起き上がってくるかも」
「は、はい!」
うなずき、リエナに続いてミライヤは走る。やはり、誰化一緒にいてくれてよかった。ひとりでは、すでに捕まっていただろう。
そうして、走っていく2人の眼前に……またも、人影が現れる。
それは……
「あれは……」
「こ、校長先生ー!!?」
「…………おや」
----------
校長が、去った後の部屋で……ヤークワードは、力なくうつむいていた。もはや、動く気配もない。
そんな、彼を……窓の外から見つめる影が、ひとつ。
「……見つけました」
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!
木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。
胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。
けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。
勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに……
『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。
子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。
逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。
時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。
これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる