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第8章 奪還の戦い
新たなエルフ族
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「これ、は……」
ノアリ、ヤネッサ、アンジェリーナ……この3人は、現在動けないでいた。
というのも、怪我を負ったヤネッサの応急処置は済んだが、彼女の意識を待っている間……学園内に残っていた教師たちに、囲まれてしまったためだ。
当然、その中にはノアリやアンジェリーナの見知った顔もいた。そのため、こちらから呼びかけてなんとか説得しようとしたのだが……
その声を聞いてもらえることはなく。敵となった教師全員を相手にすることになった。はずだったのだが……
「か、は……」
「……こんなもの、ですか」
突如として表れた、黒いローブを羽織った人物が乱入してきて、瞬く間に教師たちを倒してしまった。
騎士学園の教師たちは、頭脳はもちろん実力も相応の者が、多く在籍している。それを一瞬で倒してしまったこの人物は、ただ者ではない。
それともうひとつ、教師たちが手も足も出なかった理由……
「名のある学園の教員と聞いて、期待はしていたのですが……」
「……あなた、エルフ族?」
「ん?」
ぶつぶつとつぶやいていたローブは、ノアリの方へと視線を向けた。
彼あるいは彼女は、魔法を駆使していた。それが、教師陣を翻弄した原因のひとつだ。また、魔法を扱える教師がいなかったのも、要因だ。
魔法の気配……というのは、本来魔力を感じ取れる種族にかわからない。だがノアリはアンジーとヤネッサと長く接したからか、それとも竜族の血が覚醒したからか……
魔力を、感じ取ることが出来るように、なっていた。
「顔を隠していても、魔力を使えばバレますか」
「あなたは……」
「おっと、そんなに警戒はしないでください」
明確な敵意をノアリから向けられても、ローブは慌てることなく手を振る。
「あなた方と私の目的は一致しています。ここで敵対する理由は、ないはずですよ」
「目的……ヤークワードさんの、救出?」
「じゃあ、あんたはセイメイの関係者?」
「……王を呼び捨てるなど不敬ですが、今は不問に処しましょう」
どうやら、このローブはセイメイによほどの忠誠を誓っているらしい。
ノアリにはもちろん、アンジーとヤネッサもセイメイに対して忠誠のようなものは見られなかったが……
クロードといい、このローブといい。エルフ族、いや命族の歴史を知る者にとっては、よほど尊敬に当たる人物のようだ。
「……失礼、あなたの王をバカにするつもりはないの」
咳払いしながら、心にもないことをノアリは言う。
「とりあえず、ここでは味方ってことでいいのよね。なら、一緒に行動しない?」
「私が誰かと行動を共にするなら、それは王と以外にはありえません」
紳士な口調だが、相当に頑固でもあるようだ。
教師陣を一掃したローブがいれば、この先の移動も楽になると思ったのだが……それだけの力を持っているローブにとっては、共に行動することはノアリたちがむしろ足手まといなのだろう。
「な、ならせめて! 彼女の、ヤネッサさんの怪我を治してもらえませんか!? 彼女もエルフ族です!」
「……」
涙ながらのアンジェリーナの訴えに、その場を去ろうとしていたローブは足を止める。
そして、ゆっくり振り向いてから……
「……数少ない同胞だ、ここで死なれても困る」
と、自ら近づいてきてくれた。
エルフ族は、元々昔に人間族に迫害され、数は少ない。それが、魔族によりルオールの森林を燃やされたことで、残された数も激減した。
エルフ族のほとんどは、ルオールの森林に住んでいた者も聞く。このローブだって、もしかしたら家族が住んでいたかもしれない。
「……あまり傷は、深くはないようだ。だが……」
肩への狙撃、弾は貫通している。傷口に手をかざし、ローブは魔力を込める。
傷はみるみるうちに治っていく。やはり、相当に強い魔力を持っている。
しかし、その表情は硬い。顔は見えないはずなのに、そう感じた。
「あの……」
「この傷……いや、傷を負わせた弾。これには、エルフ族の血肉が使われている」
「えっ……」
怒りを噛みしめるようなその台詞に、ノアリとアンジェリーナの頭が真っ白になった。
エルフ族の、血肉……それは、どういう意味か。ここで、その意味を問うことほど、残酷なこともないだろう。
「じゃあさっき、ヤネッサが暴れてたのって……」
こちらの声が届かないほどに、暴走したヤネッサ。それは、弾の秘密に気付いたからではないか。
それに、だ。エルフ族の血肉を使って作られた弾丸……詳細こそわからないし知りたくもないが、ただの弾丸では傷つけられないはずの、ノアリの胸を、貫いた理由。
特別なものだとわかれば、説明がつく。
「ぅ……」
「ヤネッサ!」
小さく漏れる声は、ヤネッサが目覚めたことを示していた。
傷はそれほど深くはなかった。暴走したことによる気絶、が原因の大半だ。
「ノアリ……アンジェ……わたし……」
「よかった、無事で……」
「この方が、助けてくれたんですよ!」
ぼーっとした様子のヤネッサは、アンジェリーナが指さす先へと視線を向ける。
そこには、治療が済み早々に去ろうとしていた、ローブの姿があった。
「別に、私は助けたつもりはない」
「いやいや、ヤネッサのことももちろんだし、先生たちに囲まれた時だって、結果的には助けられたわけだし」
「なれなれしいですよ」
気にくわないセイメイに忠誠を誓う人物だが、結果的に助けられたのだ。本人にそのつもりがなくとも。
気絶していたヤネッサには、詳細はわかるまい。だが、ノアリとアンジェリーナの様子から、恩人であることはわかったのだろう。
「そっか……助けてくれて、ありがとね」
だから、お礼を言うのは当然だ。弱々しくも、ヤネッサは笑顔を向けた。
それを受けた、ローブは……
「っ……気を付けることです、彼を捕らえている施設の警備が、この程度であるはずがありませんから」
「あ」
さっと顔をそらして、口早に、そして消えるように去ってしまった。
その際、ローブから覗いた長い耳が赤くなっていることを、ノアリは見逃さなかった。
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