復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第8章 奪還の戦い

己の境遇

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 これまで、不思議に思っていた出来事が……胸の中に引っかかっていたことが、全部、解き明かされていくような感覚があった。

 今、拘束されていなければこの胸を掻きむしってしまうであろう……それほどに、彼の心中は渦巻いていた。


「……やけに、おとなしくなりましたな」


 その様子を見て、ヤークワードの前に立つ校長は、静かに口を開いた。

 先ほどまで、ぶつぶつとなにかを言っていた男がうつむいたまま、黙りこくってしまったのだ。

 いっちょ前にショックでも受けているのか。それとも、そう見せかけてここから脱出する算段でも立てているのか。


「……聞いても、いいですか」

「なんでしょう?」


 ポツリと、ヤークワードの口から声が漏れる。


「俺が、魔王の生まれ変わりだって……いつから、疑ってたんですか?」

「……言ったでしょう、確信を持ったのは先日の、魔族襲撃のときですよ。
 今思えば、あの魔族を手引きしたのは……」

「そんなわけ、ないでしょう」


 つまりは、それまでは疑っていたにしろ、確信までは持てていなかったということだ。

 魔族を手引きした……そう疑われても仕方ないだろうが、それはない。それに、魔王の生まれ変わりだって、完全に受け入れられたわけではないのに。


「じゃあ……ガラド……父上は、それを知ってたんですか?」

「……さて……彼の心の内は、誰にもわからないでしょう。
 あぁいや、"癒しの巫女"なら、もしかしたら」


 もしもガラドが、自分の息子が魔王の生まれ変わりだとして……どうしただろうか。ミーロは、どうしただろうか。

 かつての仲間であったライヤ、そして倒したはずの魔王。

 その、どちらの魂も持っていると知っていたら、いったいどうしただろうか。


「…………」


 考えたところで、意味はない。すでにガラドはこの世におらず、ミーロも捕まってしまったヤークワードにどんな感情を抱いていることか。

 それに、ノアリだって、ミライヤだって。今回の件で、ヤークワードに愛想を尽かしていることだろう。

 ガラド殺しは冤罪だが、元々殺そうとしていたことに違いはない。いや、もしかしたらヤークワードが気を失っている間、内にある魔王の魂がガラドを殺したのかも。

 本当に、記憶にないだけで、ヤークワードが犯人の可能性だってある。


「……そんなの、あんまりだ……」


 ポツリと呟いた言葉は、静寂な部屋にあっても誰の耳に届くこともない。

 ガラドは、転生前の自分、ライヤの仇だ。自分を殺し、その後のうのうと生きているあの男に、必ずこの手で復讐を誓った。

 だが、その覚悟は、あっさりと……自分ではないなにかの手によって、奪われた。

 魔王であっても、そうでなくても。ヤークワードではないことに変わりはないのだから。


「それにしても、魔王もわざわざ勇者の子供に転生するとは。気づかれない自信でもあったのか、よほど切羽詰まっていたのか」


 そう言葉を漏らす校長は、おそらく転生魔術のことに関しては深く知らないのだろう。そして、ヤークワードが転生する前、何者であったのかも。

 魔王は消滅する間際に、一番近くにいた一番乗っ取りやすそうな人間……つまりライヤを標的に決めた。

 しかしそのライヤは他ならぬガラドに殺され、結果として、2つの魂が消滅してしまう前に、転生魔術を使い……


「……あれ?」


 そこまで考えて、またも引っかかるものがあることに気づく。ライヤはガラドに殺された、その理由……

 もしも今考えたように、ライヤに魔王が乗り移っていて……それに気づいたガラドが、魔王ごとライヤを殺したということも考えられ……


「いや、ないな」


 そもそも、消滅する魔王がライヤに乗り移ったなんて、どうやったらわかるというのだ。それに、仮にわかったとして、彼らならもっと穏便な解決策を用意できたはずだ。

 理由もわからずに仲間に裏切られたライヤは、たまったものではない。

 それに、ライヤが意識を手放す直前に見た……あの、見せつけるようなガラドとミーロのキス。あれは、ライヤへの当てつけとしか思えない。

 ダメだ、予想外の真実に、頭が混乱している。考えなくてもいいことまで、考えている。


「……む。はい、ゼルジアル」


 うつむき物言わなくなったヤークワードを一瞥し、校長は懐から魔石を取り出す。連絡用の魔石だ、通信が入った模様。

 冷静に応答していく校長を尻目に、ヤークワードの心中は穏やかではない。

 ヤークワードが魔王の生まれ変わりであることがわかった以上、ここに捕まっているのは……表向きは、ガラド殺害の件だろう。でも、本当の理由は……


「わかりました。
 ……失礼、私は少々用事ができたので、これで。おとなしくしていてくださいね。もっとも……」


 その状態では、なにもできないでしょうが……そう言い残し、校長は部屋を出ていく。

 魔力封じの拘束。ヤークワードに魔力を使える自覚がなくとも、魔力を持っているというのならそれだけで有効な手だ。

 以前、魔族が攻めてきたときには魔力封じの結果が張られたが、あれはエルフ族に対してのみ効果を発揮する。魔王の生まれ変わりだというヤークワードに、効果はなかったわけだ。

 この拘束は、種族関係なく力を奪うのだろう。どちらにせよ、今のヤークワードに、抵抗の意志など残ってはいないが。


 ……ひとり残された部屋で、ヤークワードは己の境遇に、打ちひしがれていた。
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