復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第8章 奪還の戦い

ヤークワードと転生魔術のその真実は

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 魔王の、生まれ変わり……校長は、確かにそう告げた。

 それが、いったいなにを意味するのか。伊達や酔狂で口にしていい言葉でないことは、わかっているはずだ。校長の表情も、冗談を言っているようには見えない。

 だからこそ……


「魔王の……生まれ、変わり……?」


 その言葉の、重みを感じる。

 そもそも、魔王とは……文字通り、魔を統べる王。世界を滅ぼすほどの、強大な存在。

 しかし、その魔王は他ならぬヤークワードが、その身が消滅するのを確認している。正確には、転生前の人格、生前のライヤが、ではあるが。

 ……国宝『魔滅剣(ましょうけん)』……魔なる邪悪な存在を消滅させるとされている剣。これにとどめを刺された魔族は、例外なくその存在を消滅させられるものだ。まさに、魔王を滅ぼすためにあるような武器。

 それは、必要でないときには鞘から抜くことができないといういわく付き。実際に、魔王相手以外には抜くことができなかった。


「あのとき、確かに……」


 ぽつりと、ヤークワードの口から漏れる。そうだ、あのとき、確認したのだ。

 ガラドが国宝を使い、魔王を倒した。消滅させた。

 だから、ヤークワードが魔王の生まれ変わりだなんてこと、あるはずが……


「さすがに衝撃が大きいようですね。ですが、思い出してみてください……それが、まったくの戯言でないと、あなた自身がわかっているのでは?」

「なにを……」


 思い出す……なにを。ヤークワードの、これまでの人生を。

 脳裏に、自然と、様々な光景が映し出される……それは、ヤークワード自身が、己を疑問に思った、瞬間のことで。


『あなたからは、かすかにだけど魔法の痕跡がある』


 再会した、元勇者パーティーメンバーであるハーフエルフの、エーネ。彼女は、言っていた。

 もっとも、これは転生魔術の痕跡のことを言っていたのだと……そう、思う。


『我が感じたのは、そうだな……なんて言えばいいか……例えるなら、ヤークの中に、もうひとつ生命体がある、みたいな……』


 初めて会った際、竜族の戦士クルド。彼は、言っていた。

 彼もエーネのように、魔術の痕跡を感じると、言っていた。そして、それとはもっと別に、感じるものがあると、言っていた。


『どうやら、主には面白いものが混じっているようじゃ』

『それに主の中身、なかなかに興味深い』


 いきなり話しかけてきた、命王シン・セイメイ。彼は、言っていた。

 転生魔術の創造者だと言う彼は、同じ転生者であるヤークワードを見抜き……転生魔術についていろいろ話していった。その際に、クルドが言っていたのと似たようなことを、言っていた。


『……おや、まだ、でしたか』

『ふむ……なるほど。どうやら時期を間違えてしまったようですね』


 ゲルド王国に宣戦布告に現れた、魔族。彼は言っていた。

 いきなり、ヤークワードに対して膝を付き、頭まで垂れた。あれが人違いでないとするなら、あの意味するものとは……

 気にかかったのは、彼の台詞。時期を間違えた……それを真面目に受け取るなら、遅かった、もしくは早かったと捉えるべきだろう。

 これが、ヤークワードに対してのもので、彼の前に現れる"時期が早かった"だとするなら……なにが、早いのか。

 ヤークワードには、ひとつ、思い浮かぶものが……いや、忘れられない、言葉がある。


『21年の月日が経った後、我は再び甦る……その時が、楽しみだよ』


 それは、魔王の言葉。『魔滅剣』により消滅する、間際の魔王の言葉。今でも夢に見る、忘れられない言葉。

 あのときは、ただの負け惜しみだと思っていた。だが、様々なピースが集まり、それを組み合わせていったとき……恐ろしい、ことがわかった。


「……まさ、か……」


 『21年の月日』……それは、魔王が消滅してから、あと半年後にやってくるのだから。

 半年後、魔王は復活する……?

 もしも、もしもだ。ヤークワードが魔王の生まれ変わりだと仮定しよう。

 魔術の痕跡も、もうひとつの命の存在も、面白い中身も……全部、つじつまが合ってしまう。

 あの魔族が、魔王の復活を願いヤークワードの前に"半年早く"現れたのだとしたら……その行動にも、つじつまが合ってしまう。

 全部、全部、全部……ヤークワードが感じていた、不可解な言動、行動に、説明がついてしまう。


「いや、でも……そんな……」


 違う違う違う、そんなものは全部、推測だ。確かな証拠なんて、ない。

 あの言葉も、あの行動も、ただたまたま、意味深に捉えてしまっただけのこと。

 第一、魔王は消滅したのだ。それに、魔王が生まれ変わりなんてしていたとして、どうして自分なんかが……


「ぁ……」


 そこまで考えて、今まで、一番引っかかっていたことに気づいてしまった。

 ヤークワードはそもそも、ライヤが転生した姿だ。前提として、ライヤは魔力を扱えない……なのに、なぜ彼は、転生魔術により転生することができたのか。

 自分の手で、ではない。ならば他者の介入があった。人間であるガラドでも、ミーロでも、ヴァルゴスでも。そしてエルフであるエーネでも、ない。

 ならば、誰が……なんの、ために……?


「静かになりましたね。なにか、思い当たることでも?」

「!」


 気づいてしまった、仮定……しかし、どうしてこんなにも、しっくりきてしまうのだ。

 魔王は消滅した。直後にライヤは殺された。その数年後、ヤークワード・フォン・ライオスが生まれた。

 全部、タイミングが、合っている。

 ……魔王が、消滅の間際に、同じく死にゆくライヤに転生魔術を使用して……己も、同じく転生したのだとしたら?

 ライヤの体に……いやこの場合は魂か……に、宿っていたのだとしたら。ライヤの魂が転生した、ヤークワードの魂にも……魔王の、魂が宿っているとしたら。

 今、俺の中には……


「っ……」


 魔王が、いる……その可能性に気づいて、ヤークワードは深く、息を漏らした。
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